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太郎が恋をする頃までには…(栗原美和子)

「私小説」というかたちで、「絶対に結婚しない女」というキャラとして定着してきた自分のこと(その根っこにある母親への対抗意識)、夫との結婚のこと(夫が被差別部落出身であること、それをめぐるやりとり)を書いたもの。

太郎が恋をする頃までには…太郎が恋をする頃までには…
(2008/10)
栗原 美和子

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主人公は「五十嵐今日子」、夫となるのは「海地ハジメ」。ハジメの本名は「海地太郎」。
作中に、タイトルとも重なる詩が置かれている。
▼『タローが恋をする頃までには』

知事と交渉している代表を待つ間
彼は幼いタローを抱き上げていた

…(中略)…
おとなしく抱かれているタローをあやしながら
ひとりが言った
「タローが恋をする頃までには
この壁ぶちやぶって
必ず差別のない世の中にしなくちゃ」

まわりの人が一様にうなずいた
ひとりひとりの大人の胸にずっしりとこたえた
そうだ、この子が恋をする頃までには…

真っ黒に日焼けした顔に
白い歯をのぞかせて彼等は
くりかえし くりかえし つぶやいた

「タローが恋をする頃までには…
タローが恋をする頃までには…」 
(pp.103-104)

故郷で猿まわしを復活させたハジメの父、父とともに猿まわしをしてきたハジメは、あるとき親も仲間も捨てて故郷をはなれ東京へ出た。

「…東京の水を味わったら、地元には戻りたくないって思った。行かなければ知らなかったけど、俺は知ってしまったんだ」
「…東京では、差別されないって」
「ここを離れれば幸せになれると思ったんだ…」(p.157)

今日子とハジメは結婚を前に、お互いの故郷を訪れ、親と会う。
ハジメは何年も絶縁状態だった母と会い、復縁した。
今日子は両親にハジメを紹介する。けれど、ハジメが部落出身であることは打ち明けなかった。「理由はね、余計な心配かけたくないから。ただ、それだけ」(p.178)

二人は届けを出し、結婚する。
そして、数ヶ月後の披露宴を前に今日子はハジメが部落出身であることを両親に打ち明ける。父には理解してもらえた。しかし、母は「絶対にイヤです」「そんなこと絶対に世間に知られたくない」と言い、「親子の縁を切る」と言った。

叫び、泣きじゃくる今日子に母はこう言う。
「本当に大変な問題なの。大した問題だから、あなたもママたちに内緒にしたんでしょ?」
「そんなに泣きじゃくるなんて、おかしいわよ」
「あなたの中にも迷いがあるから、そうやって泣きじゃくるのよ。本気でなんともないと思ってるなら、もっと堂々としてるはずよ」


その後、今日子の母が倒れ、それを一つのきっかけに、今日子とハジメは離婚する。
「この結婚は…あなたが両親に秘密にした時点で成立していなかったんだ」とハジメは告げる。

▼「私は猿まわし芸人です。猿というのは本当に可愛らしい動物で、彼らが立ったりお辞儀したりするだけで、誰もが笑顔になれます。亡くなった私の父は、人々の笑顔が見たくて猿まわしを復興させようと思ったのです。私も父の意思に賛同して猿まわし芸人になりました」
 …(中略)…
「父は亡くなる前に私に言って聞かせてくれました。──人間であれ、猿であれ、ひとつひとつの命は同等に大切なんだ。そしてその生命は、"この世に生まれてきてよかった"と思えるように輝かなくてはならないんだ。生きていること自体が幸福でなければならない。これは理想じゃなくて、現実に保障されなければならないんだよ──」(pp.325-326)


猿まわし芸の復活には、小沢昭一のレコード「日本の放浪芸」の探索もひとつのきっかけとなったらしい。
小沢の『日本の放浪芸』には、こんな箇所がある。
▼猿まわしは、昔正月の祝福芸、祈祷芸でありました。のちには季節に関係なく道端でやったり(バタウチ)、門を付けたり(イッチョウ)。(p.181)

▼訪ねたある猿回しは、自分の子が大道芸人の子とさげすまれる怒りを「七度生れかわって猿回しでみんなを笑わせてやるんだ」と、楠公ばりの決意に転化させていた。(p.198)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在91号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第65回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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