FC2ブログ
 
読んだり、書いたり、編んだり 

遠の眠りの(谷崎由依)

遠の眠りの
谷崎由依『遠の眠りの』集英社

たまたま雑誌「すばる」を読んだからだったか、何がきっかけか忘れてしまったが、「すばる」から生まれた本、という中村佑子さんのweb書評でこの本のことを知った。年明けに、二兎社の公演「私たちは何も知らない」を見たからかもしれない。この本も二兎社の公演も、ちょうど100年ほど前の「青鞜」があった時代の話だ。

この本の舞台は福井の村、主人公の絵子(えこ)は字を読めるようになると何でも読む子どもだった。ひまがあれば本を読みたい。だが、なにごとも男が先、未来のためにと金をかけてもらえて、魚のおかずがつくのは弟ばかりだ。遊びに行きたいと言う弟に、父は「お前は勉強せんならん。偉うならなあかんで」と言うが、女の絵子には母さえ「絵子は女の子なんやで。ほんな勉強なんかせんでもいい」と言うのだ。絵子は食べるために働かねばならぬと言うのだ。

絵子はたまらない。ぼんくらな弟は、なんで自分だけが魚を喰わせてもらってるかも分かっていないのに。
▼小学校を出て以来、この半年以上ずっと考えていたことだ。頭を使い、考えて、それを言葉にするということ。勉強がその道のりならば、それは男にしか許されていない。陸太はあきらかに勉強が嫌いだし、賢いとも思われなかった。でも男だから、それを許される。女は、男の子を産んで育てて、その子の将来に託すようにしか夢を描くことを許されない。そのようにしてしか生きることができない。(p.35)

絵子は言わずにいられない。
▼「かあちゃんなんて、陸太の将来しか楽しみがないんやが。かあちゃんみたいになるんやったら、生きてても仕方ない…」(p.36)

それで、父から打たれ、かあちゃんに謝らんのやったら、出て行け!と追い出された絵子は、村を出る。人絹工場で女工として働いたのを振り出しに、絵子は「青鞜」にも触れ、自立への道を模索する。福井に初めてできた百貨店が少女歌劇団を新たに設けることとなり、絵子はそのお話を書く係となるのだ。

大正の終わり頃から、昭和の戦争に入り、敗戦あたりまでの時代、村と都会のこと、福井と世界のことを重ね、暮らし方の変化も描きながら物語はすすむ。読みはじめるとほとんど一気に読んでしまった。

字を読む女、本を読む女、ものを考える女、主張する女、そんな女が打たれ、厭われ、追われるのは、青鞜の時代もそうだったし、今も変わらない部分があると感じる。今日読んだ、松田青子の『持続可能な魂の利用』でも、つくづくと感じた。

本のタイトルは、絵子が小さいときに教わったというおまじないの一節。
▼「よい初夢が見られるようにっていう、おまじない。ちいさいとき、村の外れに住んでたお婆に教わった。長き夜の、遠の眠りのみな目覚め、波乗り舟の、音のよきかな、って」
 俄に、そのことが思い出された。お婆は村で育ったけれど、飛び出していって、また戻ってきた。ものすごく年寄りというわけでもないのに、言うことが突飛で非常識だから、耄碌していると決めつけられ、村の衆から嫌われていた。けれど子どもには優しかったし、行けば面白いことを教えてくれた。物心つくかつかないかのころ、絵子は和佐とこっそりそこへ通ったものだ。お婆は読み書きを教えてくれたし、屋根の破れた小屋には本が幾つも隠してあった。学問というものをしてきたひとかもしれなかった。都会で女郎をしていたらしいだの、みなは陰口を叩いていたが、ほんとうは別の理由で隠れるように暮らしていたはずだ。それが何かわからないうちに、流行り病で死んでしまった。その小屋も、いまはもうない。遠の眠りの、の歌とともに、そんなあれこれがいっぺんに思い出されてきたのだった。
 「初夢のため、眠るためなのに、なんで、みな目覚め、なんやろう、って」(p.189)

「長き夜の遠の眠りのみな目覚め波乗り舟の音のよきかな」は回文になっている。

*中村佑子 評
沈黙の雲を抜けて
http://subaru.shueisha.co.jp/books/2001_2.html

(2020/04/19了)

ネットではさらに中島京子と斎藤美奈子の書評が出ていた。
*中島京子 評
因習から逃れる「女という難民」
https://allreviews.jp/review/4106
*斎藤美奈子 評
「夜明け前」生き抜いた女性たち
https://book.asahi.com/article/13128330
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://we23randoku.blog.fc2.com/tb.php/6561-417c5585
 
 
プロフィール
 
 

乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
    乱読ブログバナー
本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在93号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第76回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

amazonへリンク

 
 
最新記事
 
 
 
 
最新コメント
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
Google検索
 
 


WWW検索
ブログ内検索
Google
 
 
本棚
 
 
 
 
リンク
 
 
 
 
カウンター
 
 
 
 
RSSリンク
 
 
 
 
月別アーカイブ