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永遠のおでかけ(益田ミリ)

益田ミリ『永遠のおでかけ』毎日新聞出版
益田ミリ『永遠のおでかけ』毎日新聞出版

▼腕時計の針は30分ほど前にとまっていた。そのせいで乗り遅れてしまったのだ。なのに、不思議となんとも思わなかった。もう、父のからだのことを心配しないでよいのだ。心配して泣かなくてもよいのだ。そう思うと、胸のつかえが下りたようだった。東京に着くと、急いでピアノと英会話のレッスンに出かけた。(p.88)

同じ年の生まれで、大阪出身というだけで、益田ミリさんには親近感がある。益田さんが父上を亡くしたときのことを書いているのだと知って、この本を読んだ。本は、叔父上を亡くされた話からはじまる。
遺品整理と相続手続きのための書類の山…さまざまな手続きをしていく間、益田さんは大阪の実家へ戻り、また東京へ帰る。その帰りの新幹線に乗り遅れたという話のここのところを読んで、父が死ぬ間際の頃の、夜中や明け方にぶるぶる震える電話にびくびくしていた時間が終わって、そのことにはホッとしたことを思い出した。

もう心配しなくていい、電話がかかったときに病院に飛んでいくかどうかを悩まなくていい。それでも、夜中や明け方にぶるぶる震えた電話のあの音は思い出したくなくて、私はあれから携帯電話の音はサイレントマナーにしてしまった。あの音はもう聞こえないけれど、記憶のなかでは電話がブーブーと鳴る。

▼心の中に穴があくという比喩があるが、父の死によって、わたしの心の中にも穴があいたようだった。それは大きいものではなく、自分ひとりがするりと降りていけるほどの穴である。のぞいても底は見えず、深さもわからない。
 しばらくは、その穴の前に立っただけで悲しいのである。それは、思い出の穴だった。穴のまわりに侵入防止の柵があり、とても中には入って行かれなかった。
 けれども、しばらくすると、侵入防止柵を越え、穴の中のはしごを降りることができる。
 あんなこともあった、こんなこともあった。一段一段降りながら、懐かしみ、あるいは、後悔する。
 涙が込み上げてくる手前で急いで階段を上がる。その繰り返しとともに、少しずつ深く降りて、しばらく穴の中でじっとしていられるようになっている。
 「あのときのお父さんは、やっぱり許せん!」
 などと、腹を立てることすらあるのだった。(pp.154-155)

益田さんは父上を秋に亡くしたらしい。夏は父が弱っていく日々だった。夏が終わると、父が逝った秋がくる。

(2018/8/13了)

*誤字:
p.127 絵本作家の長谷川善文さん → 【義】文
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在91号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第64回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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