FC2ブログ
 
読んだり、書いたり、編んだり 

和子の部屋―小説家のための人生相談(阿部和重)

阿部和重『和子の部屋―小説家のための人生相談』朝日新聞出版
阿部和重『和子の部屋―小説家のための人生相談』朝日新聞出版

どこからどうやってこの本にたどりついたか忘れてしまったが、阿部和重が「和子」になって、同業の小説家たちの人生相談に答える、という内容。母の名と同じ「和子」というところに、ヴァージニア・ウルフの「私ひとりの部屋」が母になったみたいなタイトルだと感じた。しかも、母はそのむかし、小説家になりたいと思っていたし。

その母が、中学生の頃に、父(私にとっては祖父)から小説家になることを反対されたというエピソードを思い出して笑ってしまったのがここ。金原ひとみとの相談部分だ。

金原 それはともかく、作家であることで、人として軽んじられていると感じることってありませんか? つまり、作家であればハッピーじゃなくてもいい、むしろ不幸であるほうがいい、憂鬱であってしかるべき、といったイメージが蔓延していて。私はそれには断固、反対していきたいです。
阿部 作家は心中したり結核で死んだりする、不幸な存在だというのは、偏見だものね。日本近代文学が生んできた悪しき幻想。
金原 私は、作家こそしあわせであると言いたいんです。
阿部 いま、すごくいいことをおっしゃった! 少なくとも出版社は、出版不況と言われるいまこそ、その前提に立つべきですよ。優れた人材がこの業界に入ってこないことは、いっそう将来を先細りさせます。作家は貧乏で不幸であるというイメージを、いま払拭させないと、未来はもっと暗くなる。
金原 そういうイメージがあると、暗くて不幸な人しか作家を目指さなくなってしまうし、作家自身がイメージにからめとられて、体現してしまう部分があるでしょう。ここは絶ち切っていきたい。
(pp.117-118)

母の昔の作文「私を語る─その生い立ち─」(大阪市立**中学校2年5組たけのこ編集部「文集たけのこ」昭和29年3月24日発行)にはこんな風に書いてある(この作文は、2012年8月発行の「ブックマーク」78号の誌面で紹介した)。

疎開先の丹後での小学校時代、母は五年生で自分の将来を決めていた。

 五年生で忘れてはならないのは、自分の将来をはっきり決めたことである。詩人や小説家はどんな苦労をするかも知らず、小説家になる事を憧れ、又絶対なれる自信もあった。放課後など窓にもたれて詩をつくる時の落ついた和やかな気持。今でもあの頃の詩がなつかしく思い出される。


そして丹後で小学校を卒業して大阪市内へ戻り、中学一年のときのこと。

 私が将来、文芸方面で身を立てるというのに父母が猛烈に反対したことだ。父なんか特にわるく「小説家なんて神経衰弱になって自殺するもんや」とまで云った。しかし私はあまり苦にならなかった。むしろ悩むようになったのは二年になってからである。


二年になってからの悩みはこう綴られる。

 将来の細い計画はたててあるけどそれがあまりにも現実的に思えたり空想的に思えたりする。自分がもし童話作家になるとしたらどうしたらよいだろう。お金があるなら童話ばかり書いても差つかえはないけれどその反対なら何か職業につかなければならない。私自身田舎の小さな学校の教員を希望しているが、私のように成績のむらのある者はなれそうもない。


「小説家なんて神経衰弱になって自殺するもんや」とまで云った祖父は、どんな本を読んでいたのか、あるいはどんな小説家の境遇を思い浮かべていたのか…と今更ながら思う。

(2018/5/29了)

阿部和重『和子の部屋―小説家のための人生相談』朝日新聞出版
阿部和重『和子の部屋―小説家のための人生相談』朝日新聞出版

※あとから、ひょんなことで知ったが、この『和子の部屋』の表紙カバーは、ビートルズのアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のジャケットのパロディになってるようだ。
Genre : 日記 日記
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://we23randoku.blog.fc2.com/tb.php/6468-4634031a
 
 
プロフィール
 
 

乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
    乱読ブログバナー
本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在89号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第54回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

amazonへリンク

 
 
最新記事
 
 
 
 
最新コメント
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
Google検索
 
 


WWW検索
ブログ内検索
Google
 
 
本棚
 
 
 
 
リンク
 
 
 
 
カウンター
 
 
 
 
RSSリンク
 
 
 
 
月別アーカイブ