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ひとが生まれる 五人の日本人の肖像


ひとが生まれる 五人の日本人の肖像
鶴見俊輔
\660
ちくま文庫
1994年

だいぶ前に読んだことのある本(たしか持っていた本)だが、見当たらないので、図書館で借りてきた。目当ての「金子ふみ子 無籍者として生きる」ついでに、他の章も読む。

中浜万次郎、田中正造、横田英子、金子ふみ子、林尹夫[ただお]の5人がとりあげられている。かすかに読んだおぼえがある。

金子ふみ子は、新聞配達や露天商人の手伝い、女中奉公、酒場のてつだいなど仕事を転々としながら、夜の学校に通っていた。ある頃から、夜の学校に行くことがいやになってきたらしい。

▽時間がきても学校に行こうとしないふみ子をあやしんで、友人の鄭が、
 「おや、あなた学校は?」
と注意した。
 「学校? 学校なんてどうだっていいの」
 「どうしてです。あなたは苦学生じゃないんですか」
 「そう。もとは熱心な苦学生で、三度の食事を一度にしても学校は休まなかったのですが、今はそうじゃありません」
 「それはどうしてです」
 「別に理由はありません。ただ、今の社会で偉くなろうとすることに興味を失ったのです」
 「へえ? じゃ、あなたは学校なんかやめてどうするつもりです」
 「そうね。そのことについて今しきりと考えているのです。私はなにかしたいんです。ただ、それがどんなことか、自分にも、わからないんです。が、とにかくそれは、苦学なんかすることじゃないんです。私には、なにかしなければならないことがある。せずにはいられないことがある。そして私は今、それをさがしているんです。」
 自分ひとり家の前の桜の木の根本にうずくまって、遊び友だちが手を繋いで学校に通うのを見送っていたころから、ふみ子は、学問をして偉い人になることをただ一つの目標として生きてきた。いつも学校の先生からいじめられてきたが、自分はその、先生の教えたと同じりそうのもとで生きてきたことになる。その理想が急に色あせた。
 「私は今、はっきりとわかった。今の世では、苦学なんかして偉い人間になれるはずがないということを。いや、そればかりではない。世間でいうところの偉い人間ほどくだらないものはないということを。人々から偉いといわれることになんの値打ちがあろう。私は人のために生きているのではない。私は私自身の真の満足と自由とを得なければならないのではないか。私は私自身でなければならぬ。」(pp.218-219)

無籍者だったふみ子は、当初学校に行けなかった。


解説を赤川次郎が書いていた。

▽現代では、貧しいこと、不幸なことは「可哀そう」なことと同じである。けれども少し前には必ずしもそうではなかった。
 もちろん、病気の子供を医者に診せられないとか、冬に暖が取れないといったことは辛いものだ。だが、たとえば第二次大戦後、日本中が貧しかったころにつくられた日本映画の数々を見ると--渋谷実の「本日休診」とか、成瀬巳喜男の「おかあさん」とか--そこでは貧しさは単に辛いものではない。できれば何とかしたいのは当然だが、一方、良心に恥じない生き方をするには「貧しくいるしかない」、という気分がある。
 貧しくても、恥ずかしいことはしてないぞ、と胸を張っている姿があって、心を打つ。
 それは、「高度成長」とか「所得倍増」とかが、文句無しに「いいこと」とされる前の話だ。--思えば、日本はそこから少しずつおかしくなってきた。
 高い志というものが見失われて、みんなが「商売優先」になってしまった。
 こういう時代には、たとえば「徳川家康」をサラリーマンが出世の参考書にするなどという、冗談のようなことが起る(時代も国際環境も全く違うのに!)。(252p.)

この本は、文庫になるまえ、1972年に「ちくま少年図書館」の一冊として出た。
「ちくま少年図書館」!
『君たちの生きる社会』や『生きることの意味』、『不良少女とよばれて』など、おそらくねらうところは、今なら「よりみちパン!セ」くらいなのだろうが、もっと活字がみちっとつまった本だった。けっこう読んだなーー

(2008年4月16日読了)
 
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乱読ぴょん

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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在91号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第65回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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