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サッカーと人種差別(陣野俊史)

サッカーと人種差別サッカーと人種差別
(2014/07/18)
陣野俊史

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曾野綾子が2月に産経新聞に書いたコラム※のこともあり、図書館に所蔵のあるなかで「人種差別」とタイトルに入ってる本のうち、一番新しいのを借りて読んでみた。

私はサッカーをはじめスポーツにはとんと詳しくないが、それでも昨年、浦和レッズの一部サポーターが「JAPANESE ONLY」の横断幕を掲げ、その制裁として無観客試合があった、というくらいは知っていた。この本も「Jリーグ初の無観客試合」のことから始まっている。

▼残念なことに、サッカーのスタジアムには様々な差別の歴史が刻まれている。…(略)…
 この本では、この20年くらいの時間の中で起きた代表的な(という言い方も奇妙だが)差別に関わる事件について、できるだけ平明に述べ、そうした差別と戦う人々を紹介したい。そのうえで、もう一度、私たちのサッカーの環境へと戻ってくることにしたいと考えている。(pp.13-14)

様々な種類の差別は絶え間なくずっと続いているが、そのなかで「この20年くらい」をとりあげるのは、この間にサッカーをめぐる環境が大きく変わった、1990年代半ばあたりでその変化が始まったのではないかと著者が考えているからである。
サッカーに疎い私には、この本に書かれている「○○選手を覚えているだろうか」「××の試合が云々」といった話がまるで分からないのだが、選手の写真があったり、前後の事情をそれなりに説明してくれているので、なんとか読めた。サッカーをめぐる状況を通じて、「差別」というものを考える本である。

黒人選手に向かってバナナを投げ、猿の鳴き真似をするという人種差別的な行為は繰り返されてきた。そうした行為は長らく放置されていて、侮蔑を向けられた選手はただ耐えてプレーしていたのだが、一人また一人と立ち上がる選手があらわれる。

著者は、3章「差別と闘う人びと」で、現役時代から必要とあれば政治的な発言を行ってきたというリリアン・テュラムの言葉を引いている(pp.176-177)。

▼大きかろうが小さかろうが、人間は自分がこうなりたいと願う星を必要とする。人が自分に対して押し付けてくる偏見をぶち壊し、自立し、自分の価値を打ち立て、人が想像するものを変えるためにはモデルが必要だ。
 子どもの頃、私にはたくさん星があった。…(略)… だが、黒い星たちについては、誰も私に語ってくれなかった。階級の壁は白く、歴史書のページも白かった。私自身の祖先のことを私はまったく知らなかった。奴隷制だけが人々の口にのぼった。こんなふうに取り上げられる黒人の歴史は、武器と涙の谷でしかなかった。
 …(略)… この本はあなたのためにある。なぜなら、人種差別や非寛容と戦う最上の方法は、あなたの認識と想像力を豊かにすることだからだ。(『私の黒い星たち』裏表紙/Lilian Thuram,Mes étoiles noires:De Lucy a Barack Obama,Philippe Rey,2010)

このあとのフランスの大統領であったサルコジのヘイトスピーチについて書かれた箇所を読んでいると、日本はこの状況を追いかけてしまっている…と思えた。サルコジのひどい演説内容は、非難され、多くの人々の嘲笑と怒りを買ったという。だが、日本でもそうであるように、それを荒唐無稽とは思わず、そんなことがあるのかと思う人たちがいる。

▼サルコジ前大統領の言葉こそまさに無茶苦茶で、彼の言葉や誤った歴史認識を、嗤うことができる間はまだよかった。問題は、サルコジの言葉を却下するのではなく、一定の説得力を持って受け取る層が明らかに存在することだ。(p.185)

4章「コスモポリタンへのレッスン」で書かれている"本質主義 対 反・本質主義"の話は、バナナを投げるとか猿の鳴き真似をするような分かりやすい差別的な言動に対して、見えにくく分かりにくい差別的な言動(例:黒人といえば"身体能力が高い"とか"リズム感がいい"などと、あたかもそれが黒人の本質であるかのように結びつけようとする)を示そうとしているのだと思った。

本質主義は、差別じゃなくて区別だというような話とするりと結びつきやすい。とりわけ性別に関するあれこれでは、私にも実感がある。

※曾野綾子のコラムに関して、亀井伸孝さんが書いたもの(synodos)
「文化が違うから分ければよい」のか――アパルトヘイトと差異の承認の政治
http://synodos.jp/society/13008

(3/16了)
 
Comment
 
 
2015.04.12 Sun 20:58 ナカリママ  #-
こんにちは。

サッカーについては、「世界人権宣言大阪連絡会議ニュース」の2月10日号にも陣野俊史さんの講演記事が載っていて、子どもと一緒に読んだところだったから(「サッカーから学ぶ人種差別との闘い」)グッドタイミングでした。
ありがとうございます。

私もまだまだ知らないことばかりで考えさせられます。
これからも読ませていただきますね。
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第40回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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