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『群像』 2014年9月号

群像 2014年9月号群像 2014年9月号
(2014/08/07)


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こないだ芥川賞をとった作のことが、シングルマザー云々とどこかに書いてあって、どんな話なんやろうと、初出の掲載誌を図書館で借りてくる。受賞作はすでに本になっているが、複本4冊に数十人の予約がついている。芥川賞と直木賞の違いなのか、直木賞の受賞作は複本20冊に数百人の予約待ちである。

巻頭掲載の小説(これが芥川賞受賞作)のほか、以下のようなものを読む。

・小野正嗣 「九年前の祈り」
・野崎歓×鴻巣友季子×谷崎由依「名〈迷〉訳のレッスン 群像的文体練習II」
・朝比奈あすか「ザビエルが欲しい」
・穂村弘「現代短歌ノート 54 ごきぶりの歌」
■小野正嗣 の「九年前の祈り」は大分が出てくるところに興味をもった。著者は大分出身なのであろうか。登場人物たちが話す言葉のイントネーションやニュアンスまではわからないものの、書かれた言葉遣いを追うかぎりでは、広島あたりの言葉と似ている気がした。

3親等くらいなら親族の名まですらすら出てくるような"いなか"の人間関係、そこへガイコツ人の男と別れ、子どもを連れて帰ってきたさなえ。その子・希敏[けびん]は、スイッチが入ってしまうと尋常でない泣き叫び方をすることがままあるのだった。まるで、「ひきちぎられてのたうち回るミミズのように」なるのだ。

「いろんなことに慣れるのに普通の子よりもずっと時間がかかる子」だという希敏と、実家の両親の家で暮らしながら、さなえは九年前の初めてのカナダ旅行のことを思う。町全体が国際交流推進でもりあがっていたころに、外国語指導助手として来ていたジャックさんの企画した旅行だ。

7人の参加者のなかに「みっちゃん姉」がいた。みっちゃん姉の息子さんが病気らしいと聞いたさなえは、あの旅行のときのみっちゃん姉の祈る姿を思い出す。… というような話。登場人物が多くてちょっと混乱し、最後まで読んでから、もういちど読みなおした。

■私には、この小説よりも、野崎歓、鴻巣友季子、谷崎由依による「名〈迷〉訳のレッスン 群像的文体練習II」 が大変おもしろかった。3人がいろんな文体での訳を実際に試してもいて、たとえば第一のお題「ジェーン・オースティン『高慢と偏見』冒頭部分で文体練習」だと、

 ・福沢諭吉『福翁自伝』風文体
 ・謎の号泣議員文体
 ・落語文体
 ・哲学書文体
 ・谷崎潤一郎訳『源氏物語』文体、もしくは連続テレビ小説『花子とアン』美輪明宏ナレーション文体

という5つの文体による訳文が掲載されている(これがまたフォントもそれらしく変えてあって、芸が細かい)。その次のページには、既刊の訳本でこの『高慢と偏見』がどう訳されているかが、原文併記で6つ挙げられている。

第二のお題は、外国文学の名作タイトルを翻訳してみるもので、これも面白いものがいろいろ出てくるが、タイトルとして格好いいかということを、鴻巣が「響きは面白いけれど、フォークナーの新訳が『がやとわや』では、誰も買わないでしょうね(笑)」と語っている。原語に忠実か、意味をつかんでいるかという側面は大事ではあろうが、それを読者が手にとって買うかどうかも問題だ。

私は翻訳小説をあまり読んでないけれど、3人の話を読んでいると、同じ作の翻訳読み比べをやってみたくなった。鼎談のさいごには"翻訳家が選ぶ「名訳」"の小見出しが立てられていて、鴻巣が大好きなのは若松賤子で、バアネットの『小公子』の訳が素晴らしいと言い、谷崎は詩人の多田智満子が訳したユルスナールの小説が好きだと言い、野崎は森鴎外を素晴らしいとしか言いようがないとたたえ、『諸国物語』は本当にお勧めしますと言う。「鴎外は本当に全身翻訳家ですよ」と鴻巣も語っている。

この「群像的文体練習」は「II」なので、バックナンバーがみつかるなら「I」もぜひ読んでみたいところ(2012年の11月号らしい)。

■新聞広告でみた感じだと、朝比奈あすかの「ザビエルが欲しい」はタイトルを変えて、『あの子が欲しい』という本になって出ているようだ。ザビエルというと、てっぺんはげらしき宣教師の名を思いだしてしまうせいか、ザビエルが欲しいって、どんな話やろと思っていたら、これは就活小説でもあった。会社で採用担当を任された志帆子が主人公で、ザビエルというのはHOFHOFという猫カフェにいる猫の名だった。

これも、就活をめぐって真偽のわからぬ情報が流れ、採用側と学生側の攻防戦のようでもあるLINEやら巨大掲示板やらが出てきたりして、『声を聴かせて』とは内容は違うものの、息をつめて読む感じがあった。読んでいてちょっと疲れた。

■短歌ノートは、「ごきぶり」が出てくる歌を引く。けっこうあるもので、どれもおもしろかったが、とくに印象に残ったのは、馬場あき子の2首。

 半打ちのままに逃がししごきぶりのそののちを眠れぬ夜に思ひをり
 ごきぶりの生態の本買ひて来ぬあはれごきぶりなぜに打たるる

「ごきぶりの生態の本」まで買ってくるところに、気になったら調べずにいられない私は、ちょっと親近感をおぼえる。

(2~3月に拾い読み)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第42回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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