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お勝手太平記(金井美恵子)

お勝手太平記お勝手太平記
(2014/09/30)
金井美恵子

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新聞の書評でこの本のことを読んだのは11月だった。あとで切りぬいたその書評を、私は「これが読んでみたい」と友人に送ってしまって、詳しいことはすっかり忘れてしまったが、とにかくこれが「お手紙小説」だということがくっきりと記憶にあった。

図書館の予約待ち人数は思ったより少なくて、しばらく待っていたら暮れになって本がまわってきた。編み物の手をうごかしながら(こうしてゆっくりとページをめくるのがちょうどよかった)、2014年の最後に読み終えた。

手紙を書くのが好きな「アキコさん」が書きつづって(それはしばしば何日もかけて書かれている)、友人や身近な人へ出した長い長い手紙がずらずらと並ぶ。アキコさんは出した手紙をきちんとコピーして整理しているとかで、しょっちゅう脇道へそれて、ときには消えてしまうあれこれの話題が、また後日の手紙でよみがえって語られたりもする。

その手紙には、本の話や映画の話があり、噂話や悪口もあり、思い出話もあり、夫の話もあり…と、アキコさんが書いた手紙だけで、よくここまで友人たちの動向や性格が見えてくるものだと感心した。くわえて、あの小説やらこの本やらに対するアキコさんの悪口がおもしろい。
お手紙小説といえば、姫野カオルコの『終業式』もそうだったが、この金井美恵子の作品も全面的に「手紙」で構成されていて、巻末の「あとがきにかえて」までもが手紙なのだった(しかも「美恵子様」という手紙である)。

途中でおっと思ったのは、手紙に書いてる話のなかに、深沢七郎のあの文章がどうのこうのという箇所が、いくつか出てくること。深沢の本やら、「風流夢譚」のコピーを読み、はたまた没後25年の特集雑誌なども借りてきて読んでいる私には、そこもまたおもしろかった。

このアキコさんは、団塊の世代風の女性という設定で(金井美恵子本人が反映されているような気も)、この世代の人たちが深沢を読んでたのかなーと思いながら読んだ。

(アキコさんはずいぶん深沢七郎に言及するなあと思っていたら、没後25年の『深沢七郎 没後25年 ちょっと一服、冥土の道草』のなかに、金井美恵子による「たとへば(君)、あるいは、告白、だから、というか、なので、『風流夢譚』で短歌を解毒する」という論考が入っていた。)

「風流夢譚」がらみでいえば、アキコさんが59歳にして結婚した相手の「K」(弁護士だという)のこんな話も手紙に書かれている。

▼ここまでの経過をウチのKに話したら、谷崎の『鍵』は「中央公論」に連載されてた時(法科の学生時代)に、ポルノのつもりで時々呼んだけど、全然そういうものではないし、片仮名で読みにくかったのを覚えてる、と言うのです。
 「中央公論」と「思想の科学」と「世界」は、弁護士の親父が定期購読していたけれど、風流夢譚事件の中央公論社の右翼に対してのフガイナイ対応に抗議する意味で購読をやめたので、事件のあった年に連載がはじまった『瘋癲老人日記』
は読んでいない、だいたい若い男子学生が読むようなタイトルじゃないし、『セヴンティーン』を含めて、ぼくらは大江健三郎を読んだ世代ですよ、という話になってしまうのよ。カミュは『異邦人』より『ペスト』に感動した人なんですよ。(pp.200-201)

このKさんは、風流夢譚事件のときに学生だったというと、団塊の世代よりもう少し上、1940年前後の生まれだろうか。中公の右翼対応に抗議して購読をやめたというようなエピソードは、事件について編集者の側から書いた本にはまず出てこないだろう。

アキコさんも、Kさんも、何かを思いだしたといっては深沢七郎をひっぱりだしてきたりするので、好みもあるにしても、印象に残っている作品なんやなーと思った。

ほかに私がおもしろいと思った話題は、病院のレンタルパジャマの性別による色分けの話と、「奥さん」話、それと「本をとおして作者と読者は共通体験を持つ」という話。

入院した経験を書くアキコさんは、病院のパジャマは男性用がブルー、女性用がピンク、そのピンクがまたいやな色で、まだブルーのほうがましだと言い、ついでに看護師(女性)に、借りるわけじゃないけど男はブルー、女はピンクと決まってるのかと訊いた。

ブルーはズボンが前開きだと答える看護師に、「アキコさん」は、いまの婦人物のズボンの類もウエストがゴムでなければファスナーは前ですよと言ってやるのだ。そういう「アキコさん」の口吻を読んでいて、そうやなー、昔はスカートみたいに、ズボンのファスナーの開きも脇についてたなーと思う。

そんなアキコさんがなるほどと膝を打った同室者の説は、「病院は年寄りが多いし、年を取ると人間、おじいさんだかおばあさんだか、わかんなくなるでしょ、病院じゃあ、お化粧しませんしね、だからすぐどっちかわかるように色わけしてるんだと思うわ」(p.103)というもの。

「奥さん」という普通名詞の呼び名についての話は、もとは友人「みどりさん」からの手紙に某紙の「折々のうた」のコピーが入っていたことに始まる。そのうたは、これ。

草にさえその名をたづね愛しむを奥さんとしか呼ばれない日々
 増田啓子(『歌坂 逢坂 浄瑠璃坂』所収)

友人宛の手紙で脱線しながら「奥さん」問題を書きつづるアキコさん。家政婦の杉田さんの、「「奥さん」というのも通りのいい符牒で、呼ぶのも呼ばれるのも面倒臭さがなくて、あっさりした、とおり一ぺんの関係ということがお互いに良くわかって、いいじゃありませんか」(p.141)という意見を披露していて、こういう呼び方はある種の敬語の使い方に通じるものがある気がした。

そして、「あとがきにかえて」の手紙に記される共通体験の話。これは、ひょんなことから知り合いになった(著者であろう)美恵子さん宛てに「アキコさん」が書いている手紙。

▼読者と作者の関係は、読者の側から言わせていただくと、「本」を通して【共通の読書体験】による【つながり】があるのだって、つくづく思ったことです。あたりまえのようですけれど、「本」によって、作者と読者は共通の体験を持つのですね。(p.302、【】は本文では傍点)

私は昔に比べるとすっかり無精になってしまったけど、アキコさんの「週に一度はお会いしているのに、手紙がとどくなんて、ヘンな人、とお思いでしょうけど、これは私の趣味なのよ」(p.131)の一節を読んで、毎日のように顔を合わせるのに、毎日のように手紙を出しあっていた頃があったなーと思った。この本の「手紙」を読んでいると、よく手紙を交わした友人を思い出したりもして、ちょっと一筆書きたくなった。

金井久美子(って、金井美恵子の縁戚か?)によるカバー装画に使われている作品(表と裏と両袖にそれぞれ作品の写真が入っている)は私のスキなTさんの作に似たところがあって、しかもこの金井久美子の絵はがきが2枚、付録としてついているというので、どんな絵はがきなのだろうかと私はそれを見てみたい。

(12/30了)

※ネット検索してみたら、金井久美子は金井美恵子と姉妹だそうで(久美子が姉、美恵子が妹)、美恵子の本の装画や挿絵を久美子が手がけているとのこと
金井久美子作品
http://g-murakoshi.com/artist/kanai_kumiko/
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第44回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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