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熱狂なきファシズム ニッポンの無関心を観察する(想田和弘)

熱狂なきファシズム ニッポンの無関心を観察する熱狂なきファシズム
ニッポンの無関心を観察する

(2014/08/21)
想田和弘

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この本のまえがきは、新聞記者のインタビューを受けて「歴史的な低投票率の中、安部晋三総裁率いる自民党が圧勝した国政選挙の結果について見解を述べていたとき」(p.6)に、本のタイトルにもなった「熱狂なきファシズム」という造語を思いついた、と始まる。2年前、自民の議席数だけで過半数を上回り、「自民大勝、民主惨敗」と言われた2012年12月の衆院選のことだ。戦後最低の投票率を更新した選挙でもあった。このたびの12月の選挙はその最低をまたも更新して、有権者のほぼ半数が棄権という状態になった。

ファシズムという語にはある種の「熱狂」が伴うようなイメージがあると、想田はヒトラーやムッソリーニや昭和天皇のような祭り上げられた指導者とそれを熱狂的に支持する国民のイメージをあげる。しかし、安倍首相を熱狂的に支持する人は一部の「ネトウヨ」を除けばあまりいないし、おまけに投票率も低い、自民党の得票率があがったわけでもない…とグルグル考えていて、想田はひらめく。

▼むしろ現代的なファシズムは、現代的な植民地支配のごとく、目に見えにくいし、実感しにくい。人々の無関心と「否認」の中、みんなに気づかれないうちに、低温火傷のごとくじわじわと閑かに進行するものなのではないか。(p.7)
実際、権力を握った安倍政権のやり口は、立憲主義や民主制の解体作業を「主権者には見えにくい形で【コソコソと】進行させている」(p.7、【】は本文では傍点)というものだ。その例として、想田は、2013年秋の臨時国会が始まる際に、所信表明演説で秘密保護法について全く触れなかった安倍首相が、突然法案を国会に提出し、野党の反対を押し切って強行採決したことをあげる。その秘密保護法は、選挙だ選挙だという報道に隠れるように、12月10日施行された。

このたびの選挙の告示前に読んだ本を、図書館へ返すまえに、ちらちらと読みなおす。やはり2年前、2012年の12月におこなわれた東京都知事選に出た宇都宮健児と想田との対談の、こんなところが印象的だった。

宇都宮 …(略)… 市民運動の広がりの弱さと同様に、リベラルな政策を掲げる政党の支持率が上がっていません。正しい政策と正しい情勢分析があれば、自然に運動が広がると考える傾向があるようです。政党間で、当面の政策が共通しているのに、共闘するなどして選挙を有利にするような動きが出てこないのも疑問です。どうすれば無党派層などに関心をもってもらえるのか、その方法や考え方を議論する中で運動が活性化するようなことを目指したほうがよいのではないでしょうか。
 想田 「正しい」という自己認識に問題があるように思います。自分たちが正しいと考えれば、自己改革しようとする意思も生まれません。むしろ、正しい自分たちを理解しない人がおかしい、という思考構造になってしまいます。リベラル派の運動が、常に陥りやすい問題です。僕自身もそうですが、こうした意識を変えていくことも大切です。(p.94)

私はこの想田の書いた本はいくつか読んでいるが、"観察映画"と称している想田の映像はまだ見たことがない。ないけれども、「台本や定型、先入観を捨て、できるだけまっさらな目で、この世界を改めてよく観て描く」(p.162)ことを表現者の本分だといい、「ドキュメンタリーは作り手の体験を描く体験記」(p.202)と考えている想田の映画は、私自身もこういう本で読んだことなどは、いったん忘れて、なるべくまっさらな目と感覚で見てみたいと思う。

巻末には、「あとがきのような『永遠の0』論」。ここで想田が書いているのは映画のほうで、「安倍首相のお友達で、ネトウヨのような問題発言を繰り返している百田氏原作の映画が、面白いわけがないと思ったから」(p.274)、そんなものに入場料を払うのも癪な気がして、観るのは気が進まなかったという。

だが、この本の編集者から「いまの日本社会を覆う空気を理解するうえで、この映画は観ておいた方がいい」(p.274)と背中を押されて、想田はニューヨークへ帰る直前に渋谷の映画館で観た。

私は映画も観ていないし、本読みの友に苦しいけど読んでみてほしいと言われていながら原作もまだ読んでいないが、想田はこのように指摘している。

▼…『永遠の0』は一見、立派な反戦映画に見える。少なくとも、「戦争で死ぬのなんて嫌だよね」という私たちの大部分が抱く一般的な価値観には、正面からは挑戦しない。…(略)…
 僕はこの点が極めて重要だと思っている。社会の多数派から支持をうる、つまり作品を大ヒットさせるためには、社会の基本的な価値観に決して挑戦してはならない。『永遠の0』が興行的に大成功した最大の秘密は、それが表面上「反戦映画」の体裁をとったことにあるのだ。(pp.281-282)

想田は、このような、多くの人が抱いている根本的な価値観に表面的には挑戦しない"戦略"は安倍首相にも共通するものだという。そして、この極めて巧妙な映画を、700万人もの人が映画館でお金を払って観たこと((DVDやテレビ放映で観るであろう人も含めれば、その数倍に及ぶ人数になるだろう)で、これが、現代日本における「戦争映画の決定版」のような存在になるのではと危惧する。そして、この戦争で死んでいった人たちを称揚する映画は、今後かなりの長期間にわたって、日本人の精神性に重大な影響を与えていくのではないかと述べる。

私はとりあえず原作の『永遠の0』を、よく観察しながら読んでみようと思う。

選挙明け、「熱狂なき選挙で、熱狂なき圧勝」と小泉進次郎のコメントが新聞に載っていた。

(11/28了)

※2014年12月14日の衆院選による各党の議席増減(公示前との比較)
 共産党 +13
 民主党 +11
 公明党 +4
 社民  ±0
 維新  -1
 生活  -3
 自民党 -5
 次世代 -17

※2014年12月14日の衆院選最終投票率は52.66%、小選挙区で投票を行った人は在外投票も含めて5474万3097人(14日当日の有権者数は、1億385万8441人)
 戦後最低の投票率だった前回(2012年12月)の選挙の59.32%を下回って戦後最低を更新
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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