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お金のある人の恋と腐乱(姫野カオルコ)

お金のある人の恋と腐乱お金のある人の恋と腐乱
(2014/11/07)
姫野カオルコ

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11月の初めに、本屋で、おっ、姫野カオルコの新しい文庫と思って、ぴらっと見たら、もとは『コルセット』で、それを加筆修正し、タイトルも変更したものだということだった。その日は、まだ待ち受けている仕事があったため、(あとでー)と思って棚に返して帰り、後日、買ってきて読む。

子供の頃から恋愛ものがどうも嫌いだったという姫野カオルコが、40代後半に、「試みを課そう」と思って書き始めた一人称小説の恋愛もの。

『お金のある人の恋と腐乱』というタイトルだけあって、"お金のある人"が出てくる。そこがちょっと『本格小説』風でもあった。表紙のカバー裏にも引かれているが「恋愛で結びつくなどという行動は、働かないと食べてゆけない人がすること」(p.192)という世界の"恋愛もの"である。

4編入ってる話は、どれも「藤沢さん」と「わたし」の話だが、話ごとに、「藤沢さん」は別人だし、「わたし」も別人… で、ちょっとアタマが混乱しそうになる。が、この藤沢さんが、あの藤沢さん…などと整合性を求めなくても、話は楽しめる。

▼男のラベルにひかれる女は清らかなのだろう。淫蕩な女にとってラベルは無価値だ。わたしは淫蕩なのだろう。自分の舌がうまいとかんじるか否か、自分のからだが気持ちいいとかんじるか否か。基準はそれしかない。他人の評価はなんの意味もない。(p.52)
ラベル、それは例えば「学歴や肩書や年齢や収入」といったもの、あるいは「身長や顔だち」もそれに含まれるのかもしれない。そのラベルが、いかほどのものを保証するのか、と第一話「反行カノン」の「わたし」は考える。文庫の帯に「淫蕩に男の学歴は無価値だ」とあるのは、このことなのだろう。

第二話「フレンチ・カンカン」の「わたし」は、夫の性癖を知ったときのことをこう記す。
▼夫Qが同性にしか欲望を抱けないと知ったとき、キリスト教徒ではないわたしは、あなたは酒を嗜まれるが自分は下戸であると言われたようなもので、とくにおどろかなかった。とくに落胆もしなかった。(p.105)

その夫の新しい恋人、表向きは子どもたちの家庭教師として住まわせることになった藤沢先生が、「わたし」にこう言うところが、印象的だった。
▼「栞さん、ぼくはQのこどもは産めないんだ。年月がたったあとに正しかったことより、いままっしぐらにそうしたいことが、ぼくのいまには正しいことなんだ。いまだいじなことやすてきなことが、あとでだいじじゃなくてすてきじゃなくなっても、そのときそうだったことを残しておくのは必要なことなんだよ」(p.126)

「いままっしぐらにそうしたいことが、ぼくのいまには正しいことなんだ」と言う藤沢先生に、恋人の妻にそう言える藤沢先生に、若さを感じた。

若さについて、第三話「三幕アリア」では、藤沢さんが、年若い「わたし」にこう言う。
▼「若い娘というのは、自分が若いことがマイナスになると信じている生き物のことで、自分は若いと主張しない。主張するとそこでもう若い娘の価値はなくなってしまう。だからいまの世の中のほとんどの若い娘は価値がないのに、それでも自分に性欲を抱く男をみくびる。その傲慢に男は性欲を抱くんだと思う。すくなくともぼくは」(pp.169-170)

どの話に出てくる性愛も、なんだか遊戯のようで、サラサラした感じで、こういう感じで書けるのは姫野だからこそという気がした。

姫野は、巻末の「リニュアル文庫版あとがき」で、書くにあたり「上流階級」の方にそっと取材したこと、その方たちは、「おしなべて外見が地味」で、「時には妙に貧乏くさかったり、妙にあばずれていたり」(p.250)という風だったことを記している。

そして、この「ものすごく裕福な、お金に困ったことのない人たち」の話を書いていた頃は、「四人の女性にひとりずつインタビューをし、彼女たちが自由に語るのをひたすら聞いていったような感覚」(pp.251-252)だったこと、「聞いているあいだ、旅行しているような気分」(p.252)だったことを振り返っている。自分と異質な人間の述懐を「へえ、なるほど」と感心して聞けるようになったのが、年をとることのよい面かもしれないとも。

私も、そういう年をとってきたよさなのか、「上流階級」の暮らし方というか、家庭をなすにしても「いまあるものを減らさないため」のような結びつきがあるのだなあと思ったり、そんな躾もあるのかと思ったり(たとえば「小説本を読むのは躾として低俗とされていたから」というところや、一通りの作法について鋳型に流し込むような厳しい躾をうけたというあたり)、こんな世界もあるところにはあるんやなーと、ふうううんと相槌を打つような気持ちで読んだ。少なくとも、私が育ってきた世界とはぜんぜん違うんやなと思った。

このたびのリニュアル文庫化で小説を改題したのは、編集者著者計4人で考えたシックなタイトルのつもりだった『コルセット』が、シックに過ぎて読者にイメージを喚起させられなかったからだという(「コルセット」とは、ネット検索すると、腰痛や整形外科に関連する項目ばかりずらずら出てくるような言葉なのであったと)。

たしかに、「お金のある人の恋と腐乱」のほうが、ふさわしいと感じる。

(11/13了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第42回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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