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僕の妻はエイリアン―「高機能自閉症」との不思議な結婚生活(泉 流星)

僕の妻はエイリアン―「高機能自閉症」との不思議な結婚生活僕の妻はエイリアン
「高機能自閉症」との不思議な結婚生活

(2008/06/30)
泉 流星

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本読みの友が「アスペルガーの傾向ありと自覚しているつれあいが借りてきたのを、私も読んでみた」そうで、「つれあいは自分に当てはまらないところも多いと思ったようだが、私は読んでみたら思い当たるところが結構あって」とのこと。

友の言うとおり、こういうのは「白か黒」ではなくて、グレーゾーンがなだらかに広がっているのであろうなアと思いつつ、私も図書館で借りてきて読んでみる。タイトルのとおり、結婚して一緒に暮らしてみた高機能自閉症の妻は、まるで地球人に化けた異星人[エイリアン]のようだ…という夫の側の視点で書かれた本。

ふたりは半年ほどの遠距離恋愛で結婚。「最初から妻がかなり個性的な人だってことは僕にもわかっていたけれど、実際どんなに変わった人か、一緒に暮らすのがどんなに難しいかは、結婚するまで気づかなかった」(p.10)と夫は述べる。結婚して10年、いまの医学でいえば「高機能自閉症」だと妻が診断されるまで、話がかみあわないことにいらだったり、ケンカになることも多かったそうだ。
ただ、診断されたからといって、それで二人の暮らしがスムーズにいくわけじゃない。互いの「違い」や「個性」みたいなところを、一緒に暮らすなかで、少しずつ少しずつすりあわせ、時々はぶつかって、そのぶつかったときにお互いどうやりすごすか、どう歩み寄るかという部分を10年かけて発見してきはったんやなーという感じ。

妻は、一見「普通の人」に見える。大学を卒業しているし(しかも「言語学」専攻)、本を読むのも大好き、頭の回転もはやい。しかし、イマイチ人の表情や雰囲気が読めず、真顔でとんちんかんな受け答えをすることもあって、悪い方に誤解されがちだという。

「自閉症スペクトラム障害」との診断で医者が言うには「自閉症の症状というのはかなり個人差があって、人それぞれにかなり異なる特徴を持っていますが、共通しているのは、社会性の問題、つまり社会に適応するのが難しいこと、コミュニケーションの問題、つまり人と言葉で交流したり、気持ちを伝えあうのが困難なこと、そして想像力の問題、つまり思考のしかたが柔軟性に欠け、特定のこと、例えばものの順序や言葉の使い方などに対してこだわりを持つということです。ともかく、この三つの要素がそろっている場合、私たちはその人が、自閉症スペクトラム障害のどこかに属すると判断しています」(p.183)とのこと。この三つは、見事に妻にあてはまっていた。

さらに医者は、これでも妻は自分なりの工夫で「驚くほどうまく自分の障害をカバーしている」(p.8)と教えてくれた。妻自身の工夫や努力がなければ、妻の社会性やコミュニケーションや想像力にかかわる能力は、もっとデコボコだっただろうというのだ。

そして、これは生まれつきだと説明をうけて、夫は思う。「生まれつき障害があるってことは…妻って、障害者なの?」(p.184)

対する妻の答え。
▼「障害者っていうのは、重い障害を持っている人を区別して呼ぶために法律や行政なんかが使う言葉だけど、実際にはそういう人種なんていないんだよ! 障害のある人とない人のあいだに、何かはっきりした境界線があるわけでもない。何かの理由で診断を受けない限り、ナントカ障害っていう診断名はつかないわけだしね。障害がある人っていうのは、単に心身のどこかに不具合があるために、何らかの形で生活に支障をきたしてる人っていうだけのこと。少なくとも私の考えではそう。それにケガや病気で心身に不具合がある時なんかは、夫だって、生活に支障があるから『障害がある』状態なわけだし、妊娠してる女性だって同じことだと思う」(p.185)

「生活に支障がある」のは、その人の"心身の不具合"が、世の中の大多数向けの作法や常識と合わないからで、といって、その"心身の不具合"は必ずしも治せるものではないし、つきあって生きていくものだという場合が多い。たとえば2本足ですたすた歩けない人(乳母車の赤ん坊や抱っこされてる幼児、車椅子や杖を使う人、等)に「自分ですたすた歩け!」という代わりに、移動のバリア(階段、陸橋、等)の解消としてエレベーターが設置されたりしてきたわけで、「障害」というものの捉え方は、少しずつ変わってきてるなーと、この妻の答えを読んで思った。

▼妻は確かに、日常生活で常に介助を必要とするような意味での「障害」は持っていない。けれど、アタリマエに社会に参加して生活ができるかというと、決してそうじゃない。とても中途半端な立場なんだ。妻は大卒で、英語も堪能だけれど、社会に出て就職したらたちまち挫折を経験している。働く能力が全然ないわけじゃないし、今でも仕事をしたい気持ちはあるけれど、店員や事務員といった人と接する仕事は難しいので、気軽にパートに出るわけにもいかない。こういう仕事は一見単純そうだけど、実は自閉系にとって一番苦手な、その場の状況や相手の気持ちを読みとって、臨機応変に対応するという能力が必要とされるからだ。(p.274)

「文字どおりの言葉」だけでは、分からないことっていっぱいあるよなー、こういうのを私はどうやって分かってきたんやろ?と思ったのが、たとえば「わからないことがあれば質問するように」。これだけでは、具体的に何をどうしたらいいのか分かりづらい。質問する相手を選ぶにも、質問を切り出す場面を考えるにも、じゃあ何と言って尋ねたらいいかをひねり出すにも、実にたくさんの判断が必要だ。

本読みの友が(こういうところは自分にも当てはまる)と思ったところがあったように、私も読んでいて、あー、こういうところは私にもその気があるかもと思うところがあった。

さいごのさいごで、この本は「夫を語り手としているが、書いているのは妻自身」と知って、それが一番びっくりした。それで、もう一度てっぺんから読んでみた。「夫の立場」から、妻自身が「自分たち夫婦の物語」を書く、というのはとてつもなく大変だったそうだ。

▼「想像力の障害」の中心は、目の前にいる人の心の動きや考えを察したり、自分がある行動をしたらどんな反応が返ってくるかを予測することがうまくできない、ということです。つまり、他人の立場に立って考え、気持ちを理解することの困難さなのです。だからこそ、夫を語り手にしたことで、この本は自閉系異星人である私の能力を超えてしまったのでした。(pp.284-285、著者あとがき)

それを乗り越えるために夫の協力を得てこの本は書かれている。妻と夫が互いに"異文化"を知ろうとし、分かろうとした姿勢… さらっと書くほど簡単なことではなかったはずで、それをがんばってやった妻スゲー、「妻はここがヘンだ」ばっかり言う夫も結構ヘンだよと思ってたけど、案外イイ人かもと思った。

(11/2一読、11/11二読)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第44回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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