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チポリーノの冒険(ジャンニ・ロダーリ作、関口英子訳、ヴラジミール・スチェーエフさし絵)

チポリーノの冒険チポリーノの冒険
(2010/10/16)
ジャンニ・ロダーリ作
関口英子訳
ヴラジミール・スチェーエフさし絵
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この物語は、杉浦明平の訳による岩波少年文庫・旧版(1956年に一刷)の『チポリーノの冒険』は8月に読んだのだが、関口英子の訳による新版(2010年に一刷)も読んでみたくて図書館で借りてきた。さし絵は新旧とも、(原著のイタリア語版ではなく)ロシア語版から採られた同じもの(画家の名は、旧版ではB.スチェエーヴァ、新版ではヴラジミール・スチェーエフと、やや表記が違う)。

新版の訳者あとがきによると、旧版の杉浦訳は、原著の初版(Il romanzo di Cipollino チポリーノの物語、1951年刊)にもとづいて訳されていて、新版は、原著の改訂版(Le avventure di Cipollino チポリーノの冒険、1957年刊)にしたがって訳しなおしたものだという。

関口訳を読んだら、登場人物(登場野菜?)の名などに旧版とやや異同があるようで、気になって、また杉浦訳も借りてきて、ところどころめくっては見比べてみた。

外形的な違いは、旧版の巻頭に「「チポリーノが、日本の子どもさんたちにごあいさつ」という(おそらく原著者に書き送ってもらったのであろう)小文が付されていること、旧版では29章+エピローグという形式になっていたものが、新版ではエピローグではなく30章になっていること、旧版には、「三人のうた」と「チポリーノのうた(楽譜)」が付いていること。
登場野菜の名では、私のアタマで鳴りひびいいていた「チポリーノのうた」でも出てくる「ニラ山ニラ吉どん」が、新版では「ネギモト・ネギゾーだんな」になっていることにまず気づく。「ニラ」と「ネギ」は日本語で指すものとしては、形状も風味も異なるが、イタリア語では、もしかして同じことばで両方指すのだろうか?と思い、図書館にあった小さい「日伊英 伊日英」の辞書を引いてみた。

それによると日→伊→英で引くと、
韮→erba cipollina →leek
葱→porro→leek
となっていた。erbaは「草」の意で、玉葱cipollaであることから推測がつくように、字義通りにいけば"草葱"のような名である。そして英語ではどちらも「leek」。

これを伊→日で引くと、
porro→ポロネギ(地中海原産のネギ)が出てきた。「erba cipollina 」はあいにく見出し語になかった。

それで「ポロネギ」を別の辞書で引いてみると、「→リーキに同じ」となっている。
リーキ(leek)→ユリ科の二年生葉菜。ヨーロッパで古くから栽培され、日本には明治以降に導入。洋冬葱と称し、葉鞘部を軟白して食用とする。ニラネギ。ポロネギ。

ニラネギ!

これが、ニラ山ニラ吉どんになり、ネギモト・ネギゾーだんなになったゆえんか?そもそも、原著で、「ニラ山ニラ吉どん」=「ネギモト・ネギゾーだんな」は、なんと表記されているのだろう??

「ニラ山ニラ吉どん(旧版)」と「ネギモト・ネギゾーだんな(新版)」のような例は、他にもいくつかあって、著者が改訂版でもしや野菜を変えたのか(?)、まるで違う野菜になってるのもある。私が気づいたのは、

「コケモモさん(旧版)」と「ブルーベリーさん(新版)」
「アメリカニンジン先生(旧版)」と「パセリ卿(新版)」
「アザミ博士(旧版)」と「アーティーチョーク先生(新版)
「朝鮮アザミ(旧版)」と「アーティーチョーク(新版)」

コケモモのほうは、辞書を引いてみると、「ツツジ科の常緑小低木」で「紅色の液果を結ぶ」とあり、そこからすると、いわゆる「ブルーベリー」とは違う気もするが、同じ辞書でブルーベリーを引くと、「北米原産のツツジ科コケモモ属の低木約20種の総称」とあるので、これはイタリア語になると似たような表記なのかもしれないと思える。

そして、「アーティーチョーク」も辞書を引いてみると、これは「キク科チョウセンアザミ属の多年草」で、和名が「朝鮮薊」というらしい。アザミとアーティーチョークも印象が違うと思っていたが、アーティーチョークは「若いつぼみ」を食べるというので、花を咲かせればアザミなのだろう。

しかし、ニンジンとパセリは、またえらい違うでと思い(役柄は同じ、サクランボ坊やの家庭教師)、私なりに推測してみたのは、アメリカニンジン先生(旧版)とは別に、話のなかで「ニンジン探偵(旧版)」=「探偵ミスター・キャロット(新版)」が出てくるので、初版を読みなおした著者が、紛らわしくないように、アメリカニンジン先生のほうを、別の野菜の「パセリ卿」に変えたのか?ということ(あくまで私の推測)。

そんなこんなの異同がちょっと気になりつつも、やはり新訳でも『チポリーノの冒険』はおもしろかった(現在、流通しているのはこちらの版である)。

新版を読んでいて印象に残ったセリフのひとつは、両親がレモン大公の動物園のおりに入れられてしまっているクマと知りあったチポリーノが、自由ってなんのことかよく分からないというクマに、こう言うところ。

「自由というのはね、だれにも支配されないってことなんだ」(p.217)
(ちなみにこのセリフは、旧版では「自由とは、主人をもたないことです」(p.213)となっている。)

クマはこれを聞いて、「でも、レモン大公は、悪い支配者じゃないと思うよ。(略)父さんも母さんも、好きなだけごはんを食べさせてもらってるし、おりのまえを通る人間たちをながめて、けっこう楽しんでるんだって。レモン大公は、やさしいところがあるんだ。父さんたちが退屈しないように、大勢の人間たちをながめられる場所においてくれたんだ。(略)」(p.217)と語る。

支配者にも多少はいいところがあるんだ、有り難いことだ、という類のこういうセリフをさらーっと書いてしまうところに、著者のジャンニ・ロダーリの市井観察のするどさを感じる。

もうちょっとロダーリの本を読んでみたくて、『ファンタジーの文法―物語創作法入門』を借りてきてみた。

(9/3了)

※「ニラ」と「ネギ」のことや、「アメリカニンジン」と「パセリ」のことなど、イタリア語もしくはロダーリ作品に詳しい方がおられたら、おしえてください!!
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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