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フランスの異邦人―移民・難民・少数者の苦悩(林瑞枝)

フランスの異邦人―移民・難民・少数者の苦悩(林瑞枝)フランスの異邦人
―移民・難民・少数者の苦悩

(1984/01)
林瑞枝

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『娘に語る人種差別』をこないだ読みなおしたとき、巻末のあたりに出てきたフランスの反人種差別法のことが知りたくて(『ヘイトスピーチとは何か』にはヨソの国の立法の例があげられていたが、フランスは入ってなかった)、できれば本で読めるものをと図書館にレファレンスを頼んでいた。

図書館では親切に探してくれて、本はなかなか新しいのがないようだと、まずインターネットで見ることのできる論文をいくつか教えてもらった。

それからしばらくして、本はやはり古いものばかりですといくつか出してもらった中に、これも入っていた。「フランスの人種差別禁止法と表現の自由」『部落解放研究 59』、1987年2月)という古い論文のある著者の本(この古い『部落解放研究 59』も貸し出してもらった)。

1967~71年、そして77年~81年のあいだフランスにいたという著者が、サブタイトルのとおり、フランスにおける「移民・難民・少数者の苦悩」について取材して書いたものだ。30年前の本だが、今の日本もこんな感じ…「今の」というより、ずっとそうだったのだろうけど。

1972年の人種差別禁止法のことも書かれている。著者の書くところによれば、こういう内容。
▼この法律は、演説や印刷物によって「人または人の集団に対し、その出身または種族、民族、人種もしくは特定の宗教への所属または非所属を理由に、差別、憎悪または暴力を煽動した者」は刑罰を受ける、と規定している。

 「自由・平等・友愛」を国是としてきたフランスに、あらためてこのような法律が必要なのだろうか。必要ないというのが、ながらく政府の見解だった。フランスには「喜ばしいことに人種差別がない」と政治をとる人々は考えていた。それに対して、差別がないどころではない、目にあまる大小の事件がたえず起きている、と事実を直視して、差別禁止法のそもそもの案を作ったのが「人種差別に反対し人民間の友好を促進する運動(MRAP)」だった。社会党議員団、共産党議員団もこれを支持して、何度か法案を提出してみたが、国会の議事日程にはのぼらなかった。そのうち国際社会のほうが一歩先んじて、あらゆる形態の人種差別を撤廃する条約を採択、発効させてしまった。フランスはこの条約への加盟をせまられ、加盟したからには国内にもこの条約の主旨に合った法律を整えなければならなくなった。こうして、最初に団体MRAPの草案ができて以来13年目にやっと1972年の法律が、今度は国会で満場一致で可決されたのである。(pp.111-112)

フランスでも「人種差別がない」と政治家は考えていたのだ。それでもフランスは人種差別撤廃条約への加盟にあわせ、国内法も整備したが(13年目にやっと!)、日本の場合は、いまだに国内法がない。その理由は、要は「日本には、該当するような人種差別がない」というものだ。

人種差別撤廃条約の発効は1969年(私がうまれた年だ)、日本は1995年に加入(26年目にやっと!)、しかし国内法整備は留保したままだ(撤廃条約に加入してからでも、もう19年)。

『ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件』を読んだときに、「京都を代表する伝統産業である西陣織の少なからぬ部分を在日が担っていた事実」を初めて知ったが、フランスのプレタポルテにも似たような事情があったことを知る。

▼パリ・モードの普及に力を発揮するプレタポルテが、トルコ人の縫製工に支えられていること、しかも彼らのほとんどが正規の労働許可をもたない密入国・不法滞在者で、最低賃金にさえ遠く及ばない低賃金で、社会保障もなく、一日十二時間もの労働を強いられていたことは、長年、知る人ぞ知るの状態だった。(p.117)

フランスでは「誰が国民か、そうでないか」の線引きは絶対的なものではなく、その境界線は変わってきたことが書かれている。1973年までは父系の血統を優先して親から子へフランス国籍が継承されてきたフランス。日本もかなり長いこと国籍法は父系血統だった(これは女性差別撤廃条約の批准にあたり、1984年に父母両系主義にあらためられた)。

フランスでは、そういう血とは別に、人口不足を補う必要もあって、外国人をフランス人に加える条件をよりゆるやかなものにしてきて、フランス生まれの子は一定の条件のもとでフランス国籍をもてることになった。こうしたフランスの規定を「日本にあてはめてみたらどうだろう。現在67万人に近い在日韓国・朝鮮人の8割は、本人が望めば、帰化によることなく法律上当然に日本国民になり、外国人ではない」(p.209)と著者は書く。

本文の最後は、移民攻撃キャンペーンの激しかった1983年春の統一地方選後に、社会党政府の経済大臣ドロールが発した警告の言葉を引いてしめくくられている。

▼「社会を構成するすべての集団を生かすことのできない社会は、分解して、死に至るであろう」
 フランスに生きるかぎり、今日、人は国籍とか人種とか、言語とか宗教とか、それぞれの文化の境界を乗りこえる努力を怠ることは許されないのである。(p.217)

古い本ではあるのだが、「今の」日本の状況を重ねて考えるところが多く、まったく古さを感じなかった。この本が古くさーく感じられる日が早くこないものかと思う。

(8/12了)

※ジュネーブで開かれていた国連人種差別撤廃委員会の対日審査会合が昨日(8/21)終了し、会合の締めくくりに「包括的な差別禁止法を制定し、表現の自由に抵触しないことを前提として、ヘイトスピーチを徹底的に取り締まり、早急に全国規模の人権機関を創立するよう求める」という対日勧告案が提出されたそうだ。日本政府の代表は会合の冒頭で「人権擁護の取り組みを積極的に実施している」と強調したというのだが、どのあたりが…?と思ってしまう。
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第40回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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