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いつか陽のあたる場所で(乃南アサ)

いつか陽のあたる場所でいつか陽のあたる場所で
(2010/01/28)
乃南アサ

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前科[マエ]持ち二人のシリーズ最終巻の『いちばん長い夜に』を読んだら、二人の話をもう一度さいしょから読みたくなって、シリーズ1冊目の『いつか陽のあたる場所で』を借りてきた。

単行本のときに読んでいるのだが、読みなおしてみると、ぼんやりとおぼえている部分もあったものの、なんだか初めて読むようだった。前に読んでから6年、そのあいだに自分の「受容器」が変わったのかもと思った。

物語は、芭子と綾香が刑務所[あそこ]から出てきて1年足らずの頃から、春が来たら2年になるという頃までを4話で描く。芭子は29歳で、綾香は41歳、同じ干支のひとまわり違いの二人。

綾香がもう償いは終わったんだから、もう普通に暮らしていいじゃない、どんどん取り戻していいんじゃないと言うのに対して、「─そんな、人並みの暮らしなんか、望んだらいけないんだ」(p.27)と思う芭子。

7年の懲役をつとめて出てきた芭子は、何かの拍子に自分の過去がバレるんじゃないかと怖れ、キリキリと緊張しているのだ。最終巻の芭子の姿を読んだあとに、この出てきて間がない頃の暮らしぶりを読むと、「過去は過去」ということに容易にはならない現実に、胸がつまる。
ある日、芭子が逮捕されて以来、ほとんど絶縁状態だった弟が訪ねてくる。こんど結婚する、ついては姉は死んだことになっていて、戸籍も分籍してほしいと言いに来たのだ。

その弟に、これからどんな道をゆくつもりかと問われた芭子は、何年も刑務所で暮らしている間に、自分の夢とか夢を見る方法を忘れちゃったみたいなんだと話す。

分籍の届けなどの書類に芭子が署名捺印したあと、弟は、実家にあった芭子の荷物を送り届けてきた。その懐かしい品々を見ながら、芭子は「私は、こういうものに囲まれて暮らしていた」(p.312)と思い出す。そして、荷物には、弟からの手紙が入っていた。

そこには、これまで姉が何になりたい、あんな職業につきたいと言っていたことについて、弟が思い出せるかぎりの記憶を書いてくれていた。末尾は「元気で。姉さんらしい人生を。」と結ばれていた。芭子は弟の手紙を見つめたまま、「さようなら」と呟き続けた。涙が止まらなかった。

▼…いくらそう思おうとしても、突っぱねても、本気で憎めるはずなどないと分かっている。
 何より、この手紙からは、尚之なりの精いっぱいの思いが感じられるのだ。将来を考える術を失った姉を、あの弟なりに案じているのが痛いほど伝わってくる。…(pp.316-317)

自分の側から、自分の思いばかり考えていた芭子が、そのあたりから、自分にとってこう見えている経験が、自分の周りの人にとってはどうなのかと考えるようになる。弟や家族のことを考え、綾香のことを考える。そこが芭子の「きっかけ」になっていったのかなと思った。

(8/10了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第40回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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