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いちばん長い夜に(乃南アサ)

いちばん長い夜にいちばん長い夜に
(2013/01/31)
乃南アサ

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刑務所[あそこ]で知りあった、前科[マエ]持ちの二人・小森谷芭子と江口綾香のシリーズ、『いつか陽のあたる場所で』『すれ違う背中を』に続く完結編。「ブックマーク」81号で紹介してくれた人がいて、あー、また次のが出てるんやと知った。

この完結編では、3月11日の震災をはさみ──作者の乃南アサ自身が取材のため仙台にいたときに大震災に遭遇した経験が、綾香の出身地の仙台を訪ねてそこで震災に遭った芭子の話として書きこまれている(作者の取材が3月11日だったのは、もうほんとうにたまたまその日しかなかったのらしい)。

大学生のときに服役し、刑務所から出てきたときには身内と絶縁されていた芭子は、出所当初は世間の目に怯えながらひきこもって暮らしていた。ひとまわり年上の、結婚や出産の経験もある綾香にたすけられ教えられて、一つひとつ暮らしをたてていく技術や知恵を身につけ、仕事をみつけ、倹約して貯金もし、少しずつ将来のことを考えられるようになってきた。

そこに起こった大震災。芭子は、たまたま行きの新幹線で隣り合わせ、震災後に避難した仙台のホテルで偶然再会した南君と、タクシーを3台乗り継いで東京へ帰ってくることができた。
▼不幸中の幸いだった。本当に運が良かったと思う。それなのに、どうにも後ろめたくて仕方がない。どうしても、自分だけが逃げてきたような気がするのだ。あの、ライフラインすべてが断ち切られてしまった、何の情報も入らなくなった土地に、大勢の人たちが残っているというのに、彼らを見捨てて自分だけが安全な場所に逃げてきた──そんな気分を拭い去ることが出来なかった。(p.270)

話しても他の人には分かってもらいにくい体験を共有した芭子と南君は接近する。彼を失いたくないという芭子の思いは強くなるが、同時に彼をだましている気持ちになっていく。「私は幸せになれない。なっちゃいけない。なろうと思ってもいけない」(p.285)と、出所した当初は念仏のように繰り返していた言葉が蘇る。言えるはずがない、自分が前科持ちで、ムショ帰りの女だなんて。

それでも、芭子はとうとう自分が前科持ちであることを弁護士の南君に洗いざらい喋ってしまった。自分はホストの彼のためにお金が欲しくて、あげくに昏睡強盗をして、7年服役していたのだと。

そんな芭子の変化を目の当たりにして、綾香もまた自分のこころに向きあう。夫からのひどいDVに遭っていた綾香は、生後まもない子どもに夫が手を上げたとき、子どもを守るために夫を殺してしまった。芭子が仙台へ向かったのは、綾香がそのとき手放してしまった子どもの行方を探したくてのことだった。

震災後、綾香は毎週のように休みの日にはパンを焼いて、自分の故郷でもある被災地へ運び続けていた。結局、勤めていたパン屋も辞めて、被災地の寺院や神社などに寝泊まりしながらほとんど無償で働き続けていた。いてもたってもいられない、と言って。

ほとんど被災地に泊まり込みの綾香は、月に一度か二度、東京へ戻り、芭子の家へ顔を出す。震災から1年経った3月11日に、南君が来ていた芭子の家で、綾香は、自分と芭子とは犯した罪が決定的に違うと言いだす。「人の生命を奪うっていうことは。他の、どんな罪とも」(p.356)

被災地へ行って、人間だから色んなことはしてただろうけれど、「だからって、あんな死に方をしなきゃいけないなんていうことはなかった」(p.357)とつくづく感じたのだと綾香は語った。

▼「つまり私は──初めて後悔したっていうことです。そういう人たちを見て、死んでも死にきれない気持ちに違いない、赤ん坊からお年寄りまでの、あまりにもたくさんの仏さんを見てるうちに、ああ、何も殺すことはんかったんじゃないかって。私が逃げ出せばよかったんです。警察にでもどこにでも駆け込んで、周りに助けを求めて。生命だけは──奪っちゃいけなかったって」(pp.358-359)

生命を奪うことは本当に取り返しがつかないのだと綾香は言った。その言葉が本当に重い。「…同じ臭い飯を食った仲だけど、私と芭子ちゃんとは全然違う。私も、しでかしたことが、せめて芭子ちゃん程度だったら、人の生命まで奪ったわけでなかったらって、どれほど思ったか知れません」(p.362)

「あとがき」で、乃南アサがこの物語では「取り立てて大きなことの起こらない日常」を書いていきたいと思っていた、と書いている。罪を犯し、それがために多くのものを失い、人生を大きく狂わせてしまった芭子と綾香が、ささやかな日常を積み上げていき、新たに生きていく希望をもてる物語を。

ここまでたどりついた芭子と綾香の姿を見て、もういちど二人の物語を最初から読みたくなった。

(7/25了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第44回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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