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ポトスライムの舟(津村記久子)

ポトスライムの舟ポトスライムの舟
(2011/04/15)
津村記久子

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6月の終わりに『ポースケ』を読んだら、ナガセって『ポトスライムの舟』に出てきた人よな~と思い、登場人物を確認したくて、図書館で借りてくる。

『ポースケ』にも出てくる、ナガセ、ヨシカ、りつ子、そよ乃が、もうちょっと若くて、20代の終わりの話。工場で働くナガセが、主人公というか、視点人物になっている。といっても、ナガセは「わたしは」と一人称で出てくるのではなくて、「ナガセは」と書かれる。

文庫の解説のところでは、一人称でも三人称でもない表現だとして、こう書かれている。
▼作者の等身大の分身と考えて差し支えのない主人公は、物語のなかで決して「わたし」となることはない。また「わたし」とは完全に無関係の「彼女」になりきってしまうこともない。つまりこの小説では、主人公の内面の心情を吐露しているように見える部分は全て、実は外面から見た客観的な描写なのである。(p.191、「解説 自由への航海」安藤礼二)

そんなことは5年ほど前に初めて読んだときも、今回読みなおしても、考えたことがなくて、へぇーと思いながら解説を読んだ。

ナガセは、工場の休憩場所に貼ってある世界一周旅行のポスターで、その費用163万円が、工場で働いて得る自分の年収とほぼ同じだと気づく。
▼生きるために薄給を稼いで、小銭で生命を維持している。そうでありながら、工場でのすべての時間を、世界一周という行為に換金することもできる。ナガセは首を傾げながら、自分の生活に一石を投じるものが、世界一周であるような気分になってきていた。いけない、と思う。しかし、何がいけないのかもうまく説明できない。たとえ最終的にクルージングに行かないとしても、これからの一年間で163万円そっくり貯めることは少しもいけないことではない、という言い訳を思いつく。(pp.26-27)

ナガセは、工場での月給に手をつけず、ヨシカのカフェを手伝うバイトと、パソコン教室で教えるバイトで入る収入だけで生きてみよう、と考える。その計画を実行に移していく日々、ナガセが手帳に書きとめる支出のメモに、この感じ、なんかわかるな~と思った。

口にするもの以外はほとんど買わず、節約していると、ナガセは「自分が今まで苦しい苦しいと言いつつも、使うか使わないのか定かでないようなものを日常的に買っていたことがよくわかった」(p.41)というのだ。

私は切手やら絵ハガキやら紙モノばかりやたら買っていたが、消費税があがったこともあり、4月以降は「2円切手」を何度か買ったくらいで、買い置きの切手やハガキを出してきて使っている。ほころびた衣類は繕って、いい感じにくたくたになったのがまだ着られる。食べるものは買わなあかんし、家賃はあるけど、スゴイ額の教育費なんかがなかったら、案外やっていけるんちゃうかーと思う。

そういう点でいうと、夫と離婚し、娘とふたりで暮らしていこうというりつ子の身の振り方──まずは古くて広いナガセの実家にしばらくやっかいになり(食べものを出す店を開く前のヨシカも、ナガセ宅に居候して、ナガセと同じ工場で働いていたことがあった)、そのあいだに正社員の職をみつけ、アパートを借り、少しずつ家電などを揃えていく──というのも、リアルやなーと思った。

『ポースケ』では5年生になって出てくる、りつ子の娘の恵奈も、すでに『ポトスライムの舟』に登場していた。図鑑が好きで、仏像を見るのが好きで、りつ子が働きに出ているあいだ、ナガセの母親と奈良をうろうろしたりする恵奈の言動を読みながら、この子の小学校5年までの「間」は、どんなんやったんかなーとも思った。

併収の「十二月の窓辺」は、登場人物の名前は違うものの、ナガセ(あるいは著者の津村さん自身)が、新卒で入った会社で上司から凄まじいモラルハラスメントを受けて退職した、という話を想像させる。

主人公のツガワに、「やる気がないんならやめてもいいわよ」と言い、同時に「でもあんたなんか、よそじゃ絶対やってけないでしょうね。絶対」と言うV係長の言葉は、まるで呪詛だった。「自分が悪いのかもしれない」と思わせるこの言葉は、「やめるな」と言われるよりも、へこたれる。V係長の言葉は真実なのだろうか、とツガワはよく考えた。そして、辞表を毎日持ち歩いていた。

ツガワは、自分が働くビルの向かいの建物に入っている、かつて自分が不採用となった会社の印刷室で働く「彼女」を、日常的に覗いている。そこで「彼女」に暴力が振るわれるのを見た日、どこに行ってもこんなことはあるのかとツガワは思いながらも、その会社へ電話をかけて、自分が見た暴力について話した。

そしてある日、ツガワは、その会社を訪ねて、印刷室で働いている「彼女」を受付で呼び出してもらう。「彼女」は感じのいい男の子だった。そのことが、「彼女」が暴力を振るわれた原因かどうかはわからないが、暴力を振るったのは「目下の者には威圧的で、贔屓をして、上の人にはへこへこして、そのくせ裏では悪口ばっかりで(p.179)という人物だった。

そして職場を辞めることを決めたツガワは、「自分も誰かの気休めになることができればいい」(p.187)と思う。そこが、今回読んで、ぐっと印象に残った。

(7/13了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第37回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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