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ルポ 貧困大国アメリカ II (堤未果)

ルポ 貧困大国アメリカ IIルポ 貧困大国アメリカ II
(2010/01/21)
堤未果

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前著の『ルポ 貧困大国アメリカ』は、出た年に読んでいたが、この続編は、出てから4年経って読む。本が出てからの4年を思うと、アメリカという国がやっていることを、まるで日本が手本にして追いかけているように思えた。

「Yes、We can!」や「Change」というスローガンのもとでオバマが大統領に選ばれたのは2009年。この同じ年の政権交代で、日本は非自民政権となった。そこに込められた期待は、海の向こうもこちらも似たものだったのだろう。暗黒の8年と呼ばれたブッシュ政権、長らく続いた自民党政権への不信や不満。

オバマ政権の登場で状況は変わったのかといえば、悪者ブッシュを追い出したはずなのに、状況はむしろ前より悪くなっている。そのことを著者は取材をつうじて、書いていく。

公教育、年金、医療、刑務所──4つの章でとりあげられるのは、学資ローンが借金地獄に変わり、企業年金の崩壊で老後の生活設計が崩れ、医療費が高すぎて医療を受けられず、刑務所が企業にとって格安のアウトソーシング先になっている、という事態だ。
学資ローンが、通常のローンに適用されている消費者保護法から除外されていて、破産手続きができない、というのはびっくりした。奨学金という名の借金をしたことのある私には、他人事とは思えない。

住宅ローンは、家を手放してホームレスになれば解放される。だが、学資ローンはたとえ借り手が死亡しても追いかけてくる。職に就けなかろうが、病気になろうが、失業しようが、学資ローンから逃れる術はない。「学生がローン返済を一定期間以上延滞すると、政府はあらゆる手段でそれを取り立てることができる」(p.49)という。

▼学生が延滞した債権は政府が引き受けて、その97%を民間の保証会社に支払うため、政府は回収機構を通じてどこまでも学生を追いかけてくる。(p.38)

『ジェミーと走る夏』の物語では、ジェミーも、その母もおばあちゃんも、教育は未来への投資であるという素朴な信頼をもっていて、「なりたいものになれる」とキャスに話しかけていた。

このルポでは、「学位さえあれば社会に出てから望む仕事につけるという幻想を今も抱いている人々は、金融機関にとっては高利の借り手として最高のカモなのです」(p.52)という、UCバークレイ校の低所得者用奨学金プログラムのアドバイザーの話が引かれている。

それと対のように、「この国では、高卒の人間がつける職業はマックジョブ(マクドナルドの店員のような時給で働く仕事)しかないわ。いまどんなに借金しても大学の学位だけは取らないと、永久に低賃金の職を転々とするはめになる」(p.50)と語る学生の話も引かれている。

▼子どもたちにとっての教育が、将来への希望ではなく恐怖や強迫観念に変わる時、彼らの不安はある種の業界にとって、有益なビジネスチャンスになる。(p.60)

このごろ「ナントカ活」という言葉が流行っているが、就活や妊活や保活などといったそれらの言葉は、こういう「恐怖や強迫観念」にやられているように思える。

前科と借金のために職に就けず、累犯者となって刑務所に戻ってしまった人の弁護士が、こう語っている。
▼「問題は、この国の国民が恐怖にコントロールされ続けていることです。国民は、「テロとの戦い」というキーワードにあおられて、膨れ上がる軍事予算と戦線拡大を黙認し、次々に現れる病気への恐怖から薬づけになり医療破産している。
 学位がないとワーキングプアになると思いこまされ、法外な学費を払うために高利で借金をする。ホームレスになり刑務所に入ったあとも、さらなる借金スパイラルが追いかけてくる、といった具合です」(p.193)

刑務所が格安労働市場だという話は、明治の北海道開拓に囚人を酷使した『赤い人』を思わせる。だが、いまのアメリカがもっとすごいのは、大幅なコストカットのために刑務所がどんどん民営化された上に、部屋代や医療費など囚人への「経費」請求が認められるようになっていることだ。刑務所での労働対価よりも、経費のほうが上回れば、服役中にあっという間に借金づけになってしまう。

アメリカの教育の話、年金の話、医療保険の話、囚人労働の話は、どれも読んでいて、遠からず日本もこの道に行くのだろう、いやもうすでにその道に入っているのだと思えて、方向を変えていくにはどないしていけるのか、変えていける希望はあるのか…と思った。

著者はあとがきで、取材中に会った多くのアメリカ人の口から「チェンジという言葉に熱狂し、選挙後は政治に背を向けてしまった」「前政権の時ほどに、政治の矛盾を追及しなくなってしまった」(p.213)といった言葉を聞いたと書いている。

そうした中でも、おかしいことはおかしいと声を上げ続ける人たちがいて、リーダーを変えることに終わらず、リーダーを動かすために自分たちが変わろうという新たなスローガン「オバマを動かせ(Move Obama)」が生まれたことが紹介される。

「民主主義はしくみではなく、人なのだ」(p.215)という著者の言葉に、「誰か」はやってくれないと思った。政治のことを選挙のときだけ思い出すのではなくて、日々関心を持ち続け、「あの人が選ばれたら安心」と政治家にお任せするのではなく、疑問や要望があればどんどん口に出し、仲間をさがす。恐怖にやられたくはない、と思う。

(7/8了)

*誤字、というか表記の不揃い(3刷)
p.159 カルフォルニアをはじめ、いくつもの州で
 → カ「リ」フォルニア
他のページでは、どれも「リ」の表記になっていた
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第37回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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