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ジェミーと走る夏(エイドリアン・フォゲリン)

ジェミーと走る夏ジェミーと走る夏
(2009/07)
エイドリアン・フォゲリン

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これも4年前に読んだ本。また読みたくて借りてきた。6年生の夏休み、走るのが大好きなキャスとジェミーの話。

隣に黒人の家族が引っ越してくるという噂を聞いて、キャスの父さんは、隣家との間に、プロのバスケ選手だってのぞけないような高い塀を建てた。母さんは「いい人たちかもしれないじゃない」と言ったが、父さんは「転ばぬ先の杖だよ」と言った。

フェンスの節穴からお隣さんをのぞいていたキャスは、隣のジェミーに見つかる。お互い名乗り、「もしかして、走るの好き?」「走るの? わたしはね、走るんじゃないの、とぶのよ。だれにも負けないわ」「わたしなら勝てるかも」と言い合って、次の日の朝、学校のトラックで確かめることにした。

おたがいに全力で走った二人は、熱中症でぶったおれないよう、ひきわけにした。「あんた、速いじゃない」「あんたもね」と認めあって、それから毎朝、一緒に走る。

キャスは黒人ぎらいの父さんに見つからないよう、そしてジェミーは心の狭い人種差別主義者の隣人をにくむ母さんに見つからないよう、フェンスの端から本を受け渡しして、順に朗読して一緒に読んだ。ジェミーたちが越してくる前に住んでいたミス・リズからもらった『ジェーン・エア』。
引っ越してきたとき、高いフェンスを見たジェミーのおばあちゃんは、ほっときなさい、それに「隣人を愛せよ」だよと言ったが、ジェミーの母さんは、娘のジェミーに「ちょっと、見てごらんなさい」「心の狭い人間っていうのは、こういうものなの」(p.19)と言った。

ジェミーとキャスのつきあいを知ったとき、ジェミーの母さんは、隣の子とは会うな、つきあうなと言った。「となりの子はね、黒人に対するにくしみに満ちた連中のなかで育ってきたの。あの子の身にしみついているのよ。となりの子のような友だちは、いつかジェミーをがっかりさせることになるわ」(p.123)と。

キャスは、父さんは正しくないと思い、ジェミーは、母さんだって同じ、心が狭いとぶつける。でも、12歳の二人は親を容易に説得できない。会うなと言われ、友だちと会えないさびしさに身をこがす。

物語の後半、ある事件をきっかけに、キャスの父さん、母さんと、ジェミーの母さんとが、ぎこちないつきあいを始めてから、ジェミーの母さんがどんな経験をしてきたのかが、おばあちゃんの口から語られる。

黒人の子を白人と同じ学校に通わせることができるようになって、しばらくしてから、おばあちゃんは娘のレオナ(ジェミーの母さん)を、白人の学校へやることにした。あの子を始めて学校まで送った朝のことは忘れられない、とおばあちゃんは言う。

▼「…白いスカートをしっかり糊付けして、髪にはリボンをつけてやった。学校じゅう探しても、あの子ほどかわいい子はいなかったね」「あたしらが学校に着いたとき、ちょうど、白人の親たちが、子どもを車からおろしているところだった。ふたりの男がレオナの真正面に立ってこういったんだよ。『きたならしいクロンボめ』ってね。想像できるかい? たった六歳の子にむかってそんなことをいうなんて」「でも、あのときほどあの子を誇らしく思ったことはなかったよ」「レオナはね、泣いたりはしなかった。ランチの入った紙袋をぎゅっと胸にかかえて、その男たちを見上げていったんだ。『失礼します。通してください』ってね。ところが、あの子がふたりのあいだを通ろうとしたとき、そのうちのひとりが、あの子のドレスにつばを吐いたんだ」(pp.229-230)

キャスの父さんは、その話を聞いて、白人の学校へ行こうとしなければ、そんな目にあわずにすんだのにとつぶやく。

おばあちゃんは、娘のレオナがどんなに怖い思いをしたか、おばあちゃん自身がどんなにおそろしい思いをしたかを続けて話した。

▼「あの子はね、毎日恐怖と戦いながら学校に通った。トイレにいくことさえこわかった。校庭のけんかに巻き込まれるのをおそれ、夜になったら白人の子どもたちが近所を歩きまわって、あたしらの家にむかって水風船をぶつけるのをおそれた」「その子らの父親たちは、見せびらかすようにショットガンを持って、トラックを乗りまわしてた。あたしらを脅すためにね。あたしは自分の子になにか起こらないかとおそろしくてしかたなかった」(pp.230-231)

水風船なんて、ただの子どものいたずらじゃないですかと、キャスの父さんは言い、そこまでしてなぜ通わせたんですかとまた訊いた。おばあちゃんの答は「ちゃんとした教育」のため。

ジェミーの母さん・レオナは、自分の未来のために必要な教育を手に入れ、一族で初めて大学へ進み、看護師になった。キャスの家では、まだ誰も、短大にも行ったことがない。キャスの父さんが、もう少しで条件のいい仕事につけると思ったとき、その仕事は黒人に決まった。キャスの父さんはなかなかいい仕事がみつからず、それを黒人のせいにするねじれた感情のことも、描かれている。

ジェミーのおばあちゃんは、教育の力を信じている。キャスの家では、キャスが初めて大学へ行く人になるかもしれないと言い、「お金がかかりすぎるから」というキャスに、「だから、無知のままでいいのかい? 教育にはたしかにお金がかかるよ。けれど、それはいっときのこと。無知のままなら一生、そのつけをはらいつづけなきゃならないんだ」(p.84)と話しかける。「あんたみたいに賢い子はね、将来、なりたいものになれるんだよ」(p.84)と、キャスの肩に手を置いておばあちゃんは言った。

物語のなかでは、教育という投資は信じられる話であるほうがいいのだろう。でも、こないだ『ルポ 貧困大国アメリカII』を読んだら、値上がりするばかりの学費と、とんでもない条件の教育ローンのせいで、未来への投資だったはずの教育は、いまのアメリカでは、まるで未来の足枷のようになっているようだった。

ジェミーの母さんがおそろしい思いをしながら学校へ通ったことが描かれるように、そんないまを描く物語もこれから書かれるのだろうか…と思う。

(7/4了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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