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これからお祈りにいきます(津村記久子)

これからお祈りにいきますこれからお祈りにいきます
(2013/06/28)
津村記久子

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こないだ『ダメをみがく』を読んで、しばらく読んでなかった津村さんの小説を久しぶりに借りてくる。1年前に出た単行本のタイトルは、収録されている小説のタイトルとは違って、収録の2篇は「サイガサマのウィッカーマン」と「バイアブランカの地層と少女」というもの。

メインの「サイガサマ」の話は、神様に「これだけは取られたくない」ものを申告して祈る祭りがある町(大阪府の南部とおぼしい架空の町=雑賀町)が舞台。そういう祭りのことが頭に入ってくるまでは、巻頭の8ページ目にある文章がなんど読みなおしてもわからなかった。

小学生のときの工作で、シゲルはうっかり四本しか指がない右手をつくってしまって、隣席の女子にこう言われるのだ。「高嶋君てなになん、何とられてもええのん、だって高嶋君自身はちゃんと指五本あるやん、せやからこれをカゴに入れて燃やしたって、右手を取られたくないってことにはならんのとちがうのん?」「せやから神様は、高嶋君からなんでも取り放題やんね」(pp.8-9)

何とられてもええ?
右手を取られたくないってことにはならん??
神様はなんでも取り放題???
何の話なのかぜんぜんわからんぞーと思いながら、もうしばらく読んでいると、この町では、サイガサマという神に願いごとをする際に、人体の一部を工作して「これだけは取らんといて!」と申告する祭りがあることがわかってきた。

この神様は、そういうPRをしてもらわないことには、願いを叶える際にだいじなものを取っていってしまう粗忽なところがあるらしい(サイガサマが蔑称で「はつ神様」と呼ばれるのは、願いを叶えたもののハツ=心臓を取ってしまって祈願者を死なせたことからきているらしい)。というよりは、サイガサマはたいして力のない神様なので、なにかをもらわないことには願いを叶えるような力は発揮できないというべきか。

小学生も中学生も大人たちも、工作やら手芸やらで申告物である「人体の一部」(願いが叶えられるときに、他の箇所はともかく、ここだけは取らんといてという部分)を作り、祭りの日にはそれらが巨大な人型の籠へ入れられて燃やされる。そういう奇習はこの町だけのことで、小学生は授業で「人体の一部」を工作し、中学生は人型の籠を編み、公民館では町民が申告物をつくるための講座が開かれる。

主人公の高嶋シゲルは、小学生の頃に、サイガサマについての自由研究作文を書き、それで市長賞までもらった。けれど高校生のいま、シゲルはこの祭りにたいした思い入れはない。それでも、アルバイト先の公民館で(そもそもシゲルは清掃の仕事をしていた)、否応なく祭りの準備にまきこまれていく。

シゲル自身の家族のごたごたに発するイライラや、小中の同級生だったセキヅカの苦労などが絡みながら、話はすすんでいく。セキヅカの父親は七年前に倒れて以来、昏睡状態のまま目が覚めない。妻と娘は、父の営んでいた店を守り、生活するために、働きづめだ。セキヅカはアルバイトを三つも掛け持ちしていて、サイガサマの祭りの当日にも来られない。

シゲルは自分のぶんとセキヅカのぶんと、折り紙でつくった二つの心臓を人型の籠に入れ、「セキヅカをもうちょっとらくにさしたってください」と祈る。その祈りは、へたくそな神様がシゲルの顔の左半分の吹き出物を取っていって、叶えられたようだった。

もう1篇の「バイアブランカ」のほうは、ひょんなことから地球の裏側・ブエノスアイレスの少女フアナとメールのやりとりをするようになった作朗が、そのフアナのために京都のお寺へお願いに行く。それも、むかし憧れていたみづきちゃんと会う約束をしたのをぶっちぎって、友人エンドーを連れて、清涼寺へ行く。

ハンドルのついた大きなやぐらのような法輪を、一回まわしたらお経をすべて読んだのと同じ功徳があるという、あれの御利益でどうにかならないかと作朗は考えたのだ。二人でぐるぐると法輪をまわしながら、エンドーの円形脱毛のこともあわせて祈った。

「フアナの彼氏のけがが治りますようにー!」
「治りますようにー!」
「いろいろ治りますようにー!」
「ましになりますようにー!」
「よくなりますようにー!」
「ケガがー!」
「ハゲがー!」
(p.212)

エンドーによると、フアナの彼氏とおぼしきサッカー選手は、膝を怪我したそうだが、「試合に出とったで、けろっとして」ということが分かった。よかった、と作朗は思う。

2篇とも、なんだかフシギな設定ではありつつ、主人公のシゲル(いなかの町でイライラする高校生)あるいは作朗(京都から出たことのない大学生)の、日々のこまごまとした言動の描写が、あーこれこれツムラ節って感じで、おもしろかった。

閉塞感からある日飛び出すような、「祈る」ということをネタにした青春小説というのか。2篇とも主人公は男子だが、これが女子の主人公だったらどんな話になったかなーと思ったりした。

(5/27了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第42回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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