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私の好きな悪い癖(吉村昭)

私の好きな悪い癖私の好きな悪い癖
(2003/11/14)
吉村昭

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『史実を歩く』とあわせて図書館で借りてきて、『史実を歩く』に続けて読んだ。

「エッセイは、小説を書く私の素顔である」(p.240)という著者が、日常見聞きすることがらの中から「書くに足る」と感じた対象を書いたもので、こちらも、作品の舞台裏のような部分が大きかった。幼い頃の日暮里での暮らし、自身の小説作法から、取材の旅、そして心に残る人のことなどが書かれている。

吉村昭の小説作品をひとつも読んでいない私は、以前から気になっていた『関東大震災』を買ってきて読んだ。この『私の好きな悪い癖』の「史実を究める」という章のなかでも、「『関東大震災』の証言者たち」として、かの大震災を生きのびた方たちの話を聞いたときのことが書きとめられている。
吉村の両親は関東大震災を経験していて、夜の食卓でしばしばその思い出を口にしたという。その回想は、「自身の激烈さ、火災による大被害と同時にそれによって起った社会混乱」(p.107)であった。吉村は、自分の生れ育った東京の地において大震災がどのような実態であったのかを確かめてみたいと常々考えていて、それを記録小説として書くことにしたのだ。

資料をあたり、証言を得ながら書き終えて、「大震災についてそれまで定説化されていたことが事実と相違しているのを知ったり、地震そのものについての知識を得たりして、私はその小説を書いてよかったと思った」(p.113)と吉村は綴っている。関東大震災について断片的なことは知っていたものの、私には未知だったことも多く、その甚大な被害についての記述を読みながら、阪神淡路大震災や東日本大震災のことを思った。

同じ「史実を究める」の章の「文化の城─図書館」も印象にのこった。
▼小説の資料収集や現地踏査で、全国各地に旅をつづけてきた。
 私の旅は資料調査で、観光の要素は全くない。旅をすると、図書館に行って資料調べをし、それに関係のある地を歩いて、それで帰京する。私には、図書館がきわめて貴重な存在なのである。(p.141)

吉村は、小説を書く自分が図書館をどれだけ頼りにしているかを書き、各地の図書館が年々充実してきていることに大きな喜びをおぼえているという。

しかし、図書館行政への不満も述べる。一言でいえば「為政者の図書館に対する認識が欠如している節があること」(p.143)、つまり、「為政者にとって橋や道路の建設は選挙の票になるが、図書館の充実は票にむすびつかないらしい」(p.144)と。

私は、月に一度駅で通信をくばる市議会議員が、市立図書館の人件費が高コストだとしきりに書いているのを思い出す。その議員は、保育所を民営化すればもっと低コストで運営できるという主張もしている。学校給食も、もっと低コストでできると書いている。人にかかる費用を「コスト」だと言いだすのは、そんな費用は安ければ安いほどいいのだという発想があるようで、私はその議員の通信をもらって読むたびに、もやもやとする。

吉村のこの文章が載ったのは平成11年1月号の『図書館雑誌』で、それから十数年。近隣の図書館の事情や、図書館に向けられる評価のようなものを見聞きしていると、為政者のどうこうがあるにしても、文化の城はそこを守ろうという城下の人びとがいなければなーと思えてくる。

『史実を歩く』同様、この本も、読んでいると、吉村昭がこうして取材した作品のほうを読んでみたくなるのだった。

(5/26了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第37回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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