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感応連鎖(朝倉かすみ)

感応連鎖感応連鎖
(2013/02/15)
朝倉かすみ

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母と娘の関係がごにょごにょっと書かれた連作集。墨川節子、秋澤初美、佐藤絵理香、新村由季子の4人の名がそのまま章タイトルになっている。

冒頭の節子の章から、ぎょっとする。節子の母・和代は、娘のことを「セシルちゃん」と呼ぶのだ。私立女子高に合格した節子に「セシルちゃん、合格おめでとう」と言い、夫の時彦が「セシルってだれだ」と口を挟む。

自分を「セシルちゃん」と呼ぶ母のことを、15の娘は冷徹なまでに観察している。15にしては達観のほうだ、と自己分析もする。

「おかあさまは、セシルちゃんの努力を知っています」
「おかあさまも、セシルちゃんと一緒に努力してきました」
「セシルちゃんが合格したということは、おかあさまが合格したのも同じなのです」
「だって、セシルちゃんとおかあさまは一心同体なんですもの」

母はその巨大な顔面をあげて、うっとりと、あらぬほうを見あげてほほえんでいる。口もとはだらしなくゆるんでいる。娘は、母のこのほうけたような表情にはとっくに慣れている、と思う。
娘は小5のクリスマスにカメラをねだり、それで毎日母を撮り、自分自身も撮った。「わたしの成長とともに和代の顔面も成長している」という仮説を検証するためだ。

2年間撮った写真を、娘はアルバムにおさめている。
母の顔面が、めりっ、めりっ、めりっ、と巨大になっている。
娘のからだも、めりっ、めりっ、めりっ、と巨大になっていっていた。

あるいは、娘に寄せる母の「思いの丈」が娘のからだを肥満させ、母の顔面を巨大化させているのかもしれない(第二の仮説)。あるいは、娘のからだと母の顔面をふくらませたものは、2人のやりきれぬ思い、思い通りにならぬ思いかもしれない(第三の仮説)。

母が信じているのは、「夢のような理想の娘」だ。母はそれを口に出して言うわけではないが、その思いの丈は、言葉にしないぶん、よけいに強く発散される。母はときおり、その夢の娘を思いうかべて放心する。おかあさまはわたしを見ていない、と娘は気づいている。

▼じゃあ、だれを見ているのだろう。よそに子どもがいるのだろうか。おかあさまは、わたしとその子とどちらがより好きなのだろう。(p.20)

娘は母を憎み、そして母を憐れむようになった。

発育がよく、有り体にいえば肥満していた節子は、「でぶ」「でぶのくせに」と言われないよう細心の注意を払っていた。159センチ、95キロのからだに向けられる失笑をくいとめたい、肥満ではなく異形と認知させたい、と節子の自意識は叫んでいた。

高校にあがっても、とぎすまされた節子の自意識は自身と周囲のモニターをおこたらない。高校で初めて会った同級生・絵理香は、やけに勘がよかった。そして同じクラスになった島田由季子の姿は、まるで母の望む「夢の娘」そのものだった。

話はそこから、この3人と、3人の担任の秋澤の妻・初美とを絡ませながら、じわじわっとふくらんでいく。4人それぞれに、ふくらみきってはじけそうな自意識の扱い方が違い、一番手なずけていると思えるのが節子だ。あとの初美、絵理香、由季子は、自意識にさいなまれている感じがする。

最後の由季子の章は、時間がしばらく流れていて、だが、それはまた冒頭の母と娘の話に戻るかのようだ。由季子が、まるで節子の母・秋代のように見えてくるのだ。そして、秋代は、由季子のような育ちをしたのかもしれない、と思わせる。

「こんな子だったらいいな」という、周りの大人たちの希望や期待に雑作なく応えてきた、「夢の娘」への期待に応えることができた――そんな由季子は、自分が「からっぽ」だと感じている…。

なんか、怖さのある話だった。

(4/30了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第41回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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