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スタッキング可能(松田青子)

スタッキング可能スタッキング可能
(2013/01/18)
松田青子

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3月初めに買った雑誌『SIGHT』の冬号掲載の「ブック・オブ・ザ・イヤー2013」で、斎藤美奈子と高橋源一郎が「文芸編」で語ってる中に、「労働疎外の2冊」としてこの『スタッキング可能』『工場』(「穴」で芥川賞をとった人の作)がとりあげられていた(斎藤選)。

表題作がちょっと分かりにくいので、先に他のを読んだほうがいいと書いてあったのにしたがって、「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」という漫才のような散文詩のような小説3本を先に読んで、そのあと他の2本「もうすぐ結婚する女」と「マーガレットは植える」を読んで、最後に表題作「スタッキング可能」を読む。

「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」の3本は、平田俊子の散文詩を思わせるところがあった。表題作を含むあとの3本は、姫野カオルコか山崎ナオコーラか津村記久子かという感じで、ちょっとフェミのツッコミ入ってる風な、氷河期世代風な…小説だった。
「もうすぐ結婚する女」は、フツーの小説であれば固有名詞が入るところを、一括で指定して「もうすぐ結婚する女」に置換したような、読んでいるとふしぎなリズムのようなものを感じる文体になっていた。平田俊子の『(お)もろい夫婦』に入ってる詩のようでもあった。

「スタッキング可能」は、とあるオフィスビルの各階での会話やら内なるココロの声やら人間模様が錯綜して、どんだけ登場人物出てくるねんと思ったが、『SIGHT』の案内によるとABCD…と出てくる人物は階は違えどほぼ同じ人間像のようなのだった(A山さんとA川さんは同じとか)。伏せ字の固有名詞のように出てくるB山やらB田といった名前は、まさに記号で、読んでいると、階の違う(=別の)オフィスであっても似たような人が似たような会話をしてんねんなーということが、だんだん分かってくる。

そんなオフィスで働いてる女=『わたし』の違和感やがっかり感やうんざり感に、わかる~と思った。「そうしない女がいることを体現してやると心に決めた」とか「絶対それが普通だって思わない」とか、めっちゃわかる。

▼…それがはじまりだった。終わりのない違和感のはじまりの日だった。
 一度気になりだすと、違和感はどこまでもついて来た。『わたし』がいくら年をとっても、どこに行っても。
…(略)…どこにでもいた。似たようなのがどこにでも。
 『わたし』はその度に、あーあ、と思った。がっかりした。そう、本当に、心の底から、がっかりした。(pp.16-17、「スタッキング可能」)

▼『わたし』はいつか自分はがっかりしない男の人に出会えるんだろうかと想像してみた。望み薄だな。だってこんなにうじゃうじゃいるんだもん。うっじゃうじゃ。…(略)…
 『わたし』は絶望した。終わってる、この世界、終わってる、と思った。
 笑顔がかわいい。えくぼがかわいい。天然でかわいい。家庭的でいい。やさしい。
 男たちが好きな女のナイスポイントをあげつらうたびに、『わたし』はそんな女になりたくないと思った。死んでもなりたくない。
 …(略)それが当たり前だとどこでそう思ったのか知るよしもないが当たり前だと思い込んでいる男たち、そいつらに合わせてるんだかそうじゃないのかわかんないけど同じ思い込みの中にいる女たちの中で、そうしない女がいることを体現してやると心に決めた。これは戦いだと『わたし』は思った。(pp.17-18、「スタッキング可能」)

▼どうしてただここにいられないの。どうしてずっと女だって、自分は女だって意識させられないといけないの。どうして仕事と関係ないところで、いつも居心地が悪い思いをしないといけないの。どうしてそれ含めて仕事みたいな部分があるの。どうしてありがたく思わないといけないの。少しもありがたくねえよ。
 『わたし』は絶対それが普通だって思わない。『わたし』は絶対おもねらない。だまってずっと、おかしいって、馬鹿じゃねえのおまえらって、心の中でくさし続けてみせる。頭の中にあるデスノートに名前を書き続けてみせる。だって誰かがおかしいと思ったから、いろんな場所でいろんな人が同じように思ったから、声に出した人だけじゃなくて、声に出せなかったとしても思い続けた人がいたから、たくさんいたから、たった20年ぐらいでこんなに違うんでしょ。だから思いつづける。(pp.88-89、「スタッキング可能」)

この人の新作『英子の森』も読んでみたいと思ったが、あいにく近くの本屋にはなかった。それで、とりあえずこの人が初めて翻訳したという『はじまりのはじまりのはじまりのおわり』を図書館で借りてみた。

著者の名前は「あおこ」とよむ。

※誤字か?
「もうすぐ結婚する女」の途中、私が会いにいったら、もうすぐ結婚する女がマスクをしていて、それで顔の全体を把握することが難しい…という箇所がある。

▼驚いたことに、もうすぐ結婚する女はマスクをしていた。もうすぐ結婚する女の顔下半分は、マスクに覆われていて顔の全体を把握することが難しい。…(略)…もしかしたら口の動きだけで私に何かを伝えようとしていた可能性はあるが、いかんせんもうすぐ結婚する女はマスクをしていたので、私が読心術を取得していたとしても役には立たなかっただろう。(pp.162-163)

ここに読心術とあるが、マスクで見えなかった口元を見ての読【唇】術と書きたかったのではないか?誤字か?

(4/22了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第40回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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