読んだり、書いたり、編んだり 

母さんがどんなに僕を嫌いでも(歌川たいじ)

母さんがどんなに僕を嫌いでも母さんがどんなに僕を嫌いでも
(2013/02/28)
歌川たいじ

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作者の歌川さんは、『じりラブ』のうたぐわさんでもある。この本が出た頃から気になっていたのだが遭遇できずにいた。こないだ久しぶりに図書館の書架をずーっと見てまわっていて、「ある!」と発見。さっそく借りてきて読む。さいごまで読んで、またてっぺんに戻って読んだ。

歌川さんが「遠い過去の自分とふたたび向きあって描いてみました」(p.126)という子どもの頃の虐待経験を描いたマンガは、『永山則夫 封印された鑑定記録』を読んだあとだけに、うぐぐっとくる。

「僕の味方は家族じゃなくて ばあちゃんと工場の人たちでした」という子ども時代。父の経営する町工場で、歌川さんが生まれる前から働いていた年配の女性「ばあちゃん」は、いつもいつも歌川さんの味方で、「たいていのことはばあちゃんさえいれば大丈夫だった」。そして、母が家出し、父にも無視された歌川さんの面倒を見てくれた工場の人たち。

「描くのは、苦しかったです」(p.126)というマンガは、読むのも苦しい。母の暴力、母との修羅場の日々、それは、中学・高校の頃から歌川さんを苦しめ、大人になっても、不意に過去にひきずりこまれてしまう。
「いい思い出をたくさん作って 人はだんだん強くなります」というように、歌川さんは人と出会い、「仲間と写真がどんどん増えていき」、それがどれだけ欲しかったものかを自分自身で知っていく。「いままで幸せの意味さえわからなかったけれど いまはわかるから」、だから自分のありのままを堂々と生きて、母に変わってほしい自分がまず変わろう、と思う歌川さん。

月に一度「ありがとう ごめんなさい 元気でいてね」3つの言葉を必ず入れて母に手紙を書くようになる。叔母(母の妹)を訪ねて、母が小さかった頃の話も聞いた。「母も僕と同じように 子どもの頃は毎日怖くて 自信なんかこれっぽっちも育たなかったのだろう」と歌川さんが想像する母の過去は、まるで永山則夫の母のようでもあった。

そして、歌川さんは、「子どもが変われば親は絶対変わる」という大将の言葉を信じて、母に徹底的によりそう。そうして、生活をたて直しはじめた母は、新しい商売を始める準備が整う直前に、事故で亡くなる。

歌川さんも新たな人生を送っている。
▼家族と呼ぶ以外 なんと呼んだらいいのかわからないほど 相方と長く暮らしています つまりひとりぼっちとは無縁の日々を送っているのです。(p.122)

マンガの間には、歌川さんのエッセイが3つ。その中でもエッセイ2の「殺人鬼はどこから来てどこへ行く?」は、ほんまにそうやと思った。

歌川さんは「犯人が連続殺人鬼になったのは、幼少時代に親から虐待を受けていたからだ」という図式のドラマや映画に出くわすたびに、もやもやするという。虐待経験が連続殺人鬼になった理由として、当たり前のように描かれることに違和感をおぼえるという。

▼できるならば、親から虐待を受けて育ったのち、"社会から孤立して"、その結果、反社会的な思いを抱くようになり、連続殺人鬼になった、とちゃんと描いてほしい。虐待と心の傷についてちゃんと勉強した人でなければ、安易に描いてほしくないのです。
 (中略)
 たしかに虐待にさらされた子どもは、成長して大人になっても孤立しやすい傾向があると思います。戦場にいるかのような、頭上で爆撃機が飛び交っているような気持ちで子ども時代を過ごすと、なかなか周りの人たちと同じようにできなかったりするし、孤立しがちなのも無理のないことかもしれません。でもですよ、でも、孤立さえしなければ、心の闇を深めていくこともないのです。
 (中略)孤立の問題に立ち向かうには、その人が抱えている痛みについて少しでも多くのことを人々が共有することが大切で、その共有を助けることこそが、ドラマや映画の大きな使命なのではないかなと僕は思っているのです。(p.66)

「おわりに」で、歌川さんは、母の過去を描くのは苦しかったけれど、「ばあちゃんのことを描けるのは、とても嬉しかったです」(p.127)と書いている。

どんなときにも、たいちゃんを受けとめ、たいちゃんの味方だったばあちゃん。「たいちゃんはなんにも悪くないんだからね」「たいちゃんはひとりじゃないからね」「たいちゃんにはばあちゃんがいるんだからね」とずっとずっと言ってくれたばあちゃん。

このばあちゃんの存在は、永山則夫にとっての長姉セツのようだと思った。

(4/7了)

*母さんがどんなに僕を嫌いでも プロモーションビデオ


*歌川さんのブログ
http://ameblo.jp/qm080952/
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第42回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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