読んだり、書いたり、編んだり 

いのちを選ぶ社会 出生前診断のいま(坂井律子)

いのちを選ぶ社会 出生前診断のいまいのちを選ぶ社会
出生前診断のいま

(2013/12/20)
坂井律子

商品詳細を見る

著者の坂井律子さんの本は、15年前の『ルポルタージュ出生前診断』を、今も十分通じると思いながら昨年読んだ。リケジョがどうのという岩波ジュニア新書に、新型出生前診断のことがおざなりに(誤り含みで)書かれていたことのモヤモヤが晴れなかったときだ。

坂井さんのこの新著が出たのを知ったころから読もうと思い、図書館にもリクエストしながら、本屋で立ち読みしたという人から「背筋の凍る事実が書かれていた」と聞いて、読むのに気合いがいるなーと思い、借りてきた本を積んでいた。それで返却期限がきたので、返す前に読む。

『We』188号でまとめた、玉井邦夫さんのお話(「新型出生前診断をめぐる取り組みから見えるもの」)を、なぞるような内容だった。

▼…間もなくあまりにも多くの、あまりにも判断できないようなことを「どうぞ選べます」といって差し出される日が来る。そのような、簡単に選ぶことのできる道具が、本当に私たちの使いたいものかどうかわからないが、いま着々と準備されている。それを前提に、どうしたら病気や障害を持つ人への差別や偏見が強まらないか、女性が子どもを産むことがかけがえのない幸せな体験であり続けるにはどうしたらいいのか、真剣に考え続けなければならない。(p.260)

新たな技術を使うかどうかは「女性やカップルの選択」なのだという話と、この技術の使用は「障害者の生や尊厳」を損なうことにはならないのだという話とは、ほんとうに両立するものなのか。
出生前診断の技術によってイギリスではダウン症児の出生が「抑制されている」が、フランスでは明らかに「減っている」という。そのフランスでの取材で、坂井さんが最も驚いたことは、産科婦人科全国医師会の副会長である医師が「21トリソミーについては誰もが知っているので検査のときに説明しない」と言ったことだった。しかもこの副会長は「妊婦の自己決定」だというのだ。インフォームド・コンセント、情報提供に基づく自己決定は、どうなっているのか? 

さらに坂井さんがびっくりするのは、NIPT(新型出生前診断)に反対を唱える医師たちのことを「彼らは少数派ですから気にしなくていい」とこの副会長が言うことだった。「あの人たちの意見は気にしなくていい」と公然と言う人がいる。そんなふうに、「実際には「ある」けれども「無い」と言われることの怖さを感じた」(p.265)ことが、坂井さんがこの本を書きたい、あったことを記録しておきたいと思った理由のひとつだ。

▼21トリソミーの人だけでなく、スクリーニングを批判する人たちに対してもまた「少数派」のレッテルが貼られ、批判、あるいは無視されていることに恐ろしさを感じる。(p.100)

「ふたりの医師」の話が、私にはぐーっと心に残った。
1999年、母体血清マーカーの技術が出てきた際に、厚生省が「出生前診断に関する専門委員会」を設けて、この技術について諮問したとき、議論の結果出された「母体血清マーカーに関する見解」は、日本で唯一といえる国レベルのガイドラインである。

このガイドラインが出るまでの議論に大きな影響を与えたふたりの医師、佐藤孝道と、松田一郎に、坂井さんはいまの状況をどう考えるかと話を聞いている。

1999年当時、佐藤は、ガイドラインの中で(妊婦に対しこの技術を)「知らせる必要はない」という一文を削除することに反対し署名を募った。松田は、「インフォームド・コンセントに基づく妊婦の選択」を強調し、この一文を削除することを主張した。

あれから14年、ふたりの答えは、どちらも坂井さんが予想していたものとは違っていた。簡単にはまとめにくいが、あえて整理すれば、佐藤は「子どもを産む、ということにポジティブになれる材料であれば、検査も使うべき」と考えており、松田は「多数の幸福のために何かを犠牲にするという功利主義の考えは日本にはそぐわない、「障害」を持った人がいる世の中が健全だ」と考えている。

坂井は、「現在の考えはそれぞれ1999年当時とは転換している…ふたりとも臨床現場の悩みのなかでこの問題を考え続けている」(p.236)と書く。

悩みながら考え続け、その後の経験や社会の変化のなかで、自分の考えは変わったと語るふたりの医師。私は昔の本を読むのも好きだけれど、このふたりの医師の話を読んで、「今」を追うこと、「今」を記録していくこと、そしてその「今」を読んでいくことも大事なことだなと思った。「このときに、こういう考えを持っていた人」が、未来永劫そのままであるわけではないのだ。

同時に、過去を振り返り、何があったかを確かめるときに、記録があることは大切で、坂井さんの仕事は有り難いものだと思う。

▼高度成長期に良質な労働力が必要とされたり、今日の先進諸国で少子高齢化が大問題になるなど、国が子どもの出生をコントロールしようとする契機は常に存在する。その結果、出生をめぐる様々な政策が実行されてきたのは歴史に見たとおりである。現代は、この「政治」に加えて「経済」が出生の現場を変え、女性に命の選択への道を用意している。(p.256)

利光さんの本『受精卵診断と出生前診断―その導入をめぐる争いの現代史』とあわせて、もう一度読みなおしたい。

(3/13了)
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://we23randoku.blog.fc2.com/tb.php/4912-07513b49
 
 
プロフィール
 
 

乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
    乱読ブログバナー
本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

amazonへリンク

 
 
最新記事
 
 
 
 
最新コメント
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
Google検索
 
 


WWW検索
ブログ内検索
Google
 
 
本棚
 
 
 
 
リンク
 
 
 
 
カウンター
 
 
 
 
RSSリンク
 
 
 
 
月別アーカイブ