読んだり、書いたり、編んだり 

わが盲想(モハメド・オマル・アブディン)

わが盲想わが盲想
(2013/05/16)
モハメド・オマル・アブディン

商品詳細を見る

図書館で数人の予約待ちをしていたのが届く。私のうしろにも数人の予約待ち。
もとは、ポプラビーチで連載されていたものらしい。ポプラビーチ発の本は、なかなかおもしろい。有名なのは大野更紗さんの『困ってるひと』とか。

この『わが盲想』の著者、モハメド・オマル・アブディンさんは、スーダン生まれ。本の時点で35歳のおっさん。19歳で来日し、福井の盲学校で学び、その後いろいろあって東京外語大へ。いまもそこで研究を続けてはるらしい。

この本は、音声読み上げソフトを使って、アブディンさん自身が書いたもの。漢字変換がちょっとへんだったところは、編集者が指摘して直したりもしたというが、母語が日本語でない人が、しかも漢字圏の出身ではない人が、そして見えない人が、的確に漢字を綴っていることに、すげーと思う。

『We』で、みんぱくの広瀬浩二郎さんにインタビューをもうしこんだとき、初めていただいたメールで、私の姓名がきちんと漢字変換されていて、ほんとうに驚いた。見える人からのメールでも違う漢字で変換されることがしょっちゅうあるので、読み上げソフトでどのように漢字を選ぶのか、そしてたとえば「冠」という字はどう説明されるのかと思った。

弱視だったのが12歳で視力を失うなど、アブディンさんは、ちょっと広瀬さんに似ている。おやじギャグをかましまくるらしいところも似ている。この本の章タイトルも、最初がトライ(try)と渡来をかけてあったり、とちゅうでは「酒って避けては通れない道」とか、ダジャレにまみれている。スーダンの広瀬浩二郎か?という感じである。本のタイトルも、『わが闘争』ならぬ"盲想"だ。
スーダンはどんな国と訊かれたら「スーダンは日本より数段広くて、数段暑い国だ」と答えたり、スーダンの位置を訊かれて「ヨルダンという国があるでしょ?その隣にヒルダンがあって、その真南にアサダンとスーダンがある」と言ってみたり。

耳から字を学ぶ、というのは、音で言葉を扱うということで、同音の言葉を使い分けていくことに長けるのかなと思った。アブディンさんもこう書いている。

▼日本語は子音が少ないだけに、作れる音のパターンも少ない。すると、違う言葉を同じように発音することが多くなる。いわゆる「同音異義語」というやつだ。…同じ音の言葉がたくさんあるので、これは漢字を見て判別するしかなくなる。しかし、漢字を見ることができないぼくは、おやじギャグを使って同音異義語を覚えていった。ぼくにとって、音の似た言葉を見つけて言葉遊びをするのは、見える人に比べて日常的なことなので、すごく簡単にでき、それを楽しむこともできた。(p.177)

日本語がまったく分からないで、19歳で来日したアブディンさん。ご苦労も多かったと思うし、苦悩の日々もこの本には綴られているけれど、新たなことに出会う楽しみ、喜びが明るく書かれているのがこの本の魅力。

▼この15年間の日本生活は、新しい発見と、自らの再発見に満ちたものでした。その間、何度となく、ぼくは悲しみと歓喜の涙を流しました。目標を失いかけて、ふらふら過ごす日々も少なくありませんでした。(p.272)

そして、そんなふらふら学生だったアブディンさんは、結婚し、二人の子どもがうまれた。
▼この本は、ぼくの盲想をフルに働かせて書いて来ましたが、今後は日本語のわからない妻、見えないぼく、子ども目線の娘二人というユニークな四人体制で、日本という面白世界を探索していきたいと思います。(p.275)

スーダンにいたころ、日本へ留学するという話をもちだしたときの、ライオンのような父との交渉風景も、かなり笑える。だが、スーダンの政情は笑えることばかりではなくて、アブディンさんの友人の多くが10代後半で命を落としているという。政治について自由に論じることもできないという。

そんなスーダンと日本とを比べて、若者の態度に言及しているところなど、硬派な面もこの本にはあって、そういうところは広瀬さんの『触る門には福来たる』なんかにも似ている。

かなりオモロイ本だった。

(11/9了)
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://we23randoku.blog.fc2.com/tb.php/4799-6c388d93
 
 
プロフィール
 
 

乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
    乱読ブログバナー
本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

amazonへリンク

 
 
最新記事
 
 
 
 
最新コメント
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
Google検索
 
 


WWW検索
ブログ内検索
Google
 
 
本棚
 
 
 
 
リンク
 
 
 
 
カウンター
 
 
 
 
RSSリンク
 
 
 
 
月別アーカイブ