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心配しないで、モンスター(平 安寿子)

心配しないで、モンスター心配しないで、モンスター
(2013/02/27)
平 安寿子

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「ブックマーク」も一段落して、いろいろと図書館で蔵書検索をする。平安寿子の新しいのはあるかな…とみると、今年出た本が空いていた。ので、借りてきて読む。

どうも全体に「歌ネタ」の短編らしく、表題の「モンスター」は、ピンク・レディーから(収録されてる作品のタイトルは「UFOに乗ってモンスターが行くぞ」)。そのほか、演歌にアニメソング、ビートルズやビーチボーイズ、フォスター、サンタナ等。

いつものように、毒を含みつつ、文章は軽快で小気味よく、おもしろい。
なんせ、冒頭から、こうだ。

▼女たちよ、覚悟せよ。ばあさんライフは、しんどいぞ。
 若い女の生きる道は、ばあさんライフよりきついのだ。
 というのは、ばあさんのひがみが言わせる嫌みだがね。
     (p.9、「丘の上の馬鹿になりたい」)

といっても、ばあさんばかりが主人公ではなくて、17歳の女子高生もいれば、定年後のおっさんもいれば、30代の女、20代OL、20代の宅配便ドライバー、などなど。それぞれの短編に、隣の短編の登場人物がちらと出てきたりもする。
どれもおもしろかったけど、やはり表題にも出てくる「モンスター」の「UFOに乗ってモンスターが行くぞ」が私にはとくにツボだった。

「自分は普通じゃない、かもしれない」という自覚に責められている落合光弘、26歳、宅配便ドライバー。20歳の専門学校生・カコとつきあっていて、このカコが着るものにもメイクにも、光弘はくぎづけだ。カワイイ! このカワイくなるテクニックを学びたいがゆえに、光弘はカコの身支度の一部始終をじーーっと見つめてしまう。

光弘がコスプレに目覚めたのは、19歳のとき。アルバイト先で粗相をして、ベテラン社員の服部さんに徹夜でカバーしてもらった。その交換条件に、ピンク・レディーのコンサートでコスプレの相方として参加したのがきっかけだ。長身の服部さんは、並んだときにバランスのいい相方がほしかったのだそうだ。

ピンク・レディー世代の服部さんは、全曲、歌って踊れるファン中のファン。コンサートに相方として行くにあたり、光弘はコスプレを指南され、DVDで振り付けも練習した。それでも、コスプレ衣装を着るのは恥ずかしくて抵抗があった。服部さんは「大丈夫よ。現場に行ったら、魔法がかかるから」と言っていた。

そのとおりだった。
会場の男子トイレは、お召し替え真っ最中のおっさんだらけ。なんだ、こいつら変態かと思った光弘も、コンサートが始まって、歌い踊っていると、物足りなくなってきた。楽しかった。幸福感があった。

そして、ふたたびピンク・レディーの二人が活動を始めると知り、「コンサートに行ける」と思った。コスプレをして踊りまくれるということだ。

ネットで知りあったコスプレ自作男と情報交換し、探しまくった「UFO」もどきの衣装で、光弘は会場ではじけた。ミツルという45歳のコスプレ男の知り合いもできた。

▼「変身願望って、誰にだってあると思うんだよ。それだけのことで、面白いからやってるんだけど、人には言えないのが、やっぱりつらいところだよね」
 「でも、誰にも迷惑かけてないだろ。大体、女はパンツスタイルができるのに、男がスカートはけないのは差別だよ。こと着るものに関しては、男ってバリエーションが限られてて、面白くもなんともないよ。メイド服なんか、可愛いと思うだろ」(p.181)
そうミツルは言った。

光弘は深くうなずいたのだ。以前、メイド喫茶で、カワイイ!着たい!と思った気持ちをすぐさま封印したことを思い出す。好奇心だ、と言い聞かせながら、人には言えないまま、光弘は制服セットをネットで買って、夜な夜な身につけてみた。そして、「制服が似合う女の子に変身したい」という自分の欲望に直面するたび、おののいた。
▼これって、普通じゃない。もしかしたら、もしかしたら……そうなのかしら?(p.183)

ずっとずっと、カコにも職場にも話すことのなかった"女装趣味"が、ある晩、寝入ったあとのカコの服を鏡の前で身体にあてていて…目を覚ましたカコにバレた。「彼女バレして、捨てられました。ww」とメールしたら、ミツルから会おうと言われた。

ミツルは、ピンク・レディーには助けられた、あの歌詞にがんばろうと思えたと言う。
▼「僕はね、11歳のとき、男の子だからピンク・レディーの真似はしちゃいけないんだと思ってた。でも、なんでいけないんだろうとも思った。だけど、そんな疑問を持つことに罪悪感みたいなものを感じてね。苦しかったよ」(p.191)

ピンク・レディー復活コンサートの会場で、あらためて歌詞をかみしめたミツル。
▼まったく異物の「宇宙人」や、嫌われ者の「モンスター」や、誰にも認めてもらえない「透明人間」。これは自分のことではないか。表面上はうまく取り繕ってきたが、ずっと疎外感に苦しめられてきたのではないか。(pp.191-192)

「女装には、常識という名の権威をふりかざす世間様の裏をかく痛快さがある」などと理論武装せずにはいられないところが男なんだよね、とミツルは言った。

ミツルに励まされて、光弘もカコに話した。「話してくれなかった」ことにこだわっていたカコは、光弘から話を聞いて、笑顔をみせた。宇宙人でもモンスターでも「それでもいいわ」。

▼だから、UFOに乗ったモンスターのままで、行くぞ、まっすぐに。(p.201)

(8/25了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第42回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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