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ピストルと荊冠 〈被差別〉と〈暴力〉で大阪を背負った男・小西邦彦(角岡伸彦)

ピストルと荊冠 〈被差別〉と〈暴力〉で大阪を背負った男・小西邦彦ピストルと荊冠
〈被差別〉と〈暴力〉で大阪を背負った男・小西邦彦

(2012/10/17)
角岡伸彦

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近所の図書館にないのでリクエストしたら、去年の本ではあるが珍しく購入になったようだ。
『とことん!部落問題』とか、『ホルモン奉行』とか、『カニは横に歩く』などの著書がある角岡伸彦さんの作。飛鳥会事件で逮捕された"極道支部長"、小西邦彦を描いている。

小西と同じ立場の部落出身である角岡は、取材に乗り気ではなかった。好きで書いているわけではないともいう。
▼私は小西の批判を含めて、雑誌でも本書でも思うままに書いた。私が常に意識したのは、もし自分がそこにいたら、どうしただろうか、ということだった。市職員の立場で小西と接したとき、「それは無理です」と言えたのか? 銀行員であったら? 支部員であったら? そのような視点がない、「こんな悪い人がいますよ」といったような勧善懲悪型の記事や本にはしたくなかった。
 人間は単純に「善人」と「悪人」に二分されるわけではない。私も含めて、両方を持ち合わせている。ただ、小西の場合、双方の「量」と「質」が尋常ではなかった。(pp.249-250)
小西は、「大阪市や三和銀行、部落解放同盟を一方的に利用しただけではなく、相互依存の関係にあった」(p.248)という。例えば、1975年に大阪市と市教委が全面協力してつくられた記録映画「わが町、飛鳥」は、小西の率いた飛鳥支部が大阪市にとってトクベツの存在であったことをものがたる。

▼大阪市内には部落解放同盟の支部が十二あるが、その中でも飛鳥支部は特別だった。ヘリを飛ばし、有名俳優をナレーターに迎える映画の製作費は、市の予算から出ている。他の支部に同じような記録映画はない。それもこれも小西支部長が、市幹部と特別な関係にあったからである。
 小西が組員であることを知っていた行政は、様々なトラブルの解決を彼に委ねた。小西はその見返りに、市にもろもろの便宜をはかってもらっていた。いわば持ちつ持たれつの関係である。(p.12)

▼部落差別という社会悪と闘うべく志を同じくする組織が結成される一方で、部落は現在でいうところの反社会的勢力を生んだ。どれだけ学業を積もうが高潔な人格であろうが、あらゆる門戸を閉ざされた部落出身者は、差別社会に暴力で牙をむいた。どんな努力も報われないのなら、腕力や度胸で相手を威嚇し、太く短く生きようとする勢力があらわれるのは、洋の東西を問わない。反社会的勢力は、いわば差別の副産物であった。(p.20)

そして、小西邦彦もその例外ではなかった。小西は「わしは体も大きかったしケンカも強かったから、自分自身が差別を受けたちゅうのはないねん」(p.23)という。

飛鳥地区は、大阪市の中心部に近いこともあって、近畿各地の部落や部落外から出てきた人が移り住んだという。小西自身も、他の部落から移り住んだ一人だ。

▼同対法という法的後ろ盾を得て勢いを増した部落解放運動は、小西邦彦に典型的に見られるように、行政に影響力を及ぼしてきた。行政も組関係者の小西を用心棒として利用した。
 しかし運動側も行政側もその代償を飛鳥会事件で払うことになる。(p.81)

部落差別は、身分制度がなくなった以降も残った。それにあらがうべく興った部落解放運動は、同対法という後ろ盾を得て、勢力をひろげた。
▼マイノリティの一任意団体が、行政に絶大な影響力を持ち、住環境、就労、教育、税金など、あらゆる分野で手厚い保護を受けた。それだけ市民権が保障されていなかたっとも言えるし、運動団体の力が強大だったとも言える。いずれにしても、それらを牽引した中核組織の一部は、ボス支配を許す前近代的な体質を内包していた。また、まともに働こうとせず、犯罪に手を染める堕落した部落民を生みだしていた。
 一連の不祥事の摘発は、法の失効を機会に、前近代的な負の遺産を一掃しようとした権力の一大事業であった。(p.192)

小西は、もうええ加減に辞めたらどうやと言われても、「支部長になる人間がおらへんねん」と言い、トップを代わらなかった。
▼確かに、地域はもとより行政や企業に絶大な影響力を及ぼした小西の代わりは、いなかっただろう。しかしそんなことを言っていては、いつまで経ってもトップは替わらないし、組織は若返らない。よくも悪くも小西ほどのカリスマがいないことは確かであったが、後継者を育ててきたのかというと疑問は残る。(p.161)

人一倍わが子を思う気持ちが小西を福祉事業家の道へ導いた、という話は、私がこの本で初めて知ったことのひとつだ。
▼小西は障害を持つわが子[長男]に関しては、きわめて世俗的な考え方の持ち主であった。自分は愛人をつくり、ほとんど家に帰らなかったが、息子は家庭を持つことが幸せと疑わなかった。(p.148)

飛鳥会事件と事件報道について、部落解放同盟の大阪府連は「事件報道が、市民の部落問題認識に悪影響を及ぼした」と考え、報道各社に公開質問状を出している。それに対する各社のコメントのなかでも産経新聞は「悪影響があるとするなら、第一義的に事件を起こした側に問題があるのではないか」と指摘している。

この指摘と府連の意見を対照させて、角岡は府連の「肥大化した被害者意識」(p.211)を見てとっている。「それは被害妄想ではないか」とマイノリティに対して言及するのは現に慎むべきことだが、府連の抗議や質問は、その域に達していると言わざるを得ない、と。

読んでいて、シェルビー・スティールの『黒い憂鬱』を思いだすところがあった。参考文献にあげられていた猪野健治の『やくざと日本人』も読んでみたいと思う。

(8/4了)
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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