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子どもを選ばないことを選ぶ―いのちの現場から出生前診断を問う(大野明子)

子どもを選ばないことを選ぶ―いのちの現場から出生前診断を問う子どもを選ばないことを選ぶ
―いのちの現場から出生前診断を問う

(2003/05/01)
大野明子

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何年か前にも読んだ本を、出生前診断についてのモヤモヤが続いて、また借りてきて読む。もう10年前の本だが、新型出生前診断という"血液検査で簡単に受けられる手法"がこの4月から始まり、それに「希望者が殺到」という状況を思うに、この本で書かれていることは、10年経った今も通じることだし、古びてないなと思う。

▼いかに美辞麗句で飾ろうとも、出生前診断の本質は、障害をもった子どもを人工妊娠中絶が可能な妊娠週数で見つけだし、排除することです。そして、そのおもな標的は、常染色体の数の異常として最も頻度が高く、かつ見つけやすいダウン症の子どもたちなのです。ダウン症は先天的な障害の一部にすぎず、しかも障害には後天的なもののほうが多いにもかかわらず、です。(p.29)

「知っておくことを避けられなくなってしまった現在、技術本位でない情報が必要だと思います」(p.2)と著者は書く。そして、「状況は個別ですから具体的には説明できなくても、たくさんの先輩たちがすくすくと育ち、家族とともに幸福に暮らしていることを知ってほしい」(p.3)と。

いま、はっきりと、出生前診断を是としない、という著者も、かつては、あいまいな姿勢だった。
出生前診断を伝えないことで、先天的な障害のある子が生まれた際に、なぜ出生前に発見できなかったのかと訴えられることを恐れてもいた。そして、自分自身が、障害のある子を抱える可能性に直面したときに、どんな選択をするかということにも、はっきりと結論が出せなかった。

そんな自分のあいまいな姿勢を、著者は、この5年間に出会ったダウン症の子どもたちとそのご両親によって足元から揺すぶられた、と書く。なかでも、この本で中心に書かれる春乃ちゃんとそのご両親から、この問題に向きあう勇気と力をもらったという。

産科医が置かれている状況は、たしかにそういうあいまいな姿勢になりがちなのかもしれないと思わせる。

▼小児科医は、すでに生まれてしまった子どもたちと向き合います。だから相手の存在を否定することなどできようもありません。さらにその日々の成長に向き合うことによって多くを学ぶのでしょう。
 けれど、産科医にとって、お腹の中のダウン症の赤ちゃんは、いまだ向き合っていない、未知の存在です。生まれたとたんに新生児科や小児科の手に渡してしまえば、その後の成長や暮らしを見ることも知ることもなく、あまり深く考えることもないまま、そういった子どもたちのことをまるで仮想敵のように考えがちです。その結果、出生前診断をしなければある頻度で確実に生まれるという現実から逃げるため、そういう子どもたちを淘汰してしまう方向、つまり出生前診断の結果としての人工妊娠中絶の方向へ行動してしまうのではないでしょうか。(p.14)

著者が、臨床遺伝医の長谷川知子さんにインタビューしたなかに、印象に残るはなしがいくつもある。
その一つは、「感情に蓋をしないこと」。

母親が子どもを受けとめられず、こういう子を産んでしまったという罪の意識や、まわりから責められるのではないかなど、自分のことを防衛せざるをえないこともある。

▼自己防衛がいけないというのではありません。人間はそういう立場になれば、当然、自己防衛するものだということを明るみに出したらいいのです。そこから始めないと、解決の糸口は見つかりにくいでしょうし、どうしても自分を守らないでは生きていけないような状態になっていることが問題なのです。…

 …お母さんたちが自分を防衛しなくていい状態になれば、比較的すんなりと子どもを受けとめられるのではないかと思うのです。そのためには、妊娠の初めから産後までずっとケアされ、支えられていることを感じ、自分を守らないですむことがいちばんでしょう。…

 …この子がいなければと考えることは罪だと、誰もが思います。罪だから苦しいのです。罪深いため、口に出して言うことができず、その思いをこころの奥底に隠してしまいます。
 けれど、気持ちに蓋をしてしまうとよくないのです。気持ちは揺れるのが当然ですから、誰でもそのように思うときはあるでしょう。そういうことも、自由に口に出せるような環境が必要です。…それが口に出せれば、そこから問題解決の扉が開かれるのです。(pp.67-69)

たぶん、考えるべきことは、なぜお母さんたちが自分を防衛せざるをえないのか、なぜ「この子がいなければ」と思ってしまうのか、ということ。

「私たちは、起こることを防いだり、結果を変えたりすることはできません。けれど、ともにあって、見守ることはできるでしょう。そして、ほんの少しだけでも前向きに生きるお手伝いができたらと願っています」(p.204)という著者の思いが、多くの人に届いてほしいと思う。

(7/14了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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