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精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本(大熊一夫)

精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本
(2009/10/07)
大熊一夫

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『罪を犯した人を排除しないイタリアの挑戦』の浜井浩一さんに取材にいくことになり、あわせてこの大熊さんの本も読んでみた。

何年か前に、フランコ・バザーリアのことを知りたくていくつか本を読んだ(『自由こそ治療だ』とか『トリエステ精神保健サービスガイド』とか)のを、また読みなおしたいと思った。

多くの先進国で、脱施設化・地域化をめざす精神保険改革が始まり、精神科病床は減り、これまで入院していた人たちが在宅で暮らすための社会資源が増えていった、という。だが、日本は、そういう時代に、精神科病床を増やしつづけ、入院し続けている(させられ続けている)人が多数いて、在宅の暮らしを支える資源もたよりないままだ。

マニコミオ(精神病院)をなくす法を(通称バザーリア法)つくったイタリアは、20世紀の終わりまでに、すべてのマニコミオを閉じ、全土に公的地域精神保健サービス網を敷いた。

かつて、精神病院の鉄格子の内側に入り、『ルポ・精神病棟』を書いた著者は、このイタリアの多くのまちが、精神病院を使わずとも重い統合失調症の人たちを支えていることを知り、『ルポ・精神病棟』から39年経って、やっと解決編を書く機会が訪れたと、はじめに記している。
バザーリアの後継者、フランコ・ロッテリの講演(pp.58-68に掲載)より

▼…私たちは患者を管理するという考え方を捨てると同時に、患者を放り出すという考え方も捨てました。我々の仕事は持続的に患者の面倒を見て、リハビリ活動を助けることです。患者のリハビリを行うということ、それと市民たちのリハビリを行うこと、言い換えれば患者と一般市民との間の関係を新たなものにしていくということです。(略)
 社会の中には異なるさまざまなものが存在し、全体がいきいきと活動していく。社会の中で最も弱い立場にある人との関係を切らないこと。それが大事です。だれもが一市民なのです。そして、だれもが狂人になる可能性を持っているわけですから。…(pp.62-63)

バザーリアやその弟子たちの実践する精神医療と、日本人が知っている精神医療とには、大きな違いがあると著者は書く。日本で統合失調症になったとすると、おそらく多くの医師は、病的な言動がいつごろ始まり、どんな振る舞いがあるか、周囲がいかに困惑したかを根掘り葉掘り聞き出して、病名や病状をカルテに書くだろう。そして抗精神病薬を処方し、ときには精神病棟へ送りこむだろう。

バザーリア派は、こうした診断や治療のプロセスを嫌う。診断や投薬は主役ではない。
▼その理由はこうだ。"生殺与奪の権を振りかざす"医師と、医師の"御託宣"に振り回される"無知・無能な"患者、という図式の人間関係は治療に有害無益である。医師の診断は、患者の社会的評価を失墜させたり、一般社会からの排除を助長したりするおそれが十分にある。だから診断することを躊躇するし、権威の象徴である白衣を着ないし、電気ショック療法は捨てたし、強制治療を極力避けるし、とにかく患者の心身をねじ伏せる恐れのある処置を回避しようとするのである。
 目の前に現れた利用者は、「病人」ではなく、「苦悩する人」「生活に困窮をきたした人」とみる。だから病気に大きなスポットを当てずに、患者の危機的状況を招いた社会的な問題、経済的な問題、人間関係の問題、の解決に主眼を置く。(pp.117-118)

といっても、1978年に180号法(通称バザーリア法)ができてからのイタリアの改革が順風満帆だったわけではない。1980年にはバザーリアが亡くなる。80年代には180号法をつぶそうとする反バザーリア派が大攻勢に出たという。バザーリア派は、「家族に負担をかけない精神保健改革を」「患者の生活の実態調査を」と反撃、全国調査もおこなわれたが、一部の州をのぞき、マニコミオはなくなりつつあったものの、それに代わる支援システムがあまりに不備だった。180号法を支える州法の制定にも消極的なところが多かった。

ところが90年代になって、構造汚職が摘発されて連立与党が大敗し、情勢が大きく変わった。1994年には、トリエステなど先進地域で行われてきた地域精神保健サービスをイタリア全土に普及させようというプロジェクト、「精神保健の擁護三年計画」が打ち出された。

20世紀の終わりまでにマニコミオを閉じたイタリアでは、2001年の保健省の統計によると、"週6日、1日12時間以上稼働する"地域精神保健センターが707か所あるという。だが、この707か所のうち、「年中無休、24時間オープン」という、本当に頼れるところはまだ50か所だ。

トリエステの精神保健サービスを世界最高レベルに押し上げた人、フランコ・ロッテリの、イタリア全体の精神保健の評価。
▼…イタリア全体を眺めれば、マニコミオ時代の負の遺産は根絶されてはいない。多くの大学医学部や民間医療機関がまだ、患者の人生全体を見つめることもなく、薬物中心の治療法にこだわっている。これを後押しする製薬会社や反バザーリア派家族も侮れません。ですが「精神病院のない国」が出現したのは厳然たる事実です。ゆっくりではあるが、いい方向に向かっていると思います。…(p.143)

精神病者を"オッカナイ人々"と思ってしまうココロを、それは誰もがなりうる病気で、精神病者は自分たちと変わらぬ「人」なのだというものに動かしていけるかどうか。あるいは、「生活に困窮する人」として、つまりは、支援の必要な人として、罪を犯した人たちや依存症の人たちをみることができるかどうか。そして、自分もまた、そうした支えを必要とするときがあるだろうと想像できるかどうか。

(7/11了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第44回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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