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いのちと核燃と六ヶ所村(島田恵)

いのちと核燃と六ヶ所村(島田恵)いのちと核燃と六ヶ所村
(1989/06)
島田恵

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島田惠(しまだ・けい)さんの映画上映をこんどのWeフォーラムで考えているというので、島田さんの古い本を借りてきて読んでみる。これは、島田さんが初めて下北半島を訪れた1986年の夏、そして1986年の秋、1987年の冬、春、夏と数度にわたって六カ所村やその周辺に滞在した際の記録。六カ所村内を歩き回る中で、島田さんは多くの人から、さまざまな話を聞いている。

1986年の7月25日、島田さんは上野発の夜行列車「八甲田」で11時間以上揺られ、本州最北の半島の野辺地駅へついた。その3ヶ月前には、ソ連のチェルノブイリで原発事故があった。「下北半島の六ヶ所村というところに、核燃料サイクル基地が作られようとしている」という話を聞き、"六ヶ所村には何か大変なものができるんだな。とにかく行ってみよう"という気持ちで、島田さんは半ば旅行者気分でやってきた。

▼六ヶ所村は、下北半島のつけ根の東側、太平洋に沿って南北に長い村で人口約1万2000人。下北半島にあるが、正しくは上北郡六ヶ所村である。20年ほど前、『むつ小川原開発』という巨大石油コンビナートの開発計画があったところだ。しかし、土地は買収したものの、その後、企業は何ひとつ来ず、『むつ小川原開発』地域には、国家石油備蓄基地が建っているだけなのだという。核燃料サイクル基地は、その『むつ小川原開発』の失敗の上に、建設が計画されたものだった。(p.9)

たしか去年、鎌田慧の本『ルポ 下北核半島―原発と基地と人々』で、この半島のことを読んだなと、記憶を探る。
▼青森県が"開発"と核燃料サイクル基地を受け入れる論理は「青森県は所得水準が低く、全国で下から2番目である。雇用の機会も少なく、人口減少県である。農林水産業主体の六ヶ所村と周辺市町村に、ともかく多角的に工業を導入し、地域の産業構造を高度化していく。それが地域住民、ひいては青森県全体の生活の安定と向上につながるのです。核燃料サイクル基地の安全性の確立は前提であり、その立地が地域の振興に大いに寄与するものでなければなりません。核燃料サイクル基地は、むつ小川原開発の理念と一致するものとして、受諾したものです。この1兆2千億円をうまくキャッチすることが、本県の大切なことだと思います」(むつ小川原開発室長内山克己氏)に代表される。(p.244)

そんな"開発"をめざす県の姿勢を書きとめながら、島田さんは、自分がこの六カ所の自然に憧れるのは、ただ都会人のエゴではないかと考える。

▼きのこや山菜が採れ、野鳥が巣をつくる林や森が切り倒され、鷹架沼や尾駮沼がコンクリートで固められてしまう、六ヶ所村。そんな姿になって欲しくない、という思いが私にはある。だから"開発"はだめで、"自然とともに生きる"というだけでいいのか。もしかしたら、それは都会が失った"おいしい魚ときれいな自然、あたたかい心"が"イナカの良さ"と勝手に決めつけ、たまに訪れ、そのノスタルジーに酔いしれる都会人の単なるエゴなのかもしれない、とも思うのだ。(p.245)

"その土地で生きていく"ということ、たとえば、六ヶ所村の農家に生まれ、現在は酪農を営む渋谷文男さんは、その土地の気象条件を体でおぼえているのだという。そこに、百姓の難しさと楽しさがあると。

▼「農業にとって一番大事な気象条件はだな、体で覚えているんだ。例えば十年に一回の冷害なら、それに見合うように農業をするんだ。その土地に居続けることでしかわからないんだ。机上の論理ではわからないのが百姓なんだ。ここに核燃を作るから他の土地へ行けって言われてもわからない、生きていけないんだ。その土地に住み続け、体で気象条件や乳しぼりの計算をしていく。そこに百姓の難しさがあり、また楽しさもあるんだ」(p.247)

体で覚えているという農業、その体で覚えた土地から、原発の爆発によって降り注いだ放射性物質のために、離れなければならなかったということが、どういうことなのか、山の恵みをもう食卓には供せないということが、どういうことなのか、島田さんが聞きとったこの渋谷さんの話に、はっとさせられる。

▼トッチャやカッチャたちの姿はいのちと核燃との闘いだった。下北半島の抱える問題を問うていくことは、私たちの生きている"社会"を問うことでもあった。"生きる"ことそのものを問うことでもあった。その"答え"は、何度となく通った今でも、私の中でグルグルと回り続けている。それは、見続けることでしか"答え"は出せないのかもしれない。わたしじしんのいのちと核燃との闘いは始まったばかりだ。(p.254)

島田さんは、この後、六ヶ所村に移り住んで、12年暮らした。この本には初めて六ヶ所村へ行ったときの衝撃や疑問が書かれているが、12年住んだ島田さんは、村で何を見てきただろうと思う。映画も機会があれば見てみたい。

(5/19了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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