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無念は力(坂上遼)

無念は力無念は力
(2003/11/13)
坂上遼

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ネットで「児玉隆也」と引くと、この表紙画像が出てくるので、なにかなと思っていたら、よくよくサブタイトルを見ると、坂上遼さんという探訪記者さんが、児玉隆也の38年の生涯を書いたものだった。近所の図書館にあったので借りてくる。これでも、もう10年前の本。

坂上さんは、児玉隆也の15歳下になる。『安井かずみがいた時代』を書いた島崎さんが、安井かずみの15歳下だった。それくらいの歳の差が、対象が生きた時代を共有しつつ書けるのかなと思ったりする。

▼ルポライター児玉隆也を知る人は少ない。12年間の編集者生活のあと、ルポライターになったものの、実質活動期間は3年にすぎないからだ。
 この間に書き残した原稿は、7千枚をゆうに超える。晩年親しかった『文藝春秋』編集長の田中健五が、『この三十年の日本人』(新潮文庫)の解説の中で、〈三年間に三千枚〉と記しているが、署名、筆名、無署名を使い分けていた児玉の遺族の手元に残る作品のコピーや大宅文庫などの資料から、その倍以上の枚数を書き上げていたことがわかる。
 人をして「地を這う取材」と称せられるほど、恐ろしく詳細なことまでも調べ上げている。最後の一年はガンと気づかぬまま、まるで死に急ぐかのような取材を続け、『ヤングレディ』『諸君!』『文藝春秋』『潮』『週刊朝日』に次々と作品を発表している。(p.1)

3年間に7千枚を書いたその取材エネルギー、坂上さんは、児玉の足跡をたどっていくなかで、それは児玉の「無念」と「上昇志向」が表裏一体となって噴出したものと思う、と書いている。
児玉の書いたものを、『一銭五厘たちの横丁』『君は天皇を見たか』『この三十年の日本人』…と読んだ私は、この評伝でその舞台裏をのぞいてしまったようで、ちょっとどぎまぎした。

たとえば、「児玉さんは部下には好かれないけど、取材先からの信頼は厚く、評判はいい」(p.161)という編集者時代の同僚の話。あるいは、『この三十年の日本人』に収録されている「『若き哲学徒』の死と二つの美談」(『文藝春秋』での初出タイトルは「『若き哲学徒』はなぜ救命ボートを拒んだか、1973年6月号)の末尾に、亡くなった「哲学徒」の弟さんが批判の文章を某誌に書いているという注記があって、それが気になっていたのだが、この取材の際に児玉が4つの"禁じ手"を使ったことを坂上さんは書く。

さらにまた、この初出の『文藝春秋』の原稿から、新潮社の本に収録された際に、児玉が「重要な部分を大きく二カ所割愛している」(p.290)というところに、びっくりした。この割愛された部分があったからこそ、弟さんは異議申し立てをしたのだということだったから。

坂上さんは困惑を正直に記している。
▼このトリックに気づいたとき、長い間この作品を、完成度の高いものとして評価してきただけに、驚きと困惑を覚えた。全体にまとまりがよく、読みごたえがあれば、事実と異なった内容でも許してしまうのか。遺族からの抗議を受ければ、読者に説明もなく、原本から重要な部分を割愛してしまうのか。つまり、おもしろく読ませたあの部分は、実は"フィクション"だったということなのか。あるいは遺族との争いを回避したかったのか。児玉の"ノンフィクション"に対する姿勢に疑問を持たざるを得なかった。(pp.291-292)

もうひとつ、坂上さんは、児玉がイタイイタイ病について書いたルポは、その仕事のなかで一点の曇りだと書く。
▼児玉のルポライター人生に一点の曇りがあるとすれば、それは「イタイイタイ病は幻の公害病か」にほかならない。(p.330)

このレポートの現物を私は読んでいないが、坂上さんの紹介によれば、児玉はまるで「公害企業のお先棒を担ぐ"救世主"」に変わったかのように、イタイイタイ病の原因はカドミウムではなく、真犯人は医者の過剰投薬、栄養不足、風土病らしい、という内容を書いたものだという。掲載は、『文藝春秋』の1975年2月号。


まだ読んでない児玉の著書。
『市のある町の旅』サンケイ新聞出版局、1973
『人間を生きている』いんなあとりっぷ社、1973
『テレビ見世物小屋』いんなあとりっぷ社、1975
『現代を歩く』新潮社、1976
『淋しき越山会の女王』岩波現代文庫、2001 …表題作は読んでいるが、収録作のいくつかは未読

(5/6了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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