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終わらない歌(宮下奈都)

終わらない歌終わらない歌
(2012/11/17)
宮下奈都

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『よろこびの歌』から3年後、高校を卒業した彼女たちは大人になりかけている。それぞれの道へ歩みだしている。彼女たちの世界や人間関係は、高校のときよりも広がって、その中での迷いや悩み、楽しみや喜びが描かれる。

前作では、章のタイトルがザ・ハイロウズの歌から採られていたが、こんどはザ・ブルーハーツの歌のタイトルが本につけられていた。章のタイトルはいくつかの楽曲から採られている。

借りてきた日に読んで、返却期限がきたので、返す前にもう一度読む。物語に登場する彼女たちの、もう倍以上の歳になっているけど、こういう気持ちわかるなーと思うところがずいぶんあった。小説を読むのは、おもしろいからとか、ひまつぶしとか、そういうのもあるが、ふだんはじっくり見ないでいる自分の感情や人の思いに向きあうようなところがあるなと思う。

最初の章と最後の章は、こんども御木元玲で、「歌」が通底した物語なのは前作と同じだが、こんどの本では芝居がかなり絡んでくる。玲の一人暮らしの部屋にときどきやってくる高校時代からの友達・千夏が、進学せずに歌やダンスのレッスンに通い、小さなミュージカル劇団に所属していて、その千夏の存在感が前作よりずっと大きい。

そのせいか、『幕が上がる』を思い出すところがあった。芝居って、こういうものかなと思ったりしつつ読む。
音楽大学にすすみ、声楽を続ける玲は、「歌を歌えればいい」と思っていたものの、自分の資質に悩み、夏休みに一人旅に出てみたり、何をしたらいいかわからないなかで「バイトをしたい」と考えたりする。

▼この学校にいてほんとうに楽しく感じられるとしたら、よほど恵まれた人だろう。多くの学生が、きっと自分の資質を疑い、この先の人生に明るい道筋を見出せずにいる。
 才能がほしい。個性がほしい。多くの学生がそう願って、それを隠して、暗い炎を燃やしている。何かの拍子にそれを見るのがつらい。私の炎も誰かに見えてしまうことがあるのかもしれなかった。(p.10)

自分に足りないのは何だろうと玲は思う。楽しそうに、元気よく、悲しげに…そんな「ふり」をして歌うことはできても、そうやって歌うことで自分は何を表せるのだろうと思う。高校では「すごい、うまい」と言われていた自分、同級生から「魂を抜かれた」とも言われていた。でも、音楽大学のなかで自分は一番、二番ではなく、七番から十番手というところ、根拠のない自信はもてないのだ。

玲と似たようなことを、かつての同級生たちは、それぞれの場でちりちりと感じている。大学の運動科学部に進み、スポーツトレーナー養成のコースにいる早希は、保育士になろうと進学したひかりと会って、どの子も同じようにサポートできない、強くなりたいと思っている子でないと何のために自分がサポートするのかと思ってしまうと打ち明ける。ひかりもまた、保育園の実習で、がんばらない人のために子どもを預かるなんてと思ってしまうのだと話す。

がんばれと言われて育ち、優秀だと言われてきた玲や早希やひかり。がんばることで「できた子」たちは、がんばらない人をサポートすることに違和感をおぼえている。

千夏の所属する劇団での若手公演で、千夏と、同期の七緒という子がメインになることがほぼ決まった。演出家の仁科は、外からもう一人採って、三角形にしたい、原石のような、プロフェッショナルな歌い手がほしいと言っているという。千夏は、その候補に、玲を強く推し、近いうちに仁科さんに会ってほしいと、ある日言いにきた。

「玲の歌をたくさんの人に聞かせたい」「玲と歌いたい、ふたりで舞台に立ちたい」という野望を語る千夏に、玲は「買い被りすぎ、芝居の勉強をしたこともない私がオーディションに通るほど、甘い世界じゃないでしょ」と返す。

千夏は、「つまらないことをいうんだね」と、不機嫌になったようだった。

▼「ごめん。私も、嫌いだ。甘くないってリミッターかけて、逃げてるのかもね」…
 「自分を甘いって思うのはまだいいんだ。人を嘲ったり牽制したりするときもさ、よく、甘くないっていうじゃない。あれを聞くと私、ほんとにがっかりするんだよ。今までに百万回いわれたよ。何の素養もなくそう簡単にミュージカルになんか出られるかって、世の中そんなに甘くないって」(p.204)

仁科さんの前で歌い、採用となった玲は、千夏、七緒とともに「終わらない歌」の公演稽古に励む。

▼「無理に演技しようと考えないで。リアルなあなたたちを前面に出して。それがいちばん魅力的だから」
 仁科さんの指示は、やさしくて、むずかしい。リアルな私たちというのがいったいどういうものなのか、私たち自身にはわからない。そもそもリアルな自分が魅力的だなんてとても思えない。夢中でついていくだけで精いっぱいだ。舞台があって、歌があるから、なんとかこうして立っていられる。出来がどうか、舞台全体がどうなっているか、考える余裕はない。それでも、私の身体の奥からはモーターの回る音が静かに響き続けている。(p.221)

そして、玲は思う。
▼歌──。夢よりも恋よりも友情よりも、きっと普遍的なもの。普遍的でありながら、最も個人的なもの。この舞台を通じて、誰かの個人的で普遍的な体験にかかわっていくのだ。そう考えると、武者震いが出る。少しでもよいものを、少しでも高いところへ、と望まずにはいられない。(p.222)

そしてまた、『よろこびの歌』を読みたくなる。

(5/2了、5/14再)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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