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これでよろしくて?(川上弘美)

これでよろしくて?これでよろしくて?
(2009/09)
川上弘美

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この本はすでに文庫になってるらしいが、おもしろいと聞いたので、図書館で単行本を借りてくる。川上弘美を読むのは久しぶりな気がする。

日々の自分の足跡をたどってみると、"買いもの道"は、まるでけもの道のように、決まりきった道筋になるなあという菜月だが、その考えごとは、あっちこっちに飛ばそうと思っているわけではないのに、すぐ横っちょにずれていく。「油断していると、知らない間にわたしはどんどんいろいろ連想してしまうのだ。そうすると、最初に考えていたことは、自然にどこかにみえなくなってしまう」(p.5)という菜月。

ある日、買いもの道の途上で、菜月は土井母に声をかけられた。土井母とは、そのむかしつきあっていて振られた男の子の母である。

土井母は「あたしの入っている会に、一緒に来てみない」と菜月を誘い、(え、勧誘?)と身を硬くする菜月に『これでよろしくて? 同好会』という名刺大のカードを差し出した。

菜月はこの同好会に結局参加する。この同好会で扱われる議題がおかしい。集まっている人も、とりどり。土井母が「この人は、結婚正社員、という職業の人だから」という人がいたりする。その土井母は「あたしの結婚はアルバイトみたいなものだけどねえ」と言うのだ。
「これでよろしくて? 同好会」は、せっせと食べながら、合間に大いに喋る、という体の集まりのようだ。
▼土井母は目を輝かせて喋っている。妹尾香子も。立木雛子も。そして、わたしも。「論議」は、尽きなかった。…
 結局わたしは、『これでよろしくて? 同好会』の三人と一緒に、オムライスとメンチカツ、それに追加注文した海老コロッケとポークソテーをぱくぱくたいらげ、デザートのケーキまでしっかりと食べてきたのだった。(pp.35-36)

次に参加したときには、前回の面々に加えて、「四回結婚しているのよ。それで、お子さんは五人。みんなお父さんが違うのよね」という八戸みずほが来ていた。

▼いったいこの『これでよろしくて? 同好会』は、どんな基準で会員を集めてくるのだろう。最初から不思議に思っていたのだけれど、八戸みずほの来し方を土井母から聞きながら、わたしはその感を深くする。年齢も、ばらばら。仕事で知り合った、というようなわけでもなさそう。だいいち、それぞれの女のひとたちの持つ雰囲気が、まるで違う。服装も、お化粧の感じも、たたずまいも。(p.57)

菜月の考えは、『これでよろしくて? 同好会』の議論を聞きながら、ときどき横っちょにそれて、夫の光の言動を考えてみたりする。家には、光の妹の郁がしばらく居候に来たあと、郁と入れかわるようにこんどは義母「ママン」が転がり込んできた。それで菜月は、「家族」というものを考えたりもした。

『これでよろしくて? 同好会』の議論にしろ、家でいろいろ考えるにしろ、この菜月があれこれとめぐらせる「考え」が律儀に書いてあるようなところが、そこはかとなくおもしろい。

ある日のママンとの会話で、菜月は「家族」ってこんなものだったか、と思う。
▼不思議や不思議、敵のチームにいたと思いきや、いつの間にか「ママン」は、わたしのチームの一員となっているのだった。
(この感じ。この感じが、「家族」なんだ!)
 わたしは思う。
 敵でもある。味方ともなる。時には観客となって、声援を送る。反対に野次をとばす。そしてまた、審判となって厳しい宣告をおこなう。また、温情あるジャッジをくだす。うぐいす嬢にもなる--たぶんそれは郁だ。球場をとびまわるビール売りやお弁当の売り子にもなってみせよう。
 しかして、それらいりまじりあって、役柄をくるくる変えあって、出たりひっこんだりして、変幻自在に試合をすすめてゆく者たちの実体は。
 それこそが、きっと「家族」なのだ。
 家族。血のつながった者もつながらない者も、仲のいい者もあまりよろしくない者も、それぞれがそこにいて、ごちゃごちゃと存在しているもの。
 家族とは、おそらく、そういうものなのだ。(pp.206-207)

菜月は、『これでよろしくて? 同好会』に参加して、自分があまり何も考えずに選んだ道のことなどを、あらためて考えたのだろう。そして、雷に打たれたように気づいたことがある。

▼そうだ、わたしは、だんだんにわかってきてしまったのだ。この一年間のあれこれでもって。
 時が、わたしたちを変えてゆくということ。場所をうつることが、わたしたちを変えてゆくということが。人に会うことがわたしたちを変え、人と別れることがわたしたちを変えてゆくということが。変わりたくなくとも、変わるつもりがなくとも、情け容赦なく、わたしたちは変えられてゆくということが。
 今いるわたしは、もう結婚前のわたしじゃ、ないんだ。
 光と恋愛していた頃のわたしじゃ、ないんだ。
 一年前のわたしですら、ないんだ。
 今ここにいるわたしは、今だけのわたし。(p.305)

分類上はぜんぜん違う方面の本なのだろうが、この小説は、私にとっては、こないだ読んだ『ヘンな美術史』のようなインパクトとおもしろさがあった。

(3/26了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第41回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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