読んだり、書いたり、編んだり 

ウエストウイング(津村記久子)

ウエストウイングウエストウイング
(2012/11/07)
津村記久子

商品詳細を見る

最寄り駅であるターミナル駅近くの、廃線になった貨物レーン地下の長いトンネルを抜けると現れる椿ビルディング。中庭のようなスペースをはさんで、西棟と東棟がある。

四階建て地下一階の西棟、その四階にある設計会社に勤めるネゴロ。東棟は全フロアが土質試験の試験センターが入っていて、ネゴロは西棟からその東棟をながめる。

ネゴロがさぼり場所にしている西棟四階の廊下の先にある物置き場。そこは、ヒロシが塾の休み時間の隠れ場所にしているところでもあり、フカボリがさぼり場所にしているところでもある。

ネゴロと、ヒロシと、フカボリと、三人それぞれの会社や塾や生活の話がちらりちらりと混じりながら、この古い椿ビルディング内の店や人間もようを描いて、話は淡々とすすむ。それぞれが会社や塾からちょっと離れる隠れ場所となっている物置き場で、三人はお互いに顔をあわせることなく、それでも自分以外にここに出入りする人間がいることは分かっている。

津村さんの他の小説とおなじく、大きな盛り上がりがあるわけではないが、そんな日常にも、ちょっとした事件はある。
ネゴロの同僚だったりさちゃんがビルのトイレで出産したことや、このビルから出る地下トンネルの通路がほとんど水没するほどすごい雨が降ったことや、ビルを補修するか解体するか問題、さらにはこの物置き場の配管にたまっていた水が汚染されていて、出入りしていた三人が検疫の結果、入院したこと。

違う会社に勤める二人と、塾に通う小学生と、同じ建物に出入りするといっても三人の接点は直接にはない。ただ、同じ建物のなかで、お互い物置き場を共有している相手とは知らずに、いくつかのやりとりがある。そういうのが、少しずつ少しずつ積み重ねるように描かれていく。

同じように繰り返している日常も、ちょっと視点が変われば、こんな風にも見えるのか、と思う場面がときおり挟まれる。

▼いつもよりも二十分遅い時間に乗る電車は、休みの日のように空いていて、フカボリは拍子抜けした。たった二十分なのか、されど二十分なのか、九時までにどこかに行かなければならない、という縛りが解かれるだけで、こんなに風通しがよくなるのか、とフカボリはぼんやり車内を見回した。皆が皆、優雅に見えて、自分がそのうちの一人であることが不思議に思えた。(p.251)

津村さんの昔の小説を、久しぶりに読みなおしたくなった。

(3/22了)
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://we23randoku.blog.fc2.com/tb.php/4623-58462d18
 
 
プロフィール
 
 

乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
    乱読ブログバナー
本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

amazonへリンク

 
 
最新記事
 
 
 
 
最新コメント
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
Google検索
 
 


WWW検索
ブログ内検索
Google
 
 
本棚
 
 
 
 
リンク
 
 
 
 
カウンター
 
 
 
 
RSSリンク
 
 
 
 
月別アーカイブ