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すみれ(青山七恵)

すみれすみれ
(2012/06/09)
青山七恵

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「ブックマーク」の本のアンケートで書かれていた本を、「ブックマーク」を作り終えて、それっと借りてくる。表紙カバーが、山陽本線や呉線で海をみているときみたいやなと思った。

15歳の「わたし」=藍子と、そのとき37歳から38歳になろうとしていた「レミちゃん」の話。レミちゃんは、父と母の大学時代の友人だった。藍子が15歳の夏、レミちゃんは夏至の頃からちょくちょく遊びに来るようになり、泊まる回数も増え、夏休みが始まる頃には、遊びに来ているのか住んでいるのかわからないような状態になっていた。

「レミちゃんはちょっとおかしい、ふつうの人と違う」そう思ったこともある、藍子。「レミはね、心にちょっと、病気があるの」と母や父から聞かされた。でもレミちゃんがいることで別段困ることもなかった藍子は、「放っておけないの。だから。いろいろ問題なく一人で暮らせるようになるまで、みんなで家族みたいになって、一緒に暮らして、元気づけてあげたいの。藍子、いい?」という問いに、うん、いいよと答えたのだ。

家族みたいにって、どんな感じかなと思いながら、話を読みすすむ。

「大きくなった不良少女という感じで、見ていてどきどきする」レミちゃん。
「いい意味でも悪い意味でも、ちょっと危険な感じのする」レミちゃん。

ある日、レミちゃんが、「若くて柔らかい才能」について藍子に話す、そこが印象的。
▼「あたしが小学生の頃、スワさんていうすごく絵が上手な女の子がクラスにいたの。上手って言うのはね、優等生的なうまさじゃなくて、そういうのとはまったく反対の方向に向かっているうまさで、光ってるというより、鳴りひびいてる、響きわたってる、そういう感じの。とにかくこの子は何か違うって、みんな子どもながらにわかるくらい、すごい子だったの。でもスワさんってちょっと変わってて、いつもへらへらしてるし、図工以外の授業でも絵ばっかり描いてるし、足は速かったけど勉強は本当にまったくできなかったから、なんていうんだろう、そういうところではちょっと浮いてたんだよね。でも友達がいないわけじゃなくて、仲間外れにもされてなかったし、あの子ちょっと変わってるね、っていうだけで、スワさんみたいな子がのびのび生きていられる世のなかってけっこういいなって、あたし、思ってたの。でも中学校に入って、スワさんはすっかり変わっちゃった。ソフトボール部に入って、先輩たちにすごくしごかれたみたい。同い年の子にもへんにいじめられて、後輩にもばかにされて、最後には円形脱毛症にまでなったの」(pp.28-29)

そのスワさんが、どうして変わってしまったのか。
レミちゃんが思ったことは、

▼「それって周りが悪かったっていうより、スワさん自身の、心の持ちようが変わっちゃったからだと思うんだ。小学校のときには絵のこと以外ちっとも気にしなかったスワさんが、自分のこととか、周りのことを気にするようになったから、そんなふうになって、周りの人もめざとくそこにつけこんで、調子に乗った結果だと思うんだ。時々廊下に貼りだされる水彩画とか美術室に展示されてる粘土の置物なんかを見ても、小学生のときにはあふれるくらいにあった、みんながはっとするような突き抜けた何かが、ちっともなくなっちゃったんだよ。スワさんの絵からは、もう何も聞こえなかった。あたしそれがすごく悔しくて、こういうのってなんてばかばかしいことなんだろうって、すごくいやな気持ちになった。そういう、ちょっとした自意識とか、たいした理由もない意地悪とかのせいで、若い人の貴重な、りんりん鳴ってる何かが、簡単にめちゃめちゃになるって…」(pp.30-31)

だから、レミちゃんは、藍子のりんりん鳴ってるものを、今鳴ってなくたってこれから鳴るかもしれない何かを、つまんないことで絶対にだいなしにしたくないのだと、語るのだった。

世の中には、難しくて大袈裟な言葉が多すぎるとレミちゃんは言う。本当ならひと言で済むことを、何枚も何枚もどうでもいい言葉で包んで、中身を見えなくして、それらしく体裁を整えてから、どうぞ、これがわたしの考えですって投げつける、飾り言葉のせいでずっしり重くなってしまったその包みを受け取った人が、いらない言葉を一枚一枚苦労してはがしていって、最後にようやく大事なひと言に辿りついたときには、もうその言葉を投げつけた張本人はそこにはいない… この世のなかに出回ってる言葉は、ほとんど全部がそんな風で、そうしないと人間同士がうまくやっていけないところもある、でもあたしはそういうのいやなんだとレミちゃんは言う。

レミちゃんは、そんな風に、中学生の藍子に本気で問いかけ、話しかけてきた。
藍子の家から出ていったとき、「あたしの本当の本当の友達は、今までも、これからも、あんた一人だけ。だからお願い、藍子だけは私を忘れないで」(p.163)とレミちゃんは言った。

自分たちはじゅうぶんレミを助けたのだ、でも永遠に助けてあげるわけにはいかないのだ、だって私たちには私たちの生活があるんだからと、藍子の母は泣きながら叫んでいた。

父と母よりも先に、レミちゃんを見捨てたのは私だ、と藍子は思う。鎌倉へあそびに行った日、一緒にいてと抱きついてきたレミちゃんを置いて帰ったことを、藍子は今でも思い出す。あのとき、自分はまだ取るに足らない子どもで、なんの役にも立てないからだと思っていた。でも、大人になってからも、つないでいたはずの誰かの手を、何度も放してきてしまった。

人を助けるって何やろうと思った。支援とか助けるとか、そんな言葉がうじゃうじゃしている中で。

(2/26了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第44回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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