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一銭五厘たちの横丁(児玉隆也、桑原甲子雄・写真)

一銭五厘たちの横丁一銭五厘たちの横丁
(2000/04/14)
児玉隆也、桑原甲子雄・写真

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『日本のいちばん長い日』は、けっして悪くはなかったのだが、読んだあと、私はなにかバランスを取りたいような気持ちがあった。なんというか、この本だけだと、「天皇も苦労されたのだ」で終わりそうな気がして、でもそれは違うという気がして。

半藤の本を読んだあと、たまたま出先で入った古本屋で、『一銭五厘たちの横丁』をみつけ、買って読む。一銭五厘とは、召集令状が送られた当時のハガキの値段だ。花森安治の本にも『一戔五厘の旗』というのがあって、むかし母がその芝居をみたというのを聞いたことがある。

昭和18年、東京下谷区(いまの台東区)の5つの町で、出征した父や息子、兄や弟に送るために撮られた銃後の留守家族の写真。この本は東京大空襲で焼け残ったネガにうつる99家族の写真をもとに、児玉隆也が撮影場所であったと思われる町をたずね歩いて書いたルポ。桑原甲子雄は、そうした家族写真を撮ったカメラマンのひとり。児玉隆也は『淋しき越山会の女王』などの著がある人で、早世している。

『日本のいちばん長い日』は、氏名も身分も、戦前戦後の足取りもくっきりと分かるような、そして天皇もその名を知っているような人たちの話だったが、この『一銭五厘の横丁』は、「「天皇から一番遠くに住んだ人びとの、一つの昭和史」である。天皇が「民草」とよんだ人たちの生きていた姿がそこにある。

児玉が、かつての写真の場所をたずね歩いたのは、撮影から30年後。東京大空襲で跡形もなく焼けたといわれる町もあるその一帯で、写真にうつる人たち、そしてその写真を戦地で受け取った人たちを探しあてることは簡単ではなかった。
児玉がひたすら歩きまわっても「不詳」のままに残る家族写真のほうが多い。本に掲載された写真には「不詳」「不詳」「不詳」「不詳」「不詳」と続く。その中で、一軒、そこからまた一軒と、写真の家族がみつかり、あるいはその家族を知る人がみつかって、児玉のノートにはその名が記されていった。出征したのは誰で、帰ってきたのかどうか、そして銃後の家族は戦中をどう暮らし、戦後どう生きてきたのか。

この下町から、景気のいいラッパの響きに送られて、"一銭五厘たち"は出征していった。99家族の写真のひとつ、三河屋とみえる酒屋の写真を手がかりに入った三河屋で、児玉はその写真にうつっている若いおかみさんだった、今"おばあちゃん"と呼ばれる鵜飼とみさんと会う。三河屋一家では、夫の弟が出征し、戦死した。戦死の場所はわからない。

▼…おばあちゃんは、店が忙しかったこともあるが、町内から出征兵士が出るたびにうち振られる日の丸の小旗の行列に、一度も加わったことがない。
 「天皇の赤子といったって、心から喜んで夫や息子を送り出した人なんていないと思ってましたよ。誰だって本音は行かせたくないと思っていたんです」
 おばあちゃんは、店から二階に通じる階段にちょこんと腰をおろし、
 「そんなことをいっても、気がねせずにすむ時代でございますね、いまは」
 といった。(pp.100-101)

留守家族の写真にうつる坊主頭やオカッパ頭のたくさんの子どもを見ながら、私は、この写真が撮られた頃に、広島や京都で似たような歳の子どもだった父や母から聞いた「戦争の話」を思いうかべた。児玉が横丁で古い写真を手がかりに聞いたような話は、父や母のすぐ近くにもあったのだろう。

ラバウルから生還したある軍曹が、8月14日の夜に受信した陸軍大臣からの極秘電報の最初の数行をいまだに言えるという話がある。それが、『日本のいちばん長い日』とつながる。極秘電報はこう伝えていたという。「軍ハ国体護持皇土保全ノ二大目的完遂ノタメ全軍玉砕スルモナオ矛ヲ納ムルコトナシ…」。あの8月14日から15日、歴史の「もし」はあったかもしれないのだと、ここを読んで思った。

(2/23了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第44回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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