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バラ色の怪物(笹生陽子)

バラ色の怪物バラ色の怪物
(2007/07/14)
笹生陽子

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笹生陽子の『サンネンイチゴ』を読んだら、何年か前に読んだ『バラ色の怪物』をまた読みたくなって借りてくる。こっちも主人公は中学2年、14歳の遠藤トモユキ。

遠藤の父は、知人の借金の連帯保証人になっていて、その知人の会社の倒産で多額の債務がふりかかったときに姿を消した。父と母の離婚が成立したあと、遠藤は小学校に入った頃から母と二人家族だ。

中学2年生の母親が40代というのは、そう不思議なことではないのだろうが、「うつむいた母のうなじには白髪がまばらにはえている。三十代の終わりまで、なんの予兆も見られなかったのに、四十代に入ったとたんに、なぜだかめっきりふけこんだのだ」(p.25)というような、息子の目から見た母の姿が描かれるのを読むと、その母と同世代になっている自分自身もカラダの曲がり角を感じていて、あーそういう歳かなと思う。

遠藤が両親の離婚のいきさつを知ったのは小6の秋。ふと興味がわいて、母にたずねると、案外あっさり教えてくれた。
▼真相を知る前とあとでは、たぶん、なにかが変わったはずだ。人は、そうして変化しながら成長していく生きものらしい。変化していく自分自身を、遠藤はたまに怖いと思う。きのうまでいた父が突然姿を消した日のように、いつ、なにが、どう変化するのか、予測するのは不可能だから。(p.26)
朝礼でぶったおれたときに壊れてしまったメガネを母に内緒で買い換えるため、同級生の宇崎から紹介されて、《行動する中学生の会》の代表を名乗る三上ハルヒコのもとで、遠藤は"アルバイト"を始める。

「中学生って、つまんないよね。なにもかも中途半端でさ」(p.46)という三上はやたら弁が立つ。「子どもあつかいされるというのは、ある意味、気楽でいいけどね。でも、保護されるというのは、すなわち制約されるということで、制約されるというのは、つまり自由がないってことだから。中学生って、そうした矛盾にはじめて気づく年ごろで、気づいたら最後、その不自由さがやたらと鼻につくんだな。─ちがう?」(p.47)などと。

立て板に水のようにしゃべられて、遠藤は、自分がどうしたいのかよくわからなくなる。決定権を委ねられるのは苦手なたちだ。三上の"面接"のあとに、宇崎を通じて採用を告げられても、うれしいのかどうかよくわからない。

三上が率いる"アルバイト"は、インターネットでのトレカ販売。遠藤はその体格と性格を見込まれて、三上の秘書兼ボディガードもつとめることになった。三上に百パーセントの信頼をおいたわけではないけれど、三上がいうようにギャランティが入るのなら、3ヶ月後には壊したのと同じメガネが手に入る。

母が眠剤をのんで寝入ったあとに、家をぬけだし、"アルバイト"で夜の雑踏に出る。初めは緊張した夜の街にちょっと慣れてきた頃、遠藤はある事件に巻きこまれる。

この三上がからむ夜の話と、中学校での昼の話とがねじれたように綴られるなかに、遠藤自身の変化がみえる。

卒業後の進路が決められない遠藤は、就職すれば家計が楽になるのはわかるものの、高校くらいは出ておいたほうがいいかと迷っている。どちらを選ぶにしても内申書は重要だからその点数稼ぎにと、担任に勧められるまま校内の奉仕活動をするという話に乗った。裏庭にある温室の管理をまかされた遠藤は、そこに入りびたる吉川ミチルとしょっちゅう顔をあわせることになる。

蛍光ピンクのベリーショート頭をした吉川は、校内屈指のトラブルメーカー、奇行マニアだといわれていた。だが、そんな見かけや噂によらず、吉川は遠藤の温室管理ボランティアを手伝って、ていねいに水やりをしたりする。園芸に詳しく、温室のシクラメンが踏み散らされたときには、遠藤と一緒にホームセンターへ行って、球根を買い込んだ。

吉川と一緒に歩くと、やたらじろじろと人に見られる。吉川は慣れっこなのかまるで動じないが、人に見られたりするのに慣れていない遠藤はかちこちだ。そんな吉川も、生まれつき変なやつだったわけじゃない。

「あたしにも過去というものがありまして。こんな髪型にするまでは友達だってふつーにいたし、ふつーに話して、ふつーに笑って、ふつーに生活してたって。中学校に上がってからも半年くらいはふつーだったよ。校則やぶりだしたのは夏休みが明けてから」(pp.85-86)そう聞いて、遠藤は意外な気持ちになる。

吉川との昼と、三上との夜と、大きくなっていく身体、うずまく感情。
▼遠藤はいまさらのように理解した。吉川がなぜ「ふつーとはちがう世界」にわざわざ行ったのか。「ふつーの世界」の住人たちに小突き回され、嫌われながら、なぜ平然と変人ごっとをつづけることができるのか。…(略)… 闇を嫌って光を求める人の心はもろくて弱い。醜いものや不愉快なものに恐れおののく人々は、自分自身の醜さや愚かさを知ることもない。吉川はそれを知ったのだ。あの遊歩道で、はっきりと。目をそむけたくなるものたちから目をそらしてはいけない、と。(p.172)

中学2年の夏休み明けから3ヶ月、自分の内なる怪物に目を向けるようになった遠藤には、大きな変化の秋だっただろうと思う。もう30年近く前の、自分の中2の頃もかすかに思い出す。

(2/9了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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