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新美南吉童話集

新美南吉童話集新美南吉童話集
(2006/11)
新美南吉

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蔵書点検で1週間閉まる前の図書館へ行き、同居人のカードの空きで、文庫本を4冊ほど借りてもらう。文庫の棚からぐさぐさ抜いた1冊が、『新美南吉童話集』

新美南吉といえば「ごん狐」(これはたしか小4の教科書で読んだ)、そしていつどこで読んだか忘れてしまったが狐の子が母狐に片方の手を人間の手にしてもらって町へ行く「手袋を買いに」。でも、それ以外に、新美南吉の書いたお話を読んだことはまったくなかった。

南吉の童話は、どれもあたたかく、おもしろかった。

南吉が、1913年うまれで(だから、今年は生誕100年だ)、昭和18年に30の誕生日を目前にして結核で亡くなっていることは、初めて知った。そんなに若死にだったのか。去年が生誕100年だった松本竣介も早くに亡くなったけれど、それでも36だ。父の父、私からすると祖父にあたる人も、戦争が終わった頃に結核で死んでいる。「時代がよければ、死ななくてすんだ」と父から何度も聞いているだけに、南吉を亡くした家族も、そういう思いだったかもしれないと思う。
「ごん狐」は、私が読んだのと同じように、小学校の教科書に相当載っているのだろう。そして、ほぼこの一話で「新美南吉」の名は記憶されているのだろう。「新見とくれば南吉だって」と、新見姓の主人公が「南吉くん」と名指されるシーンが、『プリティが多すぎる』にあったよな…と思い出しながら読んでいたが、ごん狐の南吉のほうは「新美」である(新見じゃない)。

火縄銃でごんを仕留めた兵十が「ごん、おまえだったのか」と言うセリフがあったと記憶していたが、おそらくそれは教科書向けの表記なのだろう。この童話集では「ごん、おまいだったのか」になっていた(タイトルも、教科書では「ごんぎつね」だった気がする)。

この童話集では、「ごん狐」、「手袋を買いに」、「狐」と、巻頭に並んだ3編は狐が出てくる話。さらに、「和太郎さんと牛」「牛をつないだ椿の木」「幼年童話10篇」「小さい太郎の悲しみ」「久助君の話」「疣」「花をうめる」「おじいさんのランプ」が収録されている。

幼年童話の一篇、「こぞうさんの おきょう」は、暮れに読んだお経の詩とはまた違うのだが、和尚さんが病気になって、かわりに小僧さんがお経をよみにいくのに、忘れないよう道々よむのが

キミョ
ムリョ
ジュノ
ライ
(p.109)

このシンプルなお経!そして、途中うさぎと遊んですっかり忘れてしまったお経のかわりに、うさぎがおしえてくれたのが

むこうの ほそみち
ぼたんが さいた
さいた さいた
ぼたんが さいた
(p.111)

小僧さんはこのうたを、忘れたお経のかわりに法事でうたう。

そして、「疣」の話に出てくる、「よいとまァけ。」のかけ声。松吉と杉作のきょうだいと町から遊びにきた克巳は、池へたらいを持ち出して、たらいにつかまり、足をけって遊んでいるうち、へとへとになる。しかしそこは池のまん中で、どうにかして土堤へ戻らなければどうしようもない。兄の松吉の口をついて、「よいとまアけ。」とかけ声が飛び出す。

▼よいとまけ─それは、田舎の人たちが、家を建てる前、地かためをするとき、重い大きいつちを上げ下ろしするのに力をあわせるため、声をあわせてとなえる音頭です。それは田舎のことばです。町の子どもである克巳にきかれるのは、はずかしいことばです。しかし、いまは、松吉ははずかしくもなんともありません。必死でした。
「よいとまァけ。」
と、水をけって、また松吉はいいました。
 すると弟の杉作がなき声で、
「よいとまアけ。」
と応じました。杉作も必死でした。
「よいとまアけ。」
 松吉は声をはりあげました。
 するとこんどは、杉作ばかりでなく、克巳までがいっしょに、
「よいとまアけ。」
と応じました。
 克巳もまた必死だったのです。
 三人とも必死でした。必死である人間の気持ちほど、しっくり結びあうものはありません。
 松吉は自分たち三人の気持ちが、一つのこぶしの形にしっかり、にぎりかためられたように感じました。そうすると、いままでの百倍もの力がぐんぐんとわいてきました。
「よいとまアけ。」
と松吉。
「よいとまアけ。」
と杉作と克巳。
 きゅうにたらいがはやくなったように思われました。もう土堤はすぐそこでした。そら、もう、葦の一本がたらいにさわりました。(pp.157-158)

「よいとまけ」は、こういうときの子どものかけ声にもなったんやなと知る。

「牛をつないだ椿の木」で、「お前は、自分の仕事のことばかり考えていて、わるい心になっただな」と海蔵さんをたしなめるお母さんの言葉には、私自身もたしなめられているようで、じーっと自分の心をふりかえってみたりした。

若く死んだこともあって新美南吉の作品の数は多くないというけれど、ほかのお話も読みたいなあと思った。

本を借りたときにも、本を読んでいる間も、すっかり忘れていたが、次の3月に海月文庫である椿崎さんの作品展は「言葉から形を─新美南吉さんの童話をもとに─」だった。同居人には、だから読んでるのかと思ったと言われたが、すっかり忘れていた。DMにつかわれてる作品写真は「花をうめる」。南吉の言葉の世界を、椿崎さんがどう作るのか、ものすごくたのしみ。

(1/27了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第41回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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