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チア男子!!(朝井リョウ)

チア男子!!チア男子!!
(2010/10/05)
朝井リョウ

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前から読んでみたいと思ってたのを図書館から借りてきたら、著者の直木賞が決まった。平成うまれもびっくりだが、自分と20歳違い!ということにおどろく。20歳違いといえば、2月が命日のi先生は、私のちょうど20歳上だった。そういう歳の差か、と思う。

『チア男子!!』は、チアつったら女のもんやろ?と思われがちな点では「ウォーターボーイズ」(男子のシンクロナイズドスイミング)風でもあるし、素人の大学生が集まってチアを始めたという点では『風が強く吹いている』(素人のよせあつめで箱根駅伝をめざす)風でもあった。

登場人物はかなり多いが、キャラがしっかりしていて、読んでいてごっちゃになるところはあまりなかった。

このチア男子たちの青春を読んでいて、「できる」「できない」って何やろ?と思った。すいすいと、そう気張らずとも「できてしまう」人間と、努力して練習を積んで、それでもうまくいかなかったりする人間とは、なかなかお互い分からへん。スポーツでなくとも、勉強や仕事や何やかや、そういうのが「すらすらとできる」人間と、どうも手際や要領がわるかったりする人間と。

「正しい」って何やろ?とも思った。あることが「正しい」としても、それでかならずしも気持ちは動かない。チームでなにかをやっていくときに、何が人を動かすのかと、自分の仕事のことなんかも考えた。
柔道一家にうまれた晴希(ハル)と、おさななじみの一馬(カズ)。二人はいつも「一発おもしろいことしようぜ」と言いながら、新しい遊びをしたりイタズラをしてきた。柔道も「おもしろいこと」として一緒にやってきた。体を動かしているだけで楽しかった。

あるときハルは考えてしまったのだ。柔道一家にうまれ、スポーツ推薦で大学に入ったけれど、もし自分が普通の家にうまれていたら今ここにいただろうか、と。姉ちゃんにはかなわないとも思った。そして、ハルは柔道部を辞める。同じときに、カズも柔道部を辞めた。「俺は、ハルと新しいことを始める」と言って。

カズは「男子チア」をやろうとチラシをまいた。
「応援することが、主役になる。誰かの背中を押すことが、スポーツになる」(p.47)というチアを、ハルも「やる」と決める。そして、メンバーを募り、体育の授業にも潜入してメンバーを勧誘し、「男子チア」は動きだす。

集まったのは、料亭の息子・溝口、「変わりたくて」というトン、関西人のイチローと弦、服のセンスがめちゃくちゃなイケメン・翔。チア経験者は翔だけというメンバーでまず目指したのは学祭のステージ。チーム名は、カズの「俺はいろいろ壊したいわけ。いろいろ壊したいの。壊したい!壊したい!」(p.136)で、BREAKERSに決定。

▼「チアは女がやるもんだって固定観念も、七人じゃ少なすぎるだろっていう冷たい目も、二カ月でできるわけがないって嘲笑も、全部壊したいんだよ。俺たちの演技を見てくれる人の常識と、俺たち自身を壊したいんだ」(p.135) カズはそう叫んだ。

学祭のステージのあとには、さらにメンバーが加わる。3年の金田、その舎弟の銀と銅、ブロッコリー頭のタケル、ブレイクダンス兄弟の卓哉と卓巳、子どもの頃バレリーナだったというサク、全国最強のSPARKSに入りたかったという尚史、中学生の陳。専任コーチも決まった。

学祭をめざした7人の個性も相当なものだったが、BREAKERSの新チーム活動が始まると、メンバー増によって、人間関係はさらに込み入り、いろんな声が出てくる。

練習はきつい。経験の違い、体力の違い、センスの違いは大きい。あるメンバーが難なくこなす技を、なかなかできないメンバーもいる。「何で教えてもできんのやー!」と口に出るメンバーもいれば、「ごめんね」と言ってしまうメンバーもいる。

全国選手権の県予選が近づくにつれ、メンバー間がぎくしゃくしてきた。
「これじゃ予選通過できねえっつってんだよ!」
「楽しくやりたいって気持ちもわかるけど、全国を目指すんだったら今からそれなりの難易度の演技に挑戦していかないとまずいだろう。」
「俺は、皆で楽しそうに踊ってるのが本当に羨ましくて、そこに入りてぇなって思ったんだ。だから難易度とかよりも、そう思ってもらえるような演技をしたいって気持ちはある…」

それぞれの声があがるなかで、タケルが言った。「…でも、やってる本人が楽しくないのに、チアなんて言えるのかよ」(p.258) 練習楽しくねえ、他にもっとやりたいことがある、練習ばっかりで、今の技だっていっぱいいいっぱい、これ以上難しいことなんてやりたくねえ、と。

チームとしてどうしていくのか、メンバー間のぎくしゃくがおさまらないまま、練習は続く。そんなある日のトンの言葉が胸に響く。
▼「…どうしてチアは個人競技じゃないんだろうね」「誰かを応援するなんてこと、一人だってできるじゃない。バク転だってダンスだって、一人でできる。だけどどうして、チアリーディングはチームの競技なんだろうね」(p.289)

太っているトンは、子どもの頃からずっと笑われてきた。チアに入ってからも、体力はもたないし、チアをやる自分の姿の醜さを笑われていると思わずにいられなかった。その自分の弱さに気づいてくれたのが尚史だった。体力づくりのために一緒にランニングをして、トンと尚史は仲良くなった。そして、尚史はトンにこう言ったのだ。「観客に笑われてるんじゃない、観客は笑顔になってるんだって」(p.290)

トンはこうも言う。
▼「どうして僕らはチームなの? 僕は正直、全国選手権なんか出られるわけないって思ってた。だけど尚史に言われた。自分を諦めているんだったらまだ大丈夫、チームを諦めていなければ大丈夫だって。どうしてチアは団体競技なのかって、それは、誰か個人が諦めそうになったときのためだよ」「演技で誰かを励ます前に、練習で自分がメンバーに励まされるんだ。それが何重にも集まって、チームが誰かを励ますことができるんだよ」(p.290)

バク転でも何でも勢いでできてしまうイチローが、翔に言う。
「最近ちょっとわかってきた気がする。自分ができるから、誰もができるわけやない。自分が正しいと思うことが、誰にとっても正しいとは限らん」「お前もそれに気付け。俺たちはチームなんや。辛い時に辛いって言えんチームなんて、絶対あかん。チアは最高の団体競技なんやろ」「翔、お前が言っとることはいつも正しい。うまくならな勝てん、できないんやったらもっと練習しろ…言っとることは全部正しい」だけどな「正しいだけじゃ、人は動かせん」(p.309)

ぶつかりながら、メンバーは少しずつ互いのことを分かり、言えなかったことばを言えるようになり、個人としてもチームとしても成長していく。

【チアリーダーとは、観客も選手も関係なくすべての人を応援し、励まし、笑顔にする人のこと。そして、そのために自らの努力を惜しまない人のこと】(p.46)と、カズは子どもの頃から何回も聞かされてきた。カズの母は大学でチアをやっていて、父はそのコーチだった。その両親を事故でなくしてから、ばあちゃんと二人暮らしだったカズは、「ばあちゃんに俺を思い出してもらうために」、ハルや他のメンバーを巻き込んでこのチームをつくったのだった。

でも、ばあちゃんはもう俺のことを思い出さないだろう。それでいい。
▼俺は、覚えていくために、チアをやっているんだ。
 母さんのことを、父さんのことを覚えていくために。「一美」と、最後に母さんの名前を呼んだばあちゃんの笑顔を覚えていくために、チアをやるんだ。
 忘れられてもいい。
 俺が皆のことを覚えているなら、それでいい。(p.385)


「チアリーディングとは、応援し、応援されるスポーツだ。世界でたった一つの、世界で一番美しいスポーツだ。支え、支えられることがチームの強さに繋がる。演技の美しさに繋がる。」(p.327) チアをやっていた友だちはいるが、私はチアのことをほとんど知らなかった。こんな競技なのかと思い、友だちもチームで練習しながら、こんなこと、あんなことがあったのかもな…と思った。

応援するばっかりじゃないんや、ということを知れたのが、私にはよかった。

(1/23了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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