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下山事件(シモヤマ・ケース) (森達也)

下山事件(シモヤマ・ケース) 下山事件(シモヤマ・ケース)
(2006/10)
森達也

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この本は、単行本の頃にいちど読んでいて、下山事件がらみの本をその頃いくつか読んだ。『田中角栄』『奥むめおものがたり』などをこないだ読んで、日本の戦後がどう動いてきたかという点で、1949年に起きたこの事件や三鷹事件、松川事件はたぶん一つの曲がり角なのだろうと、また読んでみようと文庫になった本を借りてきた。

初代国鉄総裁の下山定則が、運転手を待たせたまま姿を消し、その翌日未明に、線路上で轢断死体となって発見された事件は、自殺か他殺かということも、事件の真犯人が誰かということも、その狙いや背景さえも、いまだに明らかになっていない。

森はある日、祖父が下山事件の関係者だ、と言う「彼」に会い、「彼」とともに、下山事件を調べはじめる。矢田喜美雄とともに事件の真相を追い続けていた斎藤茂男と出会い、「真相を知りたいだけなんだ。知るまでは死にきれない」という斎藤と同じく、森も次第に"下山病"にとりつかれていく。
事件が起こったのは、経済安定九原則の一環として「行政機関職員定員法」が成立し、42万人の公務員が解雇されることが発表されたばかりの時だった。

▼全逓と並ぶ最強の労働組合だった国鉄労働組合は激しくこれに反発、6月には首都圏で国電ストが決行された。列車妨害事件の報道はちょうどこの頃から、大きくメディアに取り上げられるようになり始める。こうして社会不安がピークに達しかけたとき、下山国鉄総裁の轢死体が発見され、三鷹、松川と二つの事件がこれに続く。(p.140)
…この時期の新聞各紙は、まるで同一のキャンペーンの下にあるかのように、列車妨害事件を連日大きく扱い、国鉄当局は組合左派や共産党の事件への関与を仄めかし、世相の不安はますます高まり、既に飽和しつつあった。(p.141)

その仄めかしは、共産党員の検挙によって、あたかも実際そうであったかのように人の心に刻まれたことだろう。事件の真相はいまだに分からない。分からないながらも、真実を探ろうとした森の本音は「下山総裁は他殺」だ。

だが、下山総裁は「自殺」とされ、捜査本部は解散される。

半世紀以上前の事件を追い、いくつものピースを集めながらも、パズルはできあがるようにみせて、なかなか完成しない。そのなかで森は下山事件とその後の日本のあゆみについてこう記す。

▼翌日もいつものように列車は運行されたが、レールがいつのまにか切り換えられていることに、この地点を通過する列車の乗客たちは気づかない。…
…列車は走り続ける。南北に分断された朝鮮半島で戦争が起きて特需があり、日米安保を通過して、55年体制も整えられた。驚異的な経済発展がこれに続き、森は痩せ川は汚れたが、国民総生産はいつのまにか世界のトップクラスになっていた。国鉄は民営化され、売却された汐留の跡地がきっかけになったようにバブル景気が始まり、ニューヨークのロックフェラーセンターやティファニーを日本の企業が買い占めた。(p.380)

▼アメリカにとって最も都合がよい展開は、下山殺害の背景に共産党が暗躍していたというイメージを日本人が抱くことだ。これによって日本の共産化はくいとめられる。…しかし警察が他殺の線で本格的に動けば、捜査の手がいつかは真相に及ぶ可能性はある。…メディアによってこの謀略が世に知れることだけは、絶対に防がねばならない。…
 だからこそ公式には自殺にして、捜査は中断させねばならない。しかし総裁は殺されたのかもしれないという意識だけは、日本中に根付かせたい。「何をするかわからない」共産主義によるテロの脅威を、しっかりと植え付けたい。
 事態はまさしく、このとおりに展開した。下山の後に三鷹、松川と事件が続き、実際に共産党員が検挙されたことで、日本国民の不安と共産党への警戒心は充分に喚起された。…
…日本を実質的に支配する占領軍が容共から反共へと大きく舵を切ったとき、世相はあっさりとこれに追随した。…(pp.389-390)

占領軍が意図したとおりに日本は動いたのだろうか。いまの憲法は占領軍の押し付けだというような声はけっこう大きく聞こえるが、下山事件や三鷹事件、松川事件については、これによって日本の進路が変えられたというような声は聞こえてこない。その聞こえてこないところに、この事件の性格もあらわれている気がした。

(1/20了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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