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鉄のしぶきがはねる(まはら三桃)

鉄のしぶきがはねる鉄のしぶきがはねる
(2011/02/25)
まはら三桃

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北九州工業高校の電子機械科1年で女子は心(しん)一人。通学以外は作業服姿の心は、長身でもあって、男子のなかにいてもあまり違和感がない。

数値がきっちり出るコンピューターを信頼し、スイッチ一つで人間の手の数倍速く正確な作業ができると、心は思っていた。コンピューター研究部でマイコン制御の調整をやろうとしている心は、「ものづくり研究部」の仕事を手伝ってもらえないかと先生に頼まれるが「無理です」と即答。鉄を溶かしてくっつけたり、削ったり、たたき出したり…そんな技術はいまどきもう古い、コンピューターがいくらでも代われるものだ、と思っていた。

けれど、ある日「文化祭の手伝いを頼まれたんよ」と学校へやってきた小松さんを旋盤工場へ案内したとき、小松さんの旋盤がたてたキュルルーンという高い音に、心は反射的に振り返る。
小松さんの旋盤から出た鉄くずのキリコは、きれいだった。心は、音とキリコには職人の腕があらわれると言っていた祖父のことを思い出す。加えて、小松さんが、周りの生徒の作業をちらっと見て、ほとんど正確に工作物の数値を言いあてたことに、心は驚く。

驚きながらも、心は、手作業よりもコンピューターのほうがという思いを捨てられない。作業服から懐かしいにおいがしたという祖母に、心はこう言うのだ。
▼「旋盤やドリルで削ったり、フライス盤で削ったりとかもう古いよ。コンピューターなら人の手よりももっと精密な仕事を正確に早くやってくれるんだから」(p.35)

だが、祖母はしたり顔でこう返してきた。
▼「あのね心ちゃん、言葉の使い方がおかしいよ。なんもかんも削るんやないよ。旋盤を使えば『削る』とか『挽く』、ドリルで穴をあけるのは『揉む』。平面をかき削る時は『きさぐ』。おんなじ『削る』でも、ほんのちょっとの時は『さらう』とか『なめる』とか言うんよ。鉄の加工の仕方によって、言葉は変わるんやから。そんなこと言いよったら、おじいちゃんに怒られるよ」(p.35)

いきがかり上「もの研」で文化祭用の工作物づくりを手伝いながら、一見同じように見えても、じっくり見ると明らかな違いがある製品に、心はこれでいいのかと思う。測定器ではかってみると公差の範囲内。「見た目がこんなに違う」と言う心に、先輩の原口は「そりゃ、つくった人間がちがうけん」と言う。なおも「精密な工業製品にそんなことがあっていいんでしょうか」と心はくいさがる。

▼「あのね、〈もの研〉は、〈コン研〉とちがってコンピューター任せの部活やないと。人の技術を追求するための部活なんっちゃ」(p.50)

原口はこうも言った。
▼「おれは、コンピューターよりも人間のほうが数段上等だと思っとる。コンピューターにはプログラム以外のことには、対応できん。人は技を鍛えてさえおけば、どんな仕事にも対応できる」(p.73)
「おまえ、旋盤みたいな技術は古臭いとか言いたいんかもしれんけどな」「ものづくりはなくならんよ。なぜなら」「ものづくりは、楽しいからだ!」(p.74)

そういう原口の言葉に背をおされるように、心は、旋盤で〈高校生ものづくりコンテスト〉を目指すことにした。先輩の原口、同じ1年の亀井と吉田と心の4人が、切磋琢磨してコンテストを目指す。その物語の中で、とりわけ印象に残ったのは、仏像図鑑を肌身離さず持ち歩き、暇さえあるとそれを見ているという亀井。

▼それだけならまだしも、目は図鑑にくぎづけのくせに、手はいつもほかのことをしている。リリアン編みをしていたり、消しゴムに彫刻を施していたり、べつに糸や消しゴムで仏像を形づくっているわけではない。手元から産まれているのは、ただの長い編みひもや自分の名前が彫り込まれた消しゴムだ。そのコラボが理解できないので、心は一度も話しかけたことはなかった。(p.28)

その亀井のことが、心にちょっとわかりかけたのは、旋盤でケガをして、部活の練習を見学したときのこと。亀井からいつかもらった折り紙がファイルから出てきて、心はふと折りヅルを折ってみるが、思いのほか難しかった。指が一本使えないだけだと思っていたが、その一本使えないことで、ほかの指の動きも不自然になっている。

▼その日から、練習を見学する時には折り紙を折るようになった。よくしたもので、しだいに慣れてきた。慣れてきたというより、指の動き方がわかってきたようだった。人間の指というものは、五本すべてが同じように動くわけではなく、癖がある。薬指や小指は自在に動かすのがとても難しかった。いちばん活躍していた右手の人差し指が封じられたことで、それがよくわかった。けれども封じられた機能は、ほかの指の使い方によっては、ちゃんとフォローできるし、動きが鈍かった指も鍛えれば細かく動く。(pp.138-139)

こないだ、堀尾貞治さんの個展へいったとき、堀尾さんから聞いた話。毎朝起きたら「1分打法」で10枚くらい絵を描く、それを毎日毎日やってるうちに描ける線がある、みたいなことを聞いた。亀井が目は図鑑にくぎづけながらずーっと手を動かしていたことや、心が指を一本ケガして折り続けた折り紙みたいに、自分の身体や手や指を鍛えるって、こういうことかなーと思った。

「ものづくりは、楽しい!」というのが、じわーっと身にしみてくるような話だった。

文章を書くとか、人の話を聞くとか、そういうのも、毎日まいにち鍛えていけるかなと思った。

(1/10了)
 
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乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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