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田中角栄─戦後日本の悲しき自画像(早野透)

田中角栄─戦後日本の悲しき自画像田中角栄
─戦後日本の悲しき自画像

(2012/10/24)
早野透

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書評などもいくつか出てたので、図書館ではふさがってると思っていたら、空いていたので借りてみた。新書ながら、400ページ超というボリューム。

朝日新聞で角栄の首相番だった著者は、ロッキード事件による逮捕から最期まで、至近距離で角栄を追い続け、話を聞いた。途中では新潟支局勤務を希望して、角栄の産まれ育った地、そして選挙区であった「新潟三区」を歩きまわった。

小学生のころ、テレビから聞こえるニュースで何度も聞いたのは「ロッキード」とか「コーチャンシ」「マルベニルート」「ゼンニックウルート」。年表を見ると、角栄が逮捕されたのは、私が小1のときである。その頃はまったく意味が分からなかったが、こうして通史のように角栄の足跡を読むと、そういうことなのかとようやく腑に落ちる思いがする。

角栄と中曽根が同年だというのも驚いた。同い年で、同じ戦後二回目の選挙で当選したという中曽根と角栄だが、いまも生きている中曽根、私が中学生から高校生の頃ずっと首相の座にあった(靖国参拝やロンヤスなどくっきり記憶にある)中曽根と、亡くなって20年経とうという角栄、私が小学校に入る前に首相だった(だから現役の首相という記憶がない)角栄とは、一世代くらい違う気さえしていた。

現役の議員とか首相としての記憶がほとんどなく、角栄といえばロッキード事件、選挙区への利益誘導や金による政治と、私は思っていた。その根本的な像は大きく変わらないものの、この本で、1918年、大正7年うまれの角栄が、どのように生い立ち、若い頃にどう飯を食ってきたか、どうして政治の世界へ出るに至ったかというところから読んで、角栄が何をしようとしたか、そして「戦後日本」がなぜ今のようになってきたかが、少し分かる気がした。
角栄が日本列島改造論にこめたものは、明治維新以来ずっと続く「都市への人口流動」を逆転させることだった。農村地域に第二次産業を配置し、雇用をうみだすという発想の源流は、大河内正敏の「農村工業」だという。

松下センセが体を張って反対した周防灘開発、その開発計画の立役者は角栄だった。1972年に出た角栄の『日本列島改造論』は、「都市と農村、表日本と裏日本の格差を必ずなくすことができる」と掲げていた。その「むすび」には、こう書かれているという。

▼「私が日本列島改造に取組み、実現しようと願っているのは、失なわれ、破壊され、衰退しつつある日本人の「郷里」を全国的に再建し、私たちの社会に落ち着きとうるおいを取戻すためである」(p.258)

全国に新幹線と幹線道路を整備し、全国を一日で往来できる「一日交通圏」「一日生活圏」ができる、ダムを100カ所つくる…この"官僚が上から目線で描いた青写真"について、早野はこう書いている。
▼…衰退する過疎地域は蘇生を夢見た。しかし、事情のわかる人は危惧も抱いた。何をするにせよ、土地買収が必要になる。すると地価が上がる。土地の騰貴対策が決定的に不足していた。水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病などの公害を見て、工業化を不安に思う人も少なくなかった。それに、これらの事業の前提となる経済成長、物価、財政などの見通しは大丈夫なのか。(p.258)

地価上昇にひきずられて、物価が軒並み上がった「狂乱物価」、さらには石油危機が襲い、高度成長は曲がり角にさしかかった。石油に頼りすぎては危ないと、火力発電以外の電源=原発を立地してくれる自治体に交付金を配る「電源三法」は、柏崎市長の小林治助の陳情に応えて角栄がつくった。

柏崎刈羽原発の青写真をつくった角栄と小林、その列島改造も、原発建設も、明るい進歩思想だったと早野は書く。だが、福島原発事故は「ふるさとの開発がふるさとの喪失になってしまう悲劇」(p.270)となった。

角栄が政界で出世しながらつくりあげていった利益誘導の仕組み、そういうものを壊そうとしたのが、小泉純一郎だった。小泉が唱えた構造改革、その構造とは?と問うと、「田中角栄がつくった政治構造のことだよ」(p.150)と小泉は答えた。

▼「道路」そして「郵政」。角栄がつくったのは、官につながる事業をめぐるカネと票のコングロマリットだった。それが自民党長期政権を支えるエキスだった。
 自民党の派閥体質、政官業の癒着体質、すべては角栄を淵源としている。それを一点突破しようというのが「郵政民営化」である。…
 …小泉はメディアをあやつって「郵政民営化」の是非を問う選挙に圧勝した。小泉によって「角栄の牙城」は壊された。(p.150)

ただ、壊されたそのあとが、それ以前よりマシなのかというと、そうも言えない。一層悪いかもしれない。

1976年12月の衆院選、ロッキード事件下で自民党は過半数を割る大敗北を喫したが、角栄は圧勝。角栄に有罪判決が下った後の1983年12月の衆院選、やはり自民党は過半数を割る大敗北だったが、角栄は空前の得票(22万票)で大勝した。角栄に託された票の意味を、この本では本多勝一のルポを引いて書いている。

先日の衆院選で、得票率は政権交代した前回とほとんど変わらない自民が「圧勝」したこと、その票の意味を考えてしまう。とりわけ、新潟をはじめ、自民が全選挙区を取った県で自民へ投票した人たちの思考は、本多勝一がかつて書いたものと変わらないのか、あるいは違うのか。

1976年、角栄を圧勝させたものは「中央に対するイナカ、「表」に対する「裏」、都市的・秀才的・エリート的な「日の当たる世界」に対する「ふみつけにされつづけた側」の怒りと痛み」(p.332)と本多は書いた。

角栄的なものが戦後政治の象徴だとするなら、今、そしてこれからは、どういう政治になるのだろう。それは過ぎてからしか分からないことかもしれないが。

(12/25了)
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第40回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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