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棺一基 大道寺将司全句集

棺一基 大道寺将司全句集棺一基 大道寺将司全句集
(2012/04/03)
大道寺将司
辺見庸(序文・跋文)

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大道寺将司さんのことを読んだのは、松下竜一の『狼煙を見よ』だった。戦後、政治犯として初めて死刑が確定した人だ。

大道寺さんの『死刑確定中』は1997年の本で、この句集には、ほぼその後の期間にあたる1996年から今年まで、大道寺さんのよんだ数千句のうちから、1200句ほどを収めている。タイトルは、2007年夏によまれた「棺一基四顧茫々と霞みけり」の上五からとられている。

友が病む獄舎の冬の安けしを
夏深し魂消る声の残りけり
大逆の刑徒偲ぶる寒暮かな
母の日や差し入れらるる本二冊
それぞれの命輝く冬木の芽
狼や見果てぬ夢を追ひ続け
冬ざれの空アフガンに続きをり
いくたりを犯さば忠か敗戦忌
死はいつも不意打ちなりし十二月
日月を試練と思ふ木の葉かな
ゆきしものみなはしけやし初桜
国家より一人一人ぞ霜の声
ははそはのははのいまさぬ四月尽
異なものを除く世間ぞすさまじき
日を仰ぐその喜びや寒に入る
衣更着や存ふことは痛むこと
揺れ動く壁鳴り止まぬ浅き春
胸底は海のとどろやあらえみし
秋の水百年の忌を修しけり
新玉の年や原発捨てきらず
跋文の「虹を見てから」で、辺見庸が記憶について書いている。この本に収められている1996年から今年までの句を読みながら、忘れそうになっているいくつものことに気づく。

▼…娑婆は、大道寺将司の逮捕当時よりもっと、永山則夫が生きてそこにあったころよりはさらにもっと、思惟する力を衰頽させ、病的なまでに記憶力を失いつつある。逆にいえば、東拘の住人にこそ、とりわけて、死刑囚たちにこそ、滾[たぎ]る思弁があり、煮え立つ記憶があるのだ。(p.195)
 (略)
 …獄外の私たちは、たくさんのことを忘れている。日々、記憶をかなぐり捨てている。…ミミズ化した私たちは、記憶をも、日々、大量に排泄しているといっていいかもしれない。記憶の廃棄と商品の蕩尽を不可欠の動力とする消費資本主義のゴミ捨て場。…一方、獄外を支配する廃棄と蕩尽の法則から辛うじて免れている獄中の大道寺将司は、いうまでもなくミミズ化はせず、たくさんのことを覚えている。日々、記憶と格闘している。(pp.199-200)

1974年8月14日、東アジア反日武装戦線"狼"は、一年かけて準備した虹作戦計画を中止した(お召し列車爆破未遂事件)。まかりまちがえば、この日は、歴史の教科書にゴチックで記載される項目になったかもしれない。そのことを、辺見庸は「ついにかからなかった虹」と書く。

▼…七四・八・一四はしたがって、歴史でなかったし、歴史でないことにされてきたし、今後とも歴史ではありえないだろう。
 七四・八・一四は、しかし、記憶である。小さな燠火のような記憶である。そうありつづけるべきである。記憶は、かならず、歴史に対立する。記憶は、歴史の紙くさい平面に、垂直に食いこもうとする意思のようなものである。食いこもうとしては、はね返される記憶。だが、この記憶さえもいずれは消されるかもしれない。かすかな燠さえ消される危惧を私は抱いている。この先、大道寺を処刑することにより、あったのになかったように装われてきたことどもが、さらに完璧になかったことにされるかもしれない。記憶が完全に漂白され、消却されるかもしれない。(pp.207-208)

死刑となる罪のうち、内乱罪と外患罪は、刑法にこうある。

(内乱)
第七十七条  国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
一  首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。
(外患誘致)
第八十一条  外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。


大道寺さんは、刑法77条によって死刑なのか? あるいは? そして、大道寺さんを処刑することは、あったかもしれない歴史をすっかり消却することなのか。

▼獄外の現在が、とても乱暴な現在が、たえず記憶を食い破っている。忘却が記憶を黙らせようとしている。記憶を日々奪われている世間の無意識のヒューブリス(無知の傲慢、暴力)が、死刑の連発と記憶殺しを後押ししている。ヒューブリスが、いま、司法をも社会をも動かしている.平気で世界を裁いている。…市民でも民衆でもない、私たちは単に、記憶をごっそり抜かれた人の群れ、モッブ(暴徒)ではないか。(pp.213-214)

大道寺さんの句を読んでいて思い起こされるのは、数年前に知った西武雄さんの獄中句。
叫びたし寒満月の割れるほど
西さんは福岡事件の無実を訴えながら、1975年に死刑を執行された。

この10月に出た『70年代 若者が「若者」だった時代』に、「"狼"大道寺将司と東アジア反日武装戦線」というのが入っているらしい。1974年、大道寺さんは26歳である。26歳のときに、自分はどんなことを考え、何をしていただろうと記憶をさぐる。1995年、歴史の年表にゴチックで載るようなことはいくつもあるけれど、あったかもしれない何ごとかについて今は考えたい。

※ ※ ※

『棺一基』に施されているルビなど

友が病む獄舎の冬の安けしを(p.20、1996年)
夏深し魂消[たまぎ]る声の残りけり(p.26、1997年)
 …東京拘置所で永山則夫君ら二名の処刑があった朝
大逆[たいぎゃく]の刑徒偲[しの]ぶる寒暮[かんぼ]かな(p.31、1998年)
母の日や差し入れらるる本二冊(p.35、1998年)
それぞれの命輝く冬木[ふゆき]の芽(p.48、2000年)
狼や見果てぬ夢を追ひ続け(p.65、2000年)
冬ざれの空アフガンに続きをり(p.75、2001年)
いくたりを犯さば忠か敗戦忌(p.82、2002年)
死はいつも不意打ちなりし十二月(p.85、2002年)
 …昨年の十二月二十七日、二名の死刑が執行される
日月[じつげつ]を試練と思ふ木の葉かな(p.94、2003年)
ゆきしものみなはしけやし初桜(p.98、2004年)
国家より一人一人ぞ霜の声(p.103、2004年)
ははそはのははのいまさぬ四月尽[しがつじん](p.107、2005年)
異なものを除く世間ぞすさまじき(p.119、2006年)
日を仰ぐその喜びや寒に入る(p.164、2009年)
衣更着[きさらぎ]や存[ながら]ふことは痛むこと(p.167、2010年)
揺れ動く壁鳴り止まぬ浅き春(p.173、2011年)
胸底は海のとどろやあらえみし(p.179、2011年)
秋の水百年の忌[き]を修[しゅう]しけり(p.182、2011年)
 …大逆事件百年
新玉[あらたま]の年や原発捨てきらず(p.185、2012年)

(12/4了)
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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