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海のいる風景―重症心身障害のある子どもの親であるということ(児玉真美)

海のいる風景―重症心身障害のある子どもの親であるということ海のいる風景
―重症心身障害のある子どもの親であるということ

(2012/09)
児玉真美

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『アシュリー事件』の児玉さんの旧著。10年前の本が絶版となり、生活書院から新版となって出た。旧著のサブタイトルは「障害のある子と親の座標」だったそうだ。広島弁とおぼしき中国地方のことばが交じる文章に、笑いをさそわれ、ときにゲハゲハ笑いながら一気読み。

旧著から10年、児玉さんの娘・海さんは25歳になり、「「障害のある子ども」なんて書ける時代は、とっくに終わってしまった」(p.4)とある。そして、児玉さんは、アシュリー事件と出会い、「子の権利と親の権利の相克」に直面する。

▼親の利益や権利は、必ずしも子どもの利益や権利とは重ならない。むしろ「親だから分かっている」「親の愛からすることだから」と親が自己正当化しつつ、また社会の方もそれを疑ってみようともせず、子の権利が侵害されていることは思いのほかに多いはずだ。それは、いったん気づいてしまうと、軽々に無視することのできない重い真実である。自分が親である立場で海との関係性を考え直すことを、私はアシュリー事件と出会うことによって迫られた。同時にそれは、自分が子である立場で両親との関係性を見つめ直す、遅ればせながら稀有な機会ともなった。(p.14)
NICUで保育器に入った子が、聞こえるはずのない呼びかけに応えたように、世を憚らぬ大あくびをした。父と母は二人で吹き出し、「この子は生きる…」と確信した。何度かは死にかけた子の、ニカニカとご機嫌な姿をみて、「この子が、生きて、ここに、いる…」と母は思う。

あまりに虚弱な子で、そのために仕事を手放した「母」の痛みと傷も、この本には書かれている。中高と6年間の同級生だった夫は、自分も同じ親なのだから、子育ての手伝いはしない、自分も子を育てるという人だったが、それでも善意の世間様は「お母さん」に迫る。「障害を持った子どもの母親になったとたんに、周りは私を叱り、責める人ばかりになった」(p.94)のだ。

「善意はやっかいなのだ」「美しいウソ」「言葉を持たないということ」… 児玉さんが、障害をもった子の母になっていった過程での、憤りや笑い、子への思い、そして自分自身に向きあった場面が書かれている。

「ケア」という言葉は「どうでもよくない」ということなのだと、"I care about you"は、"I love you"の意味にもなるのだと、そのココロは「気にかかること」だという話に、ああ「ケア」というのは、重心ラーの「ラー」やなあと思った。「いろいろ迷いはあるけれど、やっぱり目の前のこの子たちを放っておけない」(p.257)というココロ。

▼…愛情があるから放っておけない、気にかかって仕方がないから見えるものがある、気がつくことがあるんです。無言のまま着替えをさせたり、食事を食べさせたりすることは、決してケアではありません。それは「世話をする」ことかもしれないけど、ケアではないんです。
 …目の前のあなたを、私は放っておくことができない──。その思いをこそ、ケアと呼ぶのではないでしょうか。(p.256)

人との出会い、その人の存在、そして自分とその人との関係。

▼きっと人間は、誰かと出会ったら、もう二度とその人と出会わなかったことにはならないんじゃないか、と思う。…出会う前の自分とは、もうどうしたって違う自分にしかなれない。人間が誰かと出会うということは、そういうことなんじゃないだろうか。
 何ができるとかできないということよりも、本当は、そういう人間として一人の人が生きて、そこに、いる、ということが、すでに奇跡のようにものすごいことなんじゃないだろうか。そういう人が生きて、そこに一人、いる、というだけで、その人がいないのとは世界がまるで違ったものになる。どんな人であろうと、人間というのは、本当はそういう存在なんじゃないだろうか。(p.263)

あたたかい本だった。

(11/25了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第41回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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