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クローバー・レイン(大崎梢)

クローバー・レインクローバー・レイン
(2012/06/07)
大崎梢

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「ブックマーク」読者のiさんからおしえてもらった『クローバー・レイン』『プリティが多すぎる』。そもそも私が大崎梢の作品を知ったのは、このiさんからだった。それで『あかずきん』シリーズを読み、その後の本も見かけたら読んできた。

『クローバー…』はだいぶ予約待ちで、すぐ借りられた『プリティ…』を読み、その舞台となった老舗出版社・千石社は『クローバー…』も一緒やと聞いていたので、どんなんやろうと思っていた。その『クローバー…』が「休み」の日に届き、図書館から帰っていそいそ読む。昼寝をするつもりだったのが、寝ずに読んでしまい、最後まで読んでから、またてっぺんに戻って二周読み。

二読めは、この冒頭で原稿ボツを言われた作家さんが、最後のところで語ってる人かと気づき、家永さんが小説を書く思いをしみじみ読み、主人公の編集者・工藤や同僚の営業マン・若王子のやりとりを反芻した。そして、本を手にして読む人たち、たとえば冬実さん、なおちゃん、よっちー…それぞれにとっての「本というもの」との関わりに共感するところが多くあった。

ある日、工藤が偶然出会った家永の長編小説の原稿。それはどこか他社のためのものではなく、行き先が決まっていないものだった。読ませてもらった工藤は、ぜひ本にしたいと申し出るが、家永は、君のところではムリだろう、忘れてくれと言うのだ。
「だめなときは手放してくれ、預けっぱなしだけは勘弁してほしい」と念を押されて、家永から原稿を預かった工藤は、揚々とした気持ちで文芸編集部へ戻る。すばらしい作品だ、家永の新たな代表作になる、これは絶対本にしたいと工藤は思うが、社内では家永が推測したとおり容易にことは運ばなかった。

話は、そこから、千石社という老舗でタカビーな風情の出版社にいる工藤が、まずは編集部、そして社内の営業部とカクトウして、家永の作品「シロツメクサの頃」が本になり、じわじわと売れつつあるところまでの約1年を描く。

中堅どころの他社の編集者や自社の営業マンとやりあいながら、工藤は、これまで自分が担当したのは"売れる本"、"次が待たれている本"だったと気づく。売れるかどうかわからない、別に誰かが待っているわけでもないという原稿を、本にするには、そして売っていくには、今までの自分の経験は通用しないのだ、と気づいていく。

一度はぶつかり、仲違いした営業マンの若王子に、家永さんの『シロツメクサの頃』を重版するには、どんなふうに取り組めばいいかと相談したとき、若王子はこんなことを言う。

▼「…ものを売るのはむずかしい。人はなかなか買ってくれない。だから工藤さんと僕がこれからどんなに頑張っても、『シロツメクサの頃』は売れないかもしれない。でもそれを失敗とは思わないでほしいんです。販促活動の成果はぜったいにゼロじゃない。どこかの誰かが、たとえ一冊でも買ってくれたら、価値のあることだと思います。そう思わなきゃやっていけないというのもあるんですけれど。一冊はいつかきっと百冊になる。千冊にも、一万冊にもなる。本は特殊な商品です。数年後の誰かのために、その人を感動させるために、今、種を蒔いたり水をかけたりする。そんなことがほんとうにありえる世界だと、これは他社の営業マンに教えられました」(p.201)

「ものを売るのはむずかしい。人はなかなか買ってくれない。」と、『We』や他の本ををつくっていて身にしみる。試行錯誤の販促も、効いているのかどうか、正直よくわからない。もっともっともっと、『We』の魅力を、この本、あの本のウリを語る? あるいは、『We』のような雑誌は、これで食っていこうと思ってはイケナイのか。そんなことも、ぐるぐる考えてしまった。

『シロツメクサの頃』が本として出ることになって、工藤が、あらためて出版社側の対応のひどさ、いま売れているかどうかで人に対する態度があまりにも違うのはどうかと思うと口にしたとき、それを聞いた家永は、書き手も甘えてはいけない、本になるかどうか厳しい淘汰があるのは当たり前で、編集者が悪い、営業が悪い、本屋が悪い、読者が悪いと言いだしたらきりがない、振り向いてほしければそういう原稿を書くしかないのだ、と語った。

それでは作家さんだけが大変じゃないですか、曖昧が一番きついでしょうと言う工藤に、家永はこう言うのだ。

▼「きついけど、もともと創作とは事前に予想がつかないものだろう。無から何かを生み出し評価を待つ、要するに毎回、出たとこ勝負をやってるようなものだ。ちゃんとした約束や契約をするようになったら、無難なものばかりが増えるよ。曖昧でいい加減だからこそ、瓢箪から駒がある。誰ひとり考えもしなかった、とんでもない意欲作が出る。読みたいじゃないか、そういいうの」(pp.184-185)

毎回、出たとこ勝負といえば、『We』もたいがい出たとこ勝負な編集だ。前の号に、次号予告はとても載せられない。特集タイトルが決まるのは、たいがいその号の入稿直前で、それも、その号に並んだ特集記事からひねりだす。「特集」テーマがあって、次の号をつくるのではなくて、次の号をつくりこんでいって、最後に「特集」タイトルが決まる。

雑誌のつくり方として、相当イレギュラーだろうと思う。次はどうする、どうなるとドキドキもする(財政的なドキドキもある)。でも、そうやってつくっていくおもしろさがあるのは確かで、一つのテーマをぐぐっと深めるつくり方ではないけれど、「無から何かを生み出し評価を待つ」という点では、家永さんに妙に共感した。なかなか売れないのは、一つの評価なのかもしれないと思いつつ、11月、また次の『We』にかかる奇数月になって、がんばろうと思う。

(10/31了、11/1二読)
 
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作家=小説を書く人。 文芸編集者=小説のためになんでもする人。 老舗の大手出版社に勤める彰彦は、過去の人と目されていた作家の 素晴らしい原稿を偶然手にして、どうしても本にしたいと願う。 けれど会社では企画にGOサインが出なくて――。 いくつものハードルを越え、本を届けるために、奔走する彰彦。 その思いは、出版社内の人々に加えて、作家やその娘をも巻き込んでいく。 本に携わる人たち...
2014.06.09 11:47
 
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第42回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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