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松本竣介 線と言葉(コロナ・ブックス編集部)

松本 竣介 線と言葉松本 竣介 線と言葉
(2012/06/08)
コロナ・ブックス編集部

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『青い絵具の匂い』を読み、『求道の画家 松本竣介』を読んで、今年の生誕100年展にあわせて編まれたらしいこの本を借りてみた。竣介の作品と言葉が、いくつも収められている。

表紙カバーの絵や、たくさんのカラー図版をみて、『青い絵具の匂い』の「青」に、あらためて気づく。

1940年の10月に開いた個展にあたり、「個展に際して」という案内文で、28歳の竣介はこんなことを書いている。

▼絵を描くことが好きでありながら、画家になる望みを一度も持たなかった僕が、十四の時に聴覚を失ひ、此路に踏迷ひ十五年の迂路を経た今日、やうやく、絵画を愛し、それに生死を託することの喜びを知り得たといふこと、それが、今、言ひ得る唯一の僕の言葉です。(p.67)

聴覚を失ったために、竣介は徴兵をまぬがれた。聴覚を失ったために、画家になることを決めたともいう。聴覚を失ったことは、松本竣介の生を、ある方向へ向かわせたともいえる。
とくに1941年頃からあと、「異常といえるくらいに段取りを踏んで」なされたという松本の制作過程を、原田光(岩手県美の館長)が書いている。

▼…小さなスケッチブックをポケットへ入れて街を歩いた。ちょっと寂しい場所(略)息ついて、さっとスケッチをとる。家に持ち帰り、気に入った居場所のスケッチについては、大きめのデッサンに描きなおす。またさらに、デッサンを線だけの下絵に作りなおす。場合によっては、影のところへ墨をいれる。ちょっとした方法を使って、それをカンヴァスに転写する。これが油絵のベースになる。やっとのこと、そこから油絵制作が始まる。…(略)…多分、画家である自分という存在の客体化をはかっている。いったん絵を無機物に変え、突きはなし、遠ざかり、そうしてから、また引きつける。(p.58)

こうした段取りは、「たんなる制作上の方法ではあるまい」(p.58)と原田は言い、「妄想と誇張とデマと命令でかたまったファシズムの非合理に突きつけた生き方の合理主義として、あえてこの制作過程を自分に強いたといえなくはない」(p.58)と記している。

竣介の作品が、見たままを描いたものではなくて、まるで自分をくぐらせたように、構成されたものだということはぼんやり知っていたが、「主観では足元をすくわれる」時代に、あえて主観を突きくずすような段取りを踏むことで、自分の見ているもの、そして見ている自分自身を、竣介は問うたのかもしれない、と思った。

生誕100年展をみにいくゆとりはなさそうだけれども、どこかで、ゆっくり竣介の作品を見たい、と思う。

(10/21了)
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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