読んだり、書いたり、編んだり 

アンのゆりかご―村岡花子の生涯(村岡恵理)

アンのゆりかご―村岡花子の生涯アンのゆりかご
―村岡花子の生涯

(2011/08/28)
村岡恵理

商品詳細を見る

京都で念入りに本屋をうろついたときに、読みたくなって買った本(図書館にはあるやろなーと思っていたが、文庫はなかった)。何年か前に単行本が出たのは知っていたが、読みそびれたまま、もう文庫になっていて、それも一年前だった。

村岡花子が「赤毛のアン」の訳者、ということはもちろん知っていた。私が最初に読んだ『赤毛のアン』も、村岡花子の訳だった。いま、本棚には当の『赤毛のアン』が見当たらないが、私が初めて読んだのは、講談社から出ていたハードカバー(箱入り)のアンシリーズで、本文は二段組み、挿絵は鈴木義治のもの。この箱入りの本を3巻まで(『アンの青春』『アンの愛情』まで)親に与えられ、あとの巻は図書館で借りて読んだ。

アンがらみでは、『赤毛のアンの手作り絵本』という鎌倉書房のシリーズ3冊(これは3年続けて、誕生日に与えられた記憶がある)は、アンの物語以上に熟読し、いろいろ作ったりもした本だった。※今この本は白泉社版が手に入るらしい

アンの物語は知っているが、訳者のことは、ほとんど全く知らなかった。孫が書いたこの評伝で、アンを日本に紹介した訳者・村岡花子にぐっと興味をもった。明治の女性たちの伝記や評伝は、いっときずいぶん読んだ。いまに名を残している女性の多くは、教育を受けられたとか、経済的に豊かであったとか、よほど変人の親がいたとか、当時にあってはよほどぶっとんだ何かがある。

村岡花子の場合には、娘をミッション・スクールの給費生にした父親がいた。「はなは自分の勉強のことだけを考えればいいんだ」(p.29)と言い聞かせた父は、クリスチャンで、社会主義者の活動にも加わっていたという。

明治半ばうまれの女性が、ミッション・スクールで学び、英米文学と出会い、翻訳家として身を立てるようになる。その生涯のなかで、アンの物語との出会いは、戦時下に日本を離れた母校のカナダ人宣教師が、友情の証にと花子に贈った一冊の本だった。
敵国側の物語を翻訳していると知れたらどんな咎めを受けるだろうという戦中に、花子は原書とその訳稿を風呂敷に包み、これは自分にとって家族の命の次に大事な本だと言って、守りぬいた。「アンの言葉に励まされ、きっと、平和な日が訪れると信じて」(p.299)、花子は翻訳を続けていた。この物語が、戦時下の花子を支えた、という。

それは、例えばアンのこんな言葉だ。

「いま曲り角にきたのよ。曲り角をまがったさきになにがあるのかは、わからないの。でも、きっといちばんよいものにちがいないと思うの。」(『アン・オブ・グリン・ゲイブルス』)

明治期に創設されたミッション・スクールは、女子教育の大きな砦であった。時代ということも、もちろんあるだろうが、花子が高等科まで学んだ東洋英和を卒業するとき、校長のミス・ブラックモアがMy girls!と呼びかけた言葉は、心に残る。

▼「今から何十年後かに、あなたがたが学校生活を思い出して、あの時代が一番幸せだった、一番楽しかった、と心底から感じるなら、私はこの学校の教育が失敗だったと言わなければなりません。人生は進歩です。若い時代は準備のときであり、最上のものは過去にあるのではなく、将来にあります。旅路の最後まで希望と理想を持ち続けて、進んでいく者でありますように」(p.107、これはブラウニングの詩の一節を引いて語られたものだという)

花子がクリスチャンであったことは、おそらくその生き方と切り離せない。晩年に至るまで英語圏に渡ったことがないにもかかわらず、花子が自在に英語を話し、書き、翻訳もこなしたのは、東洋英和という空間での相当に密度の濃い時間があったからで、寄宿舎で女性宣教師たちと寝食を共にしたこともまた花子の血肉になったのだろう。

花子の生い立ち、東洋英和卒業後の教職、そして翻訳や編集の仕事、結婚、関東大震災、わが子の死、戦争、そして赤毛のアン。この時代を生きた女性という意味で興味をひかれるエピソードもたくさんあった。時代の波も感じたし、花子の熱さもひしひしと感じた。

5章につけられた「魂の住家」というタイトルには、石井桃子の自伝的小説『幻の朱い実』を思い出しもした(石井桃子は村岡花子の14歳下で、この本にも登場する)。この石井の本の蕗子と明子の話を引いて、木村栄さんは「自由な精神の実家」ということを書いていた(『女友だち』)。

ずいぶん前に読んだきりだが、「赤毛のアン」シリーズを久しぶりに読みたくなった。そして、村岡花子の他の訳本も、花子の訳だと認識して読みなおしてみたい。

この本は血縁の孫が書きながら、書く対象の祖母との距離感のバランスがひじょうによかった。身内だからこそ書きにくいこともあっただろうと思うが、アンのゆりかごとなった祖母を、よく資料も調べて時代の中に位置づけながら書き上げている。最後まで読んでから、またてっぺんに戻って二周読み。

(10/19了、10/20二読)
 
Comment
 
 






(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
 
Trackback
 
 
http://we23randoku.blog.fc2.com/tb.php/4493-b3932563
今年の4月より放送が開始されましたNHK連続テレビ小説「花子とアン」ですが、「あまちゃん」「ごちそうさん」に引き続き視聴率も高くなかなか好調のようですね!物語の舞台は、村岡花子さんの生家がある山梨と東京がメインになりますが、山梨出身の私にとってもロケ地が気になるわけで・・・
2014.05.29 21:38
 
 
プロフィール
 
 

乱読ぴょん

Author:乱読ぴょん
    乱読ブログバナー
本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

amazonへリンク

 
 
最新記事
 
 
 
 
最新コメント
 
 
 
 
カテゴリ
 
 
 
 
Google検索
 
 


WWW検索
ブログ内検索
Google
 
 
本棚
 
 
 
 
リンク
 
 
 
 
カウンター
 
 
 
 
RSSリンク
 
 
 
 
月別アーカイブ