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求道の画家 松本竣介―ひたむきの三十六年(宇佐美承)

求道の画家 松本竣介―ひたむきの三十六年(宇佐美承)求道の画家 松本竣介
―ひたむきの三十六年

(1992/12)
宇佐美承

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『青い絵具の匂い』のあとで、図書館で借りて読んだ本。

ことしが生誕100年の松本竣介は、画家の道を歩みはじめたのちも、画家だけではない顔をもっていた。自らのアトリエを「綜合工房」と名づけて、1936年に妻の禎子さんと共に「雑記帳」という雑誌を創刊している。24歳の頃である。"随筆(エッセエ)雑誌"と付したこの「雑記帳」が出たのは、宮澤賢治が37歳で死んで3年というとき。まだ賢治を知る人は少なかったが、同郷だった竣介は知っていて紹介を書いている。1年あまり続いた雑誌は、1937年の12月号、通巻14号で廃刊となる。

雑誌を出し続けることは当時もたやすいことではなかったと思うが、「綜合」と名づけた工房の名に通じるように、この雑誌に書いた人たちの幅広さに驚く。この本には表紙の写真があるくらいだが、どんな雑誌だったのか、どこかで見られる機会があれば、見てみたいと思う。
1940年、紀元二千六百年といわれた年、すでに国民精神総動員運動が始まっていた。竣介は「黒い花」を描き、前衛グループ「九室会」の第二回展に出した。その機関誌にも「号令をかけてさへゐれば社会に有用であるといふ考へは強[あなが]ち不当ではないところに怖ろしい現実がある」(p.108)と竣介は書いている。

『みづゑ』の紀元二千六百一年新年号に掲載された「国防国家と美術-畫家は何をすべきか」では、三人の軍人が語っていた。なかでも鈴木少佐の発言は過激で、引かれている鈴木発言を読んでいると、なんというか、維新の会の橋下のようだ。

「大事なのは国家であって文化は国家の産物にすぎない。だから総力戦にそなえて絵描きも国策に協力すべきだ」と。わけてもここ、「いうことをきかないと絵の具の配給をとめる。展覧会をひらかせない」「協力できないやつは外国にいってもらう」。(p.127)「配給を停止し、展覧会を許可しなければ飯の食いあげだからついてくる」(p.128)

竣介はこれに反論を書きたいと『みづゑ』編集部に申し入れ、その年の4月号に(生きてゐる兵隊になぞらえて)「生きてゐる画家」と題した文章を書いた。

エピローグには妻・松本禎子さんの話が載っている。
中途失聴した竣介に雑談の要素がなかった、というところが、ぐっとくる。

竣介の絵も好んでいたコレクターの洲之内徹が、竣介には批判ももっていて、「あのキンキン声のタテマエ論が大きらいだ」と書いた。

▼とにかくその洲之内さんと、あの方の銀座の画廊でお会いしたことがございましたが、雑談中にふと、ああ、竣介はこういう雑談ができなかったんだわ、それでタテマエ論が多くなったんだわと気づいて、あれこれ申しました。
 つまり竣介の場合、会話は筆談でございますから相手からは要旨しかつたわってまいりません。そのうえに活字で得た知識が加わります。そんなわけで竣介のコミュニケーションには雑談の要素がなかったのでございます。また耳がきこえませんでしたから、自分のことばの反応を確かめたくて、つい話し方も書き方も気負ってしまい、一方的になってしまうのでございます。自画像のことはさておいて、洲之内さんにそんなことを申しあげました。(p.193)

聴者が圧倒的マジョリティのなかで、失聴した竣介が雑談に加わることは難しかっただろうし、今だって、異なる言語どうしのあいだ、例えばろう者と聴者のあいだでの雑談はやはり難しいと思う。

他の同僚がいる「職場」の大きな要素の一つは雑談だと、主に一人で仕事をする私は痛感するだけに、雑談の難しかった竣介に、そこのところは共感をもつ。

(9/23了)
 
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第43回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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