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毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記(北原みのり)

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記
(2012/04/27)
北原みのり

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ずらっと予約がつくような本かと思ったら、図書室で空いていたので借りてみた(私が借りたあとで、ぱたぱたと予約がついたようだ)。「ブックマーク」つくって発送がすんだ晩に、読む。サブタイトルにあるように、被告人・木嶋佳苗さんの100日にわたった裁判員裁判の傍聴記である。「できるだけ法廷の空気や、佳苗の様子を書いていくことを心がけた」というように、証人の言葉遣い、検事や弁護士の立ち居振る舞い、佳苗の服装や表情が、傍聴する北原自身の感想とともに記されている。

裁判を傍聴した著者の北原みのりは、「木嶋佳苗という女が、全く全く全く、分からなかったから」事件に興味をもったのだという。これまで女性の犯罪者には、どこかで(同じ状況だったら私も同じことをしたかもしれない)という想像ができたし、どこかで共感や同情がもてたけれど、木嶋佳苗に対しては、そういう感情が一切持てなかった、こんなことは初めてだった、というのだ。

▼分からないからこそ、彼女を知りたいと思った。なぜなら、時代と社会の空気と無関係な犯罪なんて、ないから。彼女の事件から見えてくるのが、女と男とセックスの問題ならば、なぜこんな事件が起きたのかを知りたい、知らなくちゃという思いになったから。(p.6)

そして北原は、裁判を傍聴しながら、「毒婦と呼ばれた女とは何か」を考えていく。毒婦、セックスを利用し男たちを陥れる女、という含みのある言葉。だが、女性の犯罪者に「毒婦」と貼り付けながらも、北原が書くように、女に対するダブルスタンダードはずっとある。「女は、毒婦のように魅力的であれ、しかし毒婦にはなるなと、言われ続けているようなものだ。」(p.198)
木嶋佳苗は、3件の殺人、3件の詐欺、3件の詐欺未遂、1件の窃盗で起訴され、3件の殺人については無罪を主張、詐欺については一部を認め、窃盗は否認していた。

証言台に立つ男性たちの話を聞き、その言葉をメモに取りながら、何かが引っかかる…と北原は思う。そして、ある日の公判が終わって、傍聴に来ていた若い女性の会話に、そうだと気づく。「中出しは言われたままにするのに、結婚は親に反対されたからダメだなんておかしいよ!」(p.54) その言葉に、北原はどこに引っかかるのかを書く。男性たちの「ブスな姉ちゃん」という言葉が、「セックスをしたがらないから信用した」という言葉が、引っかかる。

▼女はとっくに白馬の王子なんて、この国にいないことを知っているというのに。それなのに、男は婚活サイトというシビアな市場を利用しながらも、のんきにカボチャの馬車に乗った姫が、自分の目の前に現れるとでも思っているの? お姫様にあげるガラスの靴すら持っていないというのに。(p.55)

そして、男性たちの証言を聞きながら、「もし、これが男女逆だったら?」と北原の頭には浮かぶ。佳苗のやったこと、男性たちのやったことを聞きながら、女と男の非対称性に改めて気づかされると北原は書く。
▼初対面の男とホテルに行く女性や、男の家にすぐあがる女性や、婚活サイトで男を探す女に、世間は"ピュア"と言うだろうか。ラブホテルで睡眠薬を飲まされた女を"純情"と言うだろうか。「被害者にも落ち度があった」という聞き慣れた言葉がもっと飛び交うんじゃないか。(p.74)

なぜか男たちがやったことは、"ピュア"で"純情"だといわれるのだ。「被害者に落ち度があった」と言いたいわけではないが、おそらく同じことを女がやったら、かなりの割合でそう言われるだろう、と私も思う。

北原は裁判と同時に、佳苗の周辺を取材し、そこから見えてくるのは「佳苗が、ある面では非常に凡庸な女であったことだ」という。

▼母との関係に悩み、近代的な父の矛盾に引き裂かれ、欲望を抑えられず、ブランドで飾り立てずにはいられない虚栄心を抱え、強烈な自己顕示欲をもてあまし、男にいらだつ。佳苗が自慢する男性関係だって、その価値は凡庸だ。…
 男からは金を得る。その対価として女は"愛"を与える。そんな風に考える女は、いくらだっている。…佳苗を、佳苗の愛や男性観故に毒婦というのなら、たいていの女は毒婦であろう。…
 佳苗はこの社会にいきる多くの女と同様に、凡庸に引き裂かれてもいた。(pp.199-200)

 佳苗は、…自分の「女としての価値」を最大限に利用し、男たちと交渉し続けた。「結婚詐欺」という昔ながらの詐欺にもかかわらず、この事件が「新しかった」のは、佳苗の背後に佳苗に似た女の子たちが、たくさんたくさんたくさんいたからだ。殺人は別として、佳苗の男への苛立ち、佳苗の男へのドライさは、ある世代の女ならば誰もが共有する感覚である。(p.203)

この北原の本を読んで思ったことは、「ある面で非常に凡庸」という佳苗の愛とかセックスの問題は、たしかに古くて新しいということ。

金銭的な生活の支えの要求と、その見返りとしての愛情表現─結婚が"永久就職"だとか女の食っていく手段だというのと地続きだという意味では、佳苗の言動は何も珍しくない。今だって、婚活だの相手探しだのをしようという人に求められるのは、男なら安定した収入だが、女には明示的に求められるものはほとんどない(女の学歴が高すぎるとか背が高すぎるのは、かえって疎まれるという)。佳苗の言動に新しさがあったとすれば、「私は、セックスがいいのだ」とハッキリ言えることではないかと思う。

佳苗の、お金で満たした欲望や消費は、私にはあまりよくわからない。でも、佳苗のいだいた男への苛立ちは、私もわかる気がする。

(8/26了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第41回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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