読んだり、書いたり、編んだり 

俺に似たひと(平川克美)

俺に似たひと俺に似たひと
(2012/01/20)
平川克美

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医学書院の「かんかん」(看護師のためのwebマガジン)で連載されていたのが本になったもの。図書館で数ヶ月待っていたのが届く。
図書館の分類は913、小説である。
そうか、これは小説だったのか、と読み終えて思う。

父親を介護した1年と半年、その間の「俺」と「俺に似たひと」との物語。
「俺」というフィルターを通して浮かびあがってきた、さまざまな記憶。

読みながら、この2、3年、とりわけヨロヨロとしてきた父のことをずいぶん考えた。「俺」の父親は86歳、父はそれより10年ほど若いが、このあとさらに歳をとっていけば、その体の具合や心のもちようは、こんな風になっていくのかもしれないとも思った。
父はこないだ小さな手術をうけた。手術をうけることも、検査にいったりすることも、全部一人で決めてやった父だったが、手術で切った場所が、背中の脇のほうで、自分ではうまく手が届かない。それで、術後の消毒に通った近所の外科がやすみの日に「消毒にきてくれ」と頼まれて、様子をみにいった。

父の背中の傷を消毒し、ガーゼをあてて、テープで止めながら、手術をした病院の医者は、後期高齢者の歳になったじいさんが、なんとか一人で暮らしているということを、あまりわかってないのかもしれないと思った。

▼飯をつくって、掃除をして、ゴミを出して、仕事をして、また飯をつくって、洗濯をして、父親を風呂に入れて、洗濯物を干して、自分の机の前に座って珈琲を飲んで、一服していたらもう寝る時間になっている。
 人並みの生活をしていくために最低限しなくてはならないことはさほど多くはないが、それを毎日きちんと続けて習慣にするためには、結構多くのやりたいことを諦めなければならない。そして、この習慣にはそれだけの価値はあると思えるようになった。(p.106)

「俺」の父親は、家事全般を妻に任せっぱなしだったというが、父は、自分の家事を今のところほぼ自分でやっている。一人で住む暮らしを調えることと、年相応の医者通いで、父の時間はかなりうまっているようだ。家事はだんだん負担になってきているようで、以前は通信販売などはほとんど使わなかったが、この頃は重いものが持てなくなったと言い、ネットで何かを買ったりもするらしい。

そんな父の生活を、私なりに少しは気にしているのは、やはり、ええ歳のじじいの一人暮らしだからというのはある。絶対にスープの冷める距離でなければ、この人とつきあうのは勘弁…と今も思っているが、父が歳をとったのと同じだけ自分も歳をとったからか、昔ほどは父の言動にどうこうと思わなくなった。

「俺」の思いや、父母の姿をみつめる「俺」の観察を読みながら、わかるな~と思うところもずいぶんあった。

▼俺と父親との間には、何十年にもわたるわだかまりがあった。…俺は、政治信条も、思想も、宗教も、生活習慣も違うこの父親とは和解することができないのではないかと、どこかで諦めていたのだろう。
 しかし、一年半一緒に父親と暮らすなかで、以前は相容れなかったかに思えたことが、実は取るに足りないものであったこと、ものの考え方も性格もよく似ているということを思い知らされた気がした。(p.222)

父親が便秘のときには、お尻の穴に指を突っ込んで摘便することもあった「俺」は、年寄りの大腸は伸びきったゴムホースみたいになっていて、便を体外に送り出すための蠕動運動などかなわないことをまさに手の実感として納得する。

そうした父親の体、歳をとった体がどういう不具合に困るかということを、一年半の介護で「俺」は体感する。そういう体に、いずれ自分もなっていくんやなあと、そのことも思いながら読んだ。

小説だからというのもあるのだろうが、今まで読んだこの人の他の本とは、だいぶ印象が違った。

+++
『俺に似たひと』の平川さんと、
『驚きの介護民俗学』の六車さんと、
『困ってるひと』の大野さんの鼎談

「後ろ向きでいいじゃない」

大野 私は『困ってるひと』を闘病記のつもりで書いたわけじゃないんです。平川さんも介護本として書いたわけじゃなく,六車さんも認知症の介護について書こうとしたのではないと思います。それは宮本常一のように文学に近いのかもしれない。

六車 …医学とか,制度とかといったものには回収されないような,日常の断片を丁寧に拾い集めていく作業が,まさにケアなのかもしれません。

平川 …介護は,修羅場であると同時に「日常」なんですよね。そこに3.11の震災があり,もし親父の介護がなかったら間違いなくすっ飛んで行くところだけど……。

(7/23了)
 
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Author:乱読ぴょん
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本ネタのミニコミ誌『ブックマーク』を編集発行しています(1990年9月創刊~ 昔は隔月発行でしたが、今は年2回発行で、現在87号)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2014年4月(313号)より「本の道草」を連載中(現在、第39回)。

月刊誌『ヒューマンライツ』で、2004年3月(192号)より2014年3月(312号)まで、本ネタ「頭のフタを開けたりしめたり」を連載(全119回、連載終了)。

『くらしと教育をつなぐWe』誌で、1999年4月(71号)より2014年2月(188号)まで、本ネタ「乱読大魔王日記」を連載(全118回、連載終了)。

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